36弾 賊たちに襲われたのでどうしよう

 翌朝、リーゼ補佐官の発言が頭に残ったままのせいか、寝つきが悪くなり、少し寝不足の頭を振りながら、ギルド受付へ。


「お疲れ様でした。依頼完了の代金、5万クレジットです。組合本部長も少々ヤキモキしていたようです。うまく行ったようですね。」


「ええ、無事に二人は会って、愛を育みました。」


「そうですか。ところで、宰相補佐官から引き抜きの話があったとか。本当ですか?」


「否定はしません。しかし、今のところは断った形です。」


「わかりました、実は警備隊総隊長からも、警備隊隊員にできないかというお話があって。」


 わー、転職の誘いというやつ。まさかの異世界でヘッドハンティングか。前世じゃ、まあ社畜に近い生活だったし、こき使ってポイだったからな。しかし異世界であっちからもそっちからもこんな話が来るなんて………。


「どうかしましたか、もしかして、警備隊隊員にご興味が?」


「いえいえいえ、ちょっと寝不足でボーッとしていただけです。」


 前世のことを思い出してしまって、言葉に詰まったことを、少し強引に誤魔化す。


「しかし、俺みたいな低ランカーに警備隊隊員の話ですか。一体なぜまた。」


 あの豪快そうな女総隊長の顔を脳裏に思い浮かべながら、質問してみた。


「フラグの件と、人探しの件だそうです。あの2件で、能力と、ヒキの強さを感じると。それで警備隊隊員に欲しいと。あと、おまけにメムさんも付いてくると。」


 なんという理由。


「まあ、メムは俺の相棒ですから。一緒にということですか。」


「ええ、メムの食費も含んで高給とはいかないがそれなりに、マスコット料金も含めてとか、と総隊長はおっしゃっています。」


 メムは、昨夜の事があったからか、狸寝入りを決め込んでいる。尻尾と耳は、ピクピク動いているから、狸寝入りだとよくわかる。話は聞こえているのだろう。しかしマスコット料金も含めてって、えー。


「えっと、マスコット料金って何ですか?」


「メムさんを、この警備隊の隊のマスコットキャラにしたり、メムさんを使って、警備隊のイメージアップや啓発など様々な活動をしたいようです。」


 狸寝入りのメムのしっぽと耳が、よりピクピクと動きまくる。


「へー、すごい話ですね。でも断ります、この話は。冒険者稼業も何とかなってきたところですし、魔術の使用についても少し見当がついてきたので。」


 メムの尻尾が、しなしなと垂れ下がる。


「まあ、そうですよね。」


 セイクさんは、予想通りといった反応を示した。


「それでは、今回の依頼については、こちらになります。配送達の依頼です。実は、原材料を配送してもらいます。護衛を兼ねた配送達になります。ここにある袋を、王都にある大連合機関サンイーカー国支部へ配送してください。」


「代金は、結構な額ですね。7万クレジット。費用は依頼完了報告後、まとめて代金と一緒に支払い、ですか。この原材料は何に使われるのですかね。」


「特別な金属の原料と聞いています。慎重に配送をお願いします。」


「ふうーん、襲われる可能性があるものか?」


「それについては、何とも言えません。とりあえず、王都まで宰相邸に行き帰りで使ったものより、足は遅いですが、ドラキャがあります。それをお使いください。多分、王都との往復で3泊することになるでしょう。」


「まあ、わかりました。やってみます。」


 ああ、また王都へか。メムは何か期待しているような表情をしている。

 以前に宰相邸からのドラキャに乗っていたから、違いがはっきりしているが、今回の依頼で乗り込むドラキャは4台がまとまって、王都へ移動する。一般の方々は、このような形で王都へ行き来するのだ。他の王都への移動者と一緒に、重い配送荷物を台車に乗せ、荷物置きに搭載し、そのドラキャに乗り込む。以前、緊急依頼でニーノショートへ、護衛で行ったときのようなものだ。違うのは、ただ、乗車している者が種々雑多であったことだ。

