第52話
シルヴィは話した。
魔法の勉強のために、時間をかけ愛情を込めて、一つの種を作ったことを。けれど、自分に上手に咲かせることが出来るのか、不安だった。
思いを込めて作った、世界に一つの種。綺麗に咲いてほしい。
あちこちの空間を旅して、やっとデュレー家の庭園に辿り着いた。一目で、シルヴィはこの庭が好きになった。ここでなら、きっと綺麗に咲いてくれる。
「リシャールは腕のいいガーデナーだし、エリーズは料理上手で、夫婦の仲はいい。ロシェルなら友達になってくれる。そう思って、私はこの家の庭にエミリアンを埋めました」
リシャール、エリーズ、ロシェルをそれぞれ見て、シルヴィはにっこりと笑った。
「初めてエミリアンを見たときは驚いた。ホワイト・ガーデンに、金色に輝くバラが咲いていたんだ」
リシャールが思い出すように言うと、エリーズも頷いた。
「ええ。そのバラが赤ちゃんだったの。人形の赤ちゃんのように小さくて、でもちゃんと生きていて。私達は子育ての仕方を調べて、三人で世話をしたわ」
ロシェルもエミリアンの手を握って、笑った。
「初めてしゃべった言葉は『エミリアン』。それが名前になりました。
二、三日したら、五歳くらいの子供になって。一週間もしたら、こんなに大きく、美しく成長して」
「そして、恋を知ったのね」
エリーズは優しい笑顔をギィに向け、「ありがとう」と言った。
「大切にしてくれたのね。ありがとう」
「でも、僕は何も知らなかった。レネックは温暖だって言ってた。ここにいれば、エミリアンは……」
冬を越すことが出来たはずだ。
ギィは後悔に顔を歪める。
「私が、秘密にしておいたほうがいいって言ったんです」
ロシェルも後悔していた。あんなことを言わなければ、エミリアンはずっとここで生きて行くことが出来たのに。
その思いを感じて、エミリアンはロシェルの手を握り返した。
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