27弾 恋の悩みをなんとかしよう

「ローウェルさんにはおごりにしたんですけど、メム様までがっつくことはないでしょうに。」


 組合本部の寮の部屋に戻って、今後どうするか考える。とはいえ、おごりを拡大解釈した元女神猫はローウェルさんの食べ残しも含め、たらふく飯を食らった。


「失礼ね、そんな食べてないわよ。たった10人前でしょ。」


「いや、大食いしているのは変わらないのですが…。」


「そんなことより、どうするの。ローウェルの恋バナ。相手を探してあげるの。」


 聞いた話はこうである。

 約20日ほど前に、ローウェル隊員が、マーハ商店でフラグの調達契約の打ち合わせで店に来た際、店内で買い物をしていた女性2名とばったりぶつかってしまい、なんやかんやあって、その一人に一目惚れしたということ。相手女性は、歳のころは19から20歳くらい、白い肌に黒髪を結い上げて、くりりとしたやや垂れ目の美女。その相手女性から、詩の一部が表紙裏に書き込まれた詩集を渡された後、そのまま去ってしまったので、名前はもちろん、連絡先を聞きそびれたまま別れたということ。書かれていた詩は

『川の水は 別れても 下流に流れ 河口へ流れ やがて海にて 会い交わる』

と、ものすごい達筆で書かれていたこと。

 そして、ローウェルにその相手を探して欲しいと頼まれてしまったこと。


「一番の問題は、親父殿にどうやってこの話をするかだな。」


 俺は呟く。ローウェルが間諜に踊らされていないことは、はっきりしたという調査結果を説明しないといけないが。


「原因が恋患い。なんてロマティックなのかしら。なんか面白くなってきたわ。」


「メム様なんか楽しそうで。ちょっとひどくないですか。」


「まあ昔から言うじゃない、人の恋愛ほど面白いものはないって。それに女神としては、なんとかしてあげたいじゃない。」


「その言動じゃどう見ても、ゴシップ好きの危なーい猫ですよ。」


「でも、ダン、あなたも何とかしたいと思っているでしょ。」


「なんでか、ここまで絡んでしまった以上は…放っておくのも忍びないとは思っていますが。」


「いいわよ、成就させようじゃないの。やりましょうよ、ダン。私も全面協力するわよ。」


 メムは妙に乗り気である。


 その翌日、

 警備詰所本部へ向かい、ギグス・ステファン副分隊長に面会しようとすると、警備隊本部へ向かったとの事なので、少し待つ事にした。待っていると、警備隊本部からのドラキャブが来てそこから何人か降りてきた。降りてきた面々の中にギグス副分隊長を見つけると、向こうも俺たちのところへ向かってきた。


「早いな、もう何かわかったのか、ニシキ殿。」


 ギグス副分隊長が声をかける。


「ええ、まあそう言うところです。結論から申しますと、間諜が絡んだものではないです。間諜の影もありませんでした。」


 俺は、ここはハッキリ結論を先に言おうと昨夜考えて、この形で発言してみた。すると横合いから


「ほう、あんたが、間諜疑いの調査依頼を受けて調査してくれた冒険者かい。」


 野太い女性の声がしたので、そちらに振り返ると。がっしりとした小太りの50歳後半くらいの女性がこちらを見ていた。髪を髷のように括りあげ、強者感のオーラがあふれる感じだ。


「これは、総隊長。」


 副分隊長が敬礼をする。

 えっと、警備隊総隊長って相当な偉いさん?。そう思いながら少しどうしたものか考えながら一礼をする。


「お初にお目にかかります。ええ、冒険者で、姓はニシキ、名はダンと申します。」


「そんな堅苦しく挨拶しなくても大丈夫さ。あたしは姓はメルクール、名はエリー、総隊長をやっている。話を続けてもらっていいよ。どうせ、このギグスの公私混同に近い依頼だったのだろう。」


「そんな、総隊長、懸案事項だったもので。」


 副分隊長、小声で抗弁する。


「まあいいさね、結論はチラリと聞こえたが、間諜の絡んだ話ではないという事だね。」


「えっと、この状況で説明しても大丈夫でしょうか。」


 俺は少し心配になり確認する。


「いいよ、警備隊であげた依頼だろう。あたしも組合本部から話は聞いているから。」


 ということは、大丈夫か。説明は慎重になるが。


「さっき言いましたように、間諜は絡んでいません。昨日、本人にも会って話もしてみました。」


「ほう、本人に会って話してみたのかい。で詳細は。」


 発言から、総隊長の圧が少し強くなった気がした。


「いろいろ話しして聞き出してみたのですが、仕事に身が入っていない感じなのは、恋患いです。」


「ええっ、恋患い。」


 親父殿驚く。


「ただ、ここでお願いしたいのですが、息子さんの恋患いの話はここだけに留めてくださいませんか。あまり外に漏れますと、親子仲もおかしくなるかもしれませんし、職場環境も本人にとっちゃ居づらくなるでしょうから。できたら聞いていない体でお願いします。」


「まあ、そういうことなら、ニシキ殿の言う通りにしよう。第十警備分隊副分隊長、あんたもそれでいいね。」


「はい、総隊長。」


「でも詳細は教えてもらうよ。ニシキ殿。」


 ということで、聞き出した話の詳細、20日ほど前に、ローウェル隊員が、マーハ商店でフラグの調達契約の打ち合わせで店に来た際、店内で買い物をしていた女性2名とばったりぶつかってしまい、その一人に一目惚れしたということと、その相手女性から、詩の一部が表紙裏に書き込まれた詩集を渡された後、そのまま去ってしまったので、名前はもちろん、連絡先を聞きそびれたまま別れたということを説明した。

 説明が終わると、総隊長、


「若いっていいわねえ。どうせ、ニシキ殿に相手を探して欲しいとか言われたのじゃないのかい。」


 さすが総隊長、素晴らしい読みです。


「ええその通りです。」


 俺は、短く返答した。


「いいよ、じゃ探してみな。費用がかかりそうなら相談しな。ここまで乗って来て、あと引き返すのも無様だろうし。」


「いいのですか、総隊長。」


 親父殿は少し慌てて総隊長に尋ねる。


「いいだろうが、これでローウェル隊員が仕事に身が入れば万々歳だし。交際が始まって華燭かしょくてんまでいけば、もっといいだろうし。」


(ネム様、華燭の典かしょくのてんてなんでした?)


華燭の典かしょくのてんとは結婚式。婚礼のことよ。)


 念話術でやりとりすると、会話が止まることになるのが難点だが。


「どうした、ニシキ殿。」


 総隊長に尋ねられたので、


「いえ、ちょっと相手を探す手段を考えていました。」


 と答えると、


「じゃあ、探してみてくれるのか。ありがとうございます。」


 親父殿は深々と頭を下げてきた。

 これは、今更ながら断れない状況だな。

 間諜の疑いの調査依頼については、これで完了ということで、書類を預かり、組合本部へ報告に行く。その途中、念話術で会話をするが


(もう、こうなったら、存分に探しましょう。相手の捜索費用に私の飯代も含んでくれるようにしましょうよ。)


(メム様、もしや、それ狙いだったとか。)


(冗談よ冗談。そんなわけにはいかないでしょう。)


 ゴシップ欲に食欲が混ざってしまったか。

 間諜の調査依頼を完了報告すると、セイクさんから


「お疲れ様です。では代金をどうぞ。しかし、より大変なことになっているようですね。話は聞いております。」


「はあ、話ってどのように伺っているのでしょうか。」


「一応、警備隊総隊長から組合本部長宛てに連絡が来まして、しばらくニシキ様をお借りしたい。という話になっております。」


「うーん、まさかそんな話になっているとは。」


「ということで、依頼については、本部長預かりの形をとります。依頼内容は人探しということで支払額については、今現在、総隊長と本部長が話し合っているところです。あと、ローウェル・ギグス様からも同様の依頼についての話が来ておりますので、それらの整理をしながらになります。ニシキ様は人探しの方を行ってください。」


 恋患いの話から、煩わしい話になっている気がしないでもないが。


「人探しの依頼はそんなにないでしょう?」


 確認してみると、


「ここでは稀な依頼ですね。」


 と言われ、ふとローウェル隊員が恋患いに悩んだ話は出ていないようだなと思いながら、依頼にかかることになった。


「あと、商業ランクのランクアップの件は、この依頼が終わってからの話になります。」


 そうだった、その話もあったのだった。

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