 ゆっくり進み、途中の村で一泊し、王都へ向かう。宰相邸からのドラキャはまるでF1カーとしたら、今回のドラキャは、速度の出にくい自動車のようなものか。ただ、ゆっくり走るのも悪くはない。乗り心地は、宰相邸からの方が良すぎるぐらいだったわけで。

 途中の村までは、何事もなく進み、一泊した。ただし、村での一泊は簡易な寝袋で尚且つ、食事は携行食料であった。まあ、前もって俺自身で準備はしていたが。


 翌日、一泊した村を発ち、王都へ向かう。道を進み、王都の建物が薄ぼんやりと見えてきた。王都まであとどのくらいか、と俺が考えながら、よく寝ているメムに目をやる。ドラキャの集団が、鋭いカーブを右に曲がり終えるとその時、前方に障害物が置かれていたのに各御者が気付き、停止させた。


「誰だ、こんなところに木やら、でかい石やら置いた奴は。」


 御者たちは、各々そう言いながら降りてきて、障害物になった木とでかい石を見ながら、辺りの様子を伺う。周りには、人の様子も何も見えなかった。俺たちと他の乗客もドラキャから降りてくる。

 メムも起き出して、俺と一緒に辺りを伺う。


(ここから、ちょっと遠くに人の気配があるわ。進行方向と、後ろの方向ね。各方向に3、4人といったところかしら。人数はちょっとはっきりしないけど。)


 念話術で伝えてきた。


(襲ってきそうかな。)


(そうかもね、動き出したわ。ダン。)


 俺とメムは、進行方向の左側の岩陰に身を隠す。

 御者達は、障害物を左右の道脇によけていた。乗客達は遠巻きにそれを見ている。


(近づいてきたわ。もうすぐ来るわ。)


 御者達が障害物を全て、道から除去した途端、賊達が、集団の前後から走り寄って来た。その数7人。

 御者達の前と乗客達の後ろに、矢を打ち立て、


「よーし、お前ら動くな。金目のものを出してもらおう。」


 賊のリーダーらしき男が、大声で威嚇し、脅迫する。リーダー含め7人というが、2人が弓矢を構え、2人がいつでも魔法を発動させられるように、長杖をかざしている。後の2人は、剣を持ち、これが回収係と言ったところか。乗客は俺を除いて6人、御者達は4人、人数では上回っているが、機先を制されて矢と魔法で狙われているせいで、動きがとれない。


 俺は、メムのおかげでそのドラキャから離れて物陰に隠れることができたが、配送の荷物はあのドラキャの中だ。

 こっちの武器は、ショートソードと件の弾丸のない拳銃のみ。さて、どう切り抜けるか。


(私が囮になるわ。だって、最強の囮でしょう。)


 メムが勇ましいことを言い出した。以前、レッドヒルダイルにレロレロされたトラウマからは、脱したのだろうか。


(メム様、大丈夫ですか。危なくなったら、どこかに逃げ込んでください。しかし、どうするか。)


 こういうときの念話術は、会話がなく、他人に聞かれるおそれはないから便利ではあるが。

 緻密な方法は無理だろうから、大雑把な方法を取ることにする。


(とりあえず、御者達のところにいる賊3人を何とかしましょう。リーダー格の奴が乗客の方に行ってるタイミングで、杖を持ってる賊に噛みつき、頭突き、他目潰し、金的攻撃など反則技OKですので、思いっきりやっちゃって下さい。俺は、弓の方を何とかします。その後、御者達に加勢してもらい、乗客を助ける流れでいきましょう。)


 と、作戦と言えるかどうかわからない方法で、賊と交戦することを伝える。

 賊達は、その間に、御者達と乗客達に分断したまま、弓と杖で動きを牽制し、剣持ちの2人とリーダー格の奴がドラキャの荷物を漁り始めた。

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