第48話

「あなたは魔法もピアノも中途半端なのよ。魔法は姿変えしか出来ないんでしょ?

レネックに行き来出来たのは、私の使った道を辿ったからね?」


シルヴィには何もかもお見通しのようだった。きっとローランがギィを嫌いなのも、その理由もわかっているはずだ。

ローランは少しでも、シルヴィに近づきたいだけなのに。


「あなたは、ピアノに集中するべきよ」


「それじゃ君と一緒に旅が出来ないじゃないか」


「どうして? 私の行く国で、演奏すればいいじゃない。世界は広いのよ。次元を越えた世界で、ローランのピアノが受け入れられたらすごいことだわ。私は昔から、ローランのピアノが一番好きよ」


それはシルヴィにとっては、ギィのピアノは二番目だということだ。


「シルヴィ……僕、頑張るよ!」


二人はつないでいた手を、強く握り合った。


アンコール曲が終わり、イェレとカロリーナがエミリアンを押し出し、ギィのそばへ連れて行く。

店内の客がはやしたてる中で、エミリアンはギィの左頬にキスをした。

そんな子供だましのようなキスに、「もっと熱いやつを!」と声が上がる。

赤くなるエミリアンを抱き寄せて、ギィは艶っぽく笑った。


「それは後で、二人きりになってから」


エミリアンは恥ずかしくて、ギィの胸から顔を上げられなくなってしまった。


ギィは片手で観客を制して、エミリアンを外へ連れ出した。

空からは、ひっきりなしに雪が降ってくる。


街灯の明かりに照らされて、エミリアンには本当の雪の色がわからなかったが、あきずにずっと真上を見ていた。

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