任務

第4話

<任務>


「キリト、藤の間に頼む。」


「はい。」


料亭 ほおづき。

一見さんお断りの店でとても落ち着いた雰囲気。店主である市木 昇はとても気さくで穏やかな人である。

勤め初めて2ヵ月しかたっていないにもかかわらず既に色々な仕事を任せてくれていた。


藤の間につくと襖を開ける前に声をかける。


「失礼します。」


静かに襖を開けて入り頭を垂れる。


「料理と熱燗をお持ちしました。」


「おぉ。待ってたよ!」


かなり年配の男性が手招きをした。


ー堺 厳次郎ー

政界の中でもかなりの大物政治家で政界の裏のボスと呼ばれている人物である。


この料亭の常連客だ。

向かい側に座っている男。


ー鬼頭 司ー

若くして弁護士免許を取得。

今では凄腕の貴公子との呼び名がつく程の若手ホープだ。


「鬼頭君、この酒はね私のおすすめだ。一度飲んでみなさい。」


「ありがとうございます。堺先生。是非ともいただきます。」


和やかなムードの中、鬼頭の視線はキリトにあった。


「おっと。彼は初めてかね。確か2ヶ月ほど前に入った子だよ」


突然堺がキリトを紹介する。

キリトは慌てることもなく鬼頭にあいさつをした。


「風間 キリトと申します。よろしくお願いします。」


鬼頭に向かって頭を下げた。


「よろしく。」


鬼頭は一言いった後キリトをじっと見つめた。

鬼頭がキリトに興味を示す事は分かっていた。何故ならキリトはこの日を待っていたからだ。


「君は今いくつかね。」

「もうすぐ21になります。」


堺の質問に淡々と答える。


「風間君、だったよね。学生さん?」


「はい、でも今は休学中です。」


「休学?」


「学費が用意出来なくて。」


「ご両親は?」


「二人とも他界しました。」


「ご兄弟は?」


「いません。」


「そうか。色々聞いて申し訳なかった。」


「いえ。」


鬼頭の質問に淡々と答える。


「どうだ。彼はいいだろう?しっかりしていて、私たちにも動じない。彼のそういったところが私のお気に入りでね。」


「なるほど、堺先生のおっしゃる通りです。」


そう言うと鬼頭は取って付けたかのような笑顔を見せた。

堺は迷うこと無くキリトの手を撫でている。


「君、鬼頭君に御酌してあげて」


「はい」


キリトはゆっくりと立ち上がり鬼頭のそばで膝をつく。軽くお辞儀をした後失礼しますと言ってお酒を注いだ。

鬼頭の目が弧をかくようになり一気に飲み干した。そしてもう一度お猪口を差し出す。

キリトは迷うこと無くお酒を注いだ。


「君も飲むかい?」


「申し訳ありません。仕事中ですので。」


そうかと残念そうに答える鬼頭だが、その目は妖しく光っていた。


「申し訳ありません。そろそろ次がありますので。失礼します」


頭を下げ静かに部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る