第51話

カトリは警視庁に呼ばれていた。


警視総監の言葉を聞き頭を下げ部屋を出る。

その顔は誰が見ても近づき難いほど怒り露にしていた。


警視庁を出た後、待ち合わせの喫茶店に入った。


「お待たせ。」


目の前には石津 実和がすわっていた。


暫く沈黙が続き実和の方から口を開いた。


「ありがとうございました。」


穏やかな声にカトリはほんの少し安堵した。


「見つけてくれて感謝してます。生まれてくるこの子のためにもがんばります。」


お腹に手を当て目に涙を溜めながらこらえる姿は母そのものだった。


「これを」


カトリは一つの箱を渡した。


実和は不思議そうに見ている。


「うちの捜査官が見つけました。伊藤拓哉さんがあなたに渡そうとしていたものです。」


実和は目を見開き震える手で箱を受け取り開けた。


そこには安産祈願のお守りと、鈴が入っていた。


実和はこらえきれず声を出しながら泣いた。


カトリは泣き止むまで静かに付き添っていた。


夜、カトリはトンビを連れて<ほおずき>に来ていた。


「いらっしゃい。あー、1度来ていただいたカトリさんですよね。」


「覚えてくれていたんですか?嬉しいな。あまりに美味しかったんで又来ました!」


「ありがとうございます。」


「大将?元気ないですね。」


「えっ?…分かりますか?」


「どうかしたんですか?」


「いやね、今ニュースになっている弁護士大量殺人事件、うちのお客だったんです。家で働いてくれてた子も巻き込まれてるかも知れなくて。風間キリトって言うんですが、連絡がとれてなくて。」


「それは大変ですね。」


「すごくいいこでね…。すいません、余計なことを。…なんにします?」


カトリは手を5回鳴らし大将の頭に触れた。


そして指を鳴らす。


「なんの話をしてましたっけ?」


「嫌だな、大将のお勧め、お願いしますよ。」


「あっ!これは申し訳ない。お勧めですね。了解しました。」


「急がしそうですね。」


「えぇ。猫の手も借りたいくらいで。どこかにいいこ、居ませんかね?」


トンビは一連の流れを見ながら一言も発しなかった。いつもこの処理だけは辛くなる。

仕方ないとはいえ、アゲハの事を忘れてもらうことが寂しく辛いのだ。


「大将、今度一人紹介してもいい?学生なんだけど仕事を探している子が居て。ただ、その子身寄りがない子なんだけど…」


「へー。頑張ってる子なんですね。ぜひ紹介して下さい!」


「ありがとう。助かるよ。近々、連絡居れますね。」


食事を済ませ<ほおずき>を出た。


「ボス、まだ慣れないです。辛いっすね。」


「仕方がない。アゲハのためだ。」


「ですね。」


カトリの言葉にトンビは暗くなった空を見上げながら感情を飲み込んだ。

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