第21話
バスルームから出たキリト(アゲハ)がリビングに行くと鬼頭が一人晩酌をしていた。
「飲むかい?」
「少し頂きます。」
ソファーの向かい側に座ったキリトを鬼頭はじっと見つめる。
「顔になにかついてますか?」
「あっ、イヤ、ゴメンゴメン。今までどんな苦労をしてきたんだろうって思って。余計なお世話だよね。」
キリトは少し沈黙したがゆっくりと話し始めた。
「突然でした。両親が乗った車が海に突っ込んで、事故なのか自殺なのか…。もしかしたら殺されたのか…。幼かった自分には分からなかった。誰も教えてくれなかったんです。会ったこともない親戚をたらい回しにされて最後は施設に。後から知ったのは両親の遺産は全て親戚が分けあった事。分け会うための条件が一時的にでも自分を引き取ることだったんです。」
「遺産目当てか、ひどいな。」
「ですね。金の切れ目が縁の切れ目。
とにかく頑張って勉強して奨学金で何とか大学には入りました。」
鬼頭はじっと話を聞いていた。
「生活費を稼ぐためにバイトも始めて…それなりに順調だったんです。2年になると彼女もできました。その彼女が騙されて危ない仕事に手を出して。なけなしの金で話をつけたんですけど彼女がいなくなって。僕だけが騙されてたんです。他の男のところに行ってしまいました。笑えますね‼️」
失笑するキリトを鬼頭は真顔で聞いていた。
「笑えない。本当に大変だったんだね。僕の方がまだましだ。」
キリトはまじまじと鬼頭を見て慌てて否定した。
「そんなこと無いです!人それぞれ理由があるし、大変さって比べられないですよ!」
「…。本当に、キリト君、君って子は…。」
「鬼頭さん。ありがとうございます。話を聞いてもらってなんか吹っ切れた気がします。俺、そろそろ…。明日、大将に謝ってきます。」
「そうか。それが良いね。お休み。」
「お休みなさい。」
キリトが部屋に入ると、鬼頭はカーテンを開けて夜の町を見下ろしながらグラスの酒を飲んでいた。窓ガラスに映る姿は不適に笑みをこぼしゆっくりと口角があがっていた。
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