第5話

「キリト。大丈夫か?」


店主である大将が声をかけてきた。


「あの方は一癖ヒトクセも二癖もある。気を付けておけよ。」


「心配してくれてありがとうございます。けど大丈夫です。」


そう答えて仕事に戻る姿を大将は不安気に見つめた。


「何もなければいいんだか…。」


その心配は的中する事となる。


店を閉める時間となり暖簾を閉まっているキリトに大将が声をかけた。


「キリト、今日はこれ、持って帰っていいぞ。」


「いつもありがとうございます。」


「残り物で悪いが、逆に助かっているさ。」


「いつも美味しくて…。僕は幸せ者ですね。」


「ハハ。そう言ってくれて助かるよ。明日もよろしく頼む。今日はもう上がっていいぞ。」


「はい。お疲れ様でした。失礼します。」


エプロンをはずし、頭を下げ店を出る。


大将がいつも見送ってくれる夜の道を歩きだした時、前から一人の男が歩いてきた。


「鬼頭様?」


「名前覚えてくれたんだね。今帰りかい?」


「はい」


キリトの脳裏に浮かんだ言葉は"待ち伏せ"だった。


「実を言うと君の事が気になってしまってね。もう少し君の事を聞かせてもらえないかと思ったんだ。もしかしたら、何か力になれるかも。良かったら今からどこか飲みに行かないか?」


"デートの誘いかよ"


そう思いながらも迷っているフリをしていた。

だが、後ろから足音が近づいてきた。


「鬼頭さん、本日はお越しいただきありがとうございました。すいませんがこいつはうちに来ることになってまして申し訳ありませんがまたの機会にしていただけませんか?」


大将が鬼頭とキリトの間に割り込んだ。


「大将。そうか、申し訳ない。たまたま時間があったから誘ったんだが…。予定があるなら仕方がない。又にしよう。

風間君、今度店に行かせてもらった際はぜひ時間をくれ。一人で大変だろう?力になれると思う。」


「ありがとうございます。その時はぜひ」

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