接近
第16話
ー接近ー
夜の公園で鬼頭に会った次の日からキリトは部屋探しを始めた。
どうせなら店に近い方がと近辺を探したがなかなか条件にあう所が見つからない。
15時迄探し、店に行く。これが1日の流れとなり4日がすぎた。
5日目、ほおずき出勤した。だが、この日はなぜかミスを連発し思う様に事が進まない。
「キリト、どうした?今日は身が入ってないぞ。」
「すいません…。」
「もう帰れ。お客様に迷惑をかけるわけにはいかないからな。明日休んで気を入れ直してこい!」
「すいません!大将、ちゃんとやります。だから…」
頭を下げ謝るが大将は帰れの一点張りで、諦めて帰ることにした。
アパートに帰ると部屋の前に女性が立っていた。
「何か用ですか?」
キリトの言葉に女性は振り返り驚いた顔をしていた。
「あの…」
言葉を遮るようにドアが開き、同居人が出てきた。
「ゴメン、待たせて。ちょっと片付けてたんだ。」
彼女の目線をたどりキリトを見つけると、まるで他人のように無視をした。
そして彼女を部屋に入れた。
突然の事でキリトがどうしていいか分からず、立ちすくんでいると再びドアが開き同居人が出てきた。しかも、キリトの少ない荷物を紙袋に入れて。
「見て分かったろ。だから悪いな。今すぐ出てってくれ。」
「待って、まだ部屋が見つかってない。」
「知るかよ。そんなこと。」
そう言うと荷物を投げ捨てるかのように放り出しドアを閉め中から鍵をかけるおとがなった。
しばらく呆然と立っていたが荷物を拾いアパートを後にした。
キリトは何も考えず歩いていたが気がつくと前にいた公園に着いた。
(今日の寝床はここか…。)
重い足取りで公園内に入りベンチにすわった。
何分、いや何時間、時間の感覚も無いまま座っていると突然話し掛けられて顔を上げた。
「やっぱり、キリト君?」
「…鬼頭さん…。」
「どうしたの?」
「鬼頭さんこそ、なんでここに?」
「いや、実はさ、ずっと気になってて、昨日までは忙がしくて来れなかったんだ。たまたま今日来てみたら…。いつから?」
「さっき追い出されてしまって…。」
「どこか行く場所は?ホテルかなにか?」
「あっ…。そうですね…。でも、ここでもいいかなって。ハハハ…ッ。」
「行くところがないならうちに来る?一人暮らしだし、部屋も空いてるしね。」
キリトは暫く考えていたがクスッと笑って答えた。
「ありがとうございます。嬉しいです。けどやっぱり止めておきます。彼女さんに迷惑だろうし…。」
「いないよ。」
「えっ?」
「彼女…」
キリトは大きく目を見開きまじまじと鬼頭を見た。
「そんなに驚くことか?」
「あっ。すいません。こんなにかっこいい人なのに信じらなくて…。世の中の女性は見る目がないんですね。俺だったら絶対に惚れるのに。」
今度は鬼頭が驚いて固まった。そして豪快に笑いだした。
「やっぱり君、面白いね!……よしッ。決めた。行こう!」
「は?えっ?」
鬼頭はキリトの横にある紙袋を持ちキリトの腕をつかんで歩きだした。
「ちょっ、き、鬼頭さん…」
キリトは突然の事に前のめりになりながらついていく。かろうじて鞄を持って。
着いたのは近くの駐車場。
後部座席に紙袋を入れると運転席に乗り込もうとしたがキリトが動かず、いや、動けずにいた。
「どうした?乗って、ほら早く!」
「あっ…でも、やっぱり…。」
「いいから。乗りなさい。ほらっ!」
押し込まれる様に助手席に座らされた。ご丁寧にシートベルト迄着用してくれたのだ。そして車は静かに夜の道へと走り出した。
その車を見つめる二人の男。
「うまくいったようだね。」
「あぁ。これからが本番だ。ぬかるなよ。カラス念のため追跡しといて!」
「了解!」"了解!"
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます