37弾 この混戦をどうにかしよう

(では、やってみますか。)


(そうね、あと、進行方向と後ろの方向から、新たに6、7人ずつの接近する気配がするわ。)


(どこまで一気に制圧できるかだな。敵の増援か。)


 新たな敵か味方か不明な情報を受けながら、メムを囮にするため、先に御者達の方にいる杖持ちの賊を攻撃させる。メムが一気に接近すると、後頭部に頭突きをかまし、その後、杖を持ってる手に噛みつく。弓持ちの賊が何が起こったのか分からない体で、硬直しているところに、俺が顔面目掛けて、土塊を叩きつける。砂埃と混ざったその土塊は、見事に顔面に命中し、その賊は顔を覆う。

 メムが攻撃した相手は、杖を取り落とさないように、タタラを踏んで後退するが、メムの追撃の頭突きが、相手の鼻柱に命中し、その相手は鼻血を吹き出す。

 俺は、顔を覆っている敵の胸ぐらを掴み、腹部に膝蹴りを入れる。腹部の柔肉に入り込む手応えがある。

 そこへ、御者の皆さんが加勢し、2人の賊は半ば袋叩きの状態に。

 俺とメムは、乗客達とドラキャの方に視線を向け、駆け出す。乗客達は、荷物を漁る賊達を見ている状態で、弓持ちの賊と杖持ちの賊が、弓矢と杖を彼らに突きつけていたところだった。

 異変に気付いたのか、弓持ちの賊が矢を放つ。同時に、杖持ちの賊が魔法を発動させる。


「集中」


 俺は呟く。ファイティングエイプとの稽古、指導で試行錯誤中であるが、タイムマネジメントの能力を活用してみる。

 矢の飛来が見え、相手敵の魔法が発動し、長杖の先が光り石塊が出てくる。メムを狙ったようだが、それらの動きがゆっくり見え、軌道がわかるので、余裕を持って身をかかめながら、相手2人に接近し、ショートソードを抜き、矢を払うように切りつけ、すぐに長杖を蹴り上げる。

 放った矢は、払い落とされ、折れて地面に落ちる。石塊は明後日の方向へ飛んでいく。

 賊2人は、何が起こったか分からない顔をしながら、弓持ちの賊はメムの頭突きを金的に喰らい、杖持ちの賊は、俺の体当たりを受けて、共に吹っ飛ぶ。この2人は立とうとするが、立ち上がれないみたいで、釣り上げた魚の如くピクピクしている。

 ドラキャの荷物を漁っていた賊達3人が、異変に気付いて、慌てながら乗客達に剣を突きつけると、


「動くな、こいつらがどうなってもいいのか。」


 と一喝する。


「そっちこそ、仲間がどうなってもいいのか。」


 そう言って、御者達が、袋叩きにした2人を羽交締めにして賊のリーダー格の男に見せる。

 少しの間、睨み合っていると、


(これ、味方だわ。警備隊員のようだわ。)


 メムが、相手にガルルと牙を見せて威嚇しながら、念話術で俺に伝える。

 そこへ、乗客に剣を突きつけた賊3人に向け、賊の後方からヒュッと矢が飛んできて、次々に腕に刺さる。


「イチノシティ警備隊だ。賊共、動くな。筋肉ひとつ動かすんじゃない。」


 そう言って警備隊員達がゾロゾロ現れ、5人の賊を次々捕縛する。進行方向からも現れて、袋叩きにされた賊2人を捕縛する。


「皆さん、怪我とかはありませんか。」


 そう言って警備隊員2人は、乗客と御者の異常に有無を確認している。


「もしや、ニシキ殿では。」


 警備隊員の一人に声を掛けられる。どうやら、ギグス親子の一件でイチノシティ警備隊内に、顔見知りができることになったようだ。

 王都までドラキャを走らせながら、事情聴取を行う。乗客用のドラキャに警備隊員が乗りながら、話を聞く形になった。警備隊員もこのまま一緒に、王都まで捕縛した賊達を連行し、王都の警備隊に引き渡すことになった。ドラキャは4台から6台になった。

 俺を含めた事情聴取は、淡々と進み、賊達も現行犯なので、情状酌量の余地はないらしく、そのまま、王都にて刑罰を受けることになるそうだ。

 王都に到着し、荷物を大連合機関サンイーカー支部へ届ける。

 荷物を受け取った男が


「ああ、お前さんだったか。運悪く賊に当たっちまったのは。」


 と言いながら、受け取り証にサインをし、提出書類を渡してくれた。


(ダン、宰相邸には行かないの?)

 

 とメムが念話術で聞いてくるので


(アポなしはダメでしょうし、公私混同になっちゃうかもしれません。後、モデルやらされるかもしれませんよ。)


 と返すと、メムはぐうの音もなく引き下がった。


 王都からイチノシティへ戻るにしても、夜になってしまったので公共の乗り合い便もないため、安宿の一室を取り一泊する。ドラキャでの事情聴取の合間に話をしたら、イチノシティ警備隊が戻る便に、同乗させてもらうことになった。


 安宿にて、


「ねえ、ずいぶんまた狭い部屋ね。」


 メムがぼやく。


「仕方ないですよ。今回は我慢しましょう。俺は床に寝ますので。まあ、安さを追求すれば、どれかを犠牲にすることになりますので。入浴ができるだけマシですよ。それに、今回の賊対応は、メム様が知らせてくれたおかげでもあるので。」


 掛け毛布を袋状にして、俺は答える。

 この安宿の部屋はかなり狭い。いつもいる組合本部付きでの部屋よりも狭く、屋根裏部屋で、トイレと風呂は共用。狭いベットだけが部屋にあり、ベットのスペースで部屋の半分を占めている。屋根裏部屋のため、天井は、屋根の形に傾斜しており、ベット隅は低い天井高になっている。まあ、ただ安い。素泊まり一泊5000クレジット、メム込みの値段だった。イチノシティの冒険者ギルドからの紹介状があって、ようやく取れた部屋でもある。


「しかし、やっぱり、魔術を使えるようにしないとな。」


 俺が呟くと、メムが


「ダン、今回のあなたの戦い方は、やっぱり、一対一、もしくは一対少人数では何とかできそうだけどね。もし、賊の増援が来たりしたら、私も大変なことになるかもしれないし、元の世界に戻ることができなくなるのは嫌よ。」


 中遠距離ポジションからや物陰から隠れて奇襲攻撃するには、火力不足なのは自分でも分かっていた。『レンコンの肉詰め』と書いたメモを睨みながら、眠くなってきたので


「メム様、じゃあ寝ましょうか。おやすみなさい。」


「そうね、一寝入りしますか。」


 翌日、安宿をチェックアウトし、王都直轄警備詰所本部へ出向く。程なく、その前の道にイチノシティ警備隊のドラキャが来て、俺たちはそれに乗り込んで、帰還の途についた。

 途中一泊して、夕刻にイチノシティに戻ってきて、必要書類を渡し、配送の依頼完了報告をする。


「お疲れ様でした。あなたが賊の襲撃に巻き込まれたのですね。」


 とセイクさん。


「配送依頼と言ってますが、結局、俺は囮役でしょう。」


 と突っ込んでみると、


「ええ、その通りです。囮役は4名でした。依頼内容は配送なのですが、重要物品のため、用心も込めて囮をまきつつ、配送するということをしました。囮役として、賊に遭遇したので、今回は、ボーナスが出て、合計15万クレジットになります。あと、宿代など経費は別払いにいたします。これも受け取ってください。」


 囮役を認めながら支払ってくれた。意外と大金払ってくれたな。

 いつもの寮の部屋に戻ると、


「ダン、もしかしてこの配送依頼が囮だと、いつから気付いていたの?」


 メムが疑問を投げかけてきた。


「襲われる可能性について質問した時に、もしかしてと囮じゃないかと思ったのです。そもそもこの異世界での大連合機関って、前世でいうところの国連みたいなものかと認識してました。」


「まあ、私もそう思うわ。」


「でも、そんな所へ配送なんて、この異世界でもおかしいような気がしてました。後、確信したのは、いいタイミングで警備隊の皆さんが現れたことです。」


「そうか、あのドラキャの商隊についてきていたということね。」


 メムが憤慨しながら答える。


「まあ、いいように考えましょう。ボーナスもでました。安飯ですが、しっかり食いましょう。」


 俺がそう言うと、


「あら、珍しいことを言うわね。何かあるのか勘ぐりたくなるけど。」


 メムが訝るので


「正直、今回の依頼は、あまりいい気分になれる依頼ではなかったでしょうから、気を遣っただけですよ。真心込めて本心から、そう言ったのですが。」


そう言ってみると


「本当に?、下心がこもっているのじゃないの。」


 そう言いながら、組合本部の食堂で、メムはガッツリと20人分の量の食事を平らげたのだった。

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