全ての始まり

第1話

<1>


「母さん!」


僕の目には倒れて動かない母が写っていた。

急いでかけより母の肩を揺すったが、反応か無い。

うつ伏せで倒れている母を起こそう上向きになるように体を押した。

母の腹部が真っ赤に染まっている。

僕は必死で母を呼び、自分が着ていたシャツを脱いで押さえた。

母を呼び続けた。

すると母がうっすらと目を開けた。


「母さん!すぐに救急車呼ぶから!」


すると母は僕の手を握りしめ小さい声を絞り出した。


「翔……逃げて…。」

「えっ?…」

「これ…を…大事に…逃げなさい!」


母が無理やり僕の手に握らせたのはペンダントだった。そして、母の手が落ちた。


「母さん!逃げろってどういう事…。誰から…、母さん、しっかりしてよ、置いてかないで、一人にしないで…母さん!母さん!」


何度呼びかけても母は目を開ける事はなかった。

その時2階からガタッと音がした。僕はハッとして思わず台所へ逃げた。

母とよくかくれんぼをした時に隠れていた納庫に無意識で隠れた。

僕は息を殺すため口を手で覆った。本能的にそうするべきだと感じたからだ。そして外から鳴る音に集中していた。


誰かが近づく足音が聞こえる。いっそう集中し息をするのを忘れるほど耳を澄ます。


頭の中で母の逃げろと言う言葉が木霊する。

音をたてたくないのに涙が溢れだし体が震える。


"怖い"


「オイ!見ろ、カバンだ。」

「ガキが帰ってきたのか。」

「まずいな、居ないってことはサツ所に行ったか…。」

「とにかくすぐにずらかるぞ。後を残すなよ。」

「でも、ガキはどうするよ。」

「何にも出来ねーよ。確か10歳そこらだろ。」

「見つけたら始末していいんだよな。」

「好きにしろ。」


そんな会話を聞いてしまい恐怖が膨れ上がるばかりだった。


(母さん、助けて。)


足音が近づく。近くに居るのがわかった。

顔を挙げるとほんの少しの隙間から男が覗き込むように見ていて、一瞬目があったように感じた。

必死に声を出さないようにこらえたが涙が溢れ出るのを止めることは出来なかった。


しばらくして静かになったが恐怖はぬぐえず出る勇気はなかった。いつのまにか意識が途絶えた。

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