第53話

新たな住まいを見つけ引っ越しをした。

部屋にはいるとカバン一つしかない荷物を起き窓を開けた。


「アゲハ。」


後ろから声をかけられ振り向くとロウがたっていた。


「気分は?」


「いいよ。」


「そうか。」


短い会話だったが二人には十分だった。


外を見ながらアゲハは独り言のように呟く。


「時々、自分が誰なのか、何のためにここにいるのか分からなくなるんだ。」


アゲハの横顔はとても儚げで陰を灯していた。


「俺たちがいる。」


アゲハは驚いたように止まったがロウをみること無くうつむき、顔をあげたときには優しい笑顔で万江をみすえていた。


「そうだね。ありがと。」


「ボスが夜食いに行くからアゲハを連れてこいって。お前が行かなきゃ俺も行かない。」


アゲハはフフフと笑いながらロウを見た。


「選択肢無いね。じゃあ、行くしかない。」


2人は笑いあった。


夜待ち合わせ場所に行くと、そこは見慣れた場所だった。


アゲハの足が止まる。


「まってた。行こうか。」


ボスは躊躇すること無く暖簾をくぐり、アゲハとロウ、カゲも続いた。


「いらっしゃい。カトリさん。」


「大将。連れてきた。よろしく。」


「どうも。来ていただいてありがとうございます。コチラ付け出しです。」


そう言ってほおずきの大将は小鉢を出した。


アゲハは大将を見ている。


大将は全く気にしていない


(そうか、もうボスが処理したんだ。)


アゲハは理解した。大将はキリトを覚えていない。今はじめてあった。という事実だけが残った。


大将が奥に向かって声をかける。


「陸人!次、藤の間に頼む。」


そこには田島陸人がいた。


「はい!」


「カトリさん、良い子、二人も紹介してくれてありがとうございます。よく働くし、気が利くしほんと助かってます。」


「大将、褒めすぎです。調子に乗っちゃいますから。」


「ハハッ。本当の事だ。」


カトリは何事もないかのように答えた。


「よかったよ役にてて。田島君も頑張って。」


「ありがとうございます。」

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