35弾 このスカウトは断ろう?
「うーん、あれは…」
夕食、風呂が終わり、ゲストルームで、一人考えていると、
「何、何。どうしたの。またどうやってここに来ようとか、考えていたりしてるの。」
メムが、考えにふける俺をみて、茶化したように尋ねてくる。
「いや、今日、子供達にメム様、触られていたのですが。」
「もしかして、おじさん扱いされて、悩んでいるとか。」
「いいえ、そんなのは、もうどうでもいいですよ。最初に声をかけて来た子がいたじゃないですか。でも養護院の方が迎えにくる頃には、いなくなっていて。それが気になっていて。それに、最近視線を感じる、とメム様、言ってましたし。王都でも視線を感じていたとも。」
「やっぱ、美形キャラとしての宿命かしら。色々注目されるってわけね。まあ、私、グランドキャットになっても女神だし。」
「元、ですよね。」
「ああ、何か言った?」
「いいえ、何にも。でも、視線を感じると言うことは、何かあると言うことではないでしょうか。宰相邸の侵入者の件も、偶然ではないように思えます。」
「でも、確たる証拠はないのよね。」
「ええあくまで、状況的にとしかいえないのですが。」
「ふーん、ファアア。」
メムは大欠伸をして、
「でも、この異世界、この国だけかもしれないけど、妙に平和すぎるというか。私たち運よく、ダークな面に遭遇していないというか。一応用心はしているつもりよ。」
「まあ、明日は帰還しますしね。とりあえず、寝ますか、メム様。」
「ファーイ、おやすみなさい。」
翌朝、俺とメムとローウェル隊員は、イチノシティへ、リンさんとグリュック嬢は、ジューノシティへと戻ることに。リーゼさんらと朝食後、ドラキャに乗込む準備をする。その前に、執務室みたいな場所で、リーゼさんに挨拶をする。
リンさんは一番に、ローウェルとグリュックは、その次に一緒に挨拶を済ます。この二人、今後はお互いの街を、交互に訪問することになったらしい。うまくいくといいな、と心底から願う。
「いろいろお世話になりました。ありがとうございました。」
「ダンちゃんもメムちゃんも、あの二人のことよろしくね。」
リーゼさんがそう言って笑う。その後
「ところで、ダンちゃん、メムちゃん込みで、私の部下として働いてみる気はない?」
「ご冗談を。やめてください。」
補佐官は奇襲が好きなようだ。
「あら、冗談では無くてよ。父も面白そうな子だと言ってるし。王都を見て歩いて、父にあのような話をするとは、意外とあなたには内政のセンスがあるわ。」
「えらくご評価頂いて恐縮ですが、なんで俺なんかみたいな、低ランカーの冒険者風情にそんな話を。」
「正直言うとね、内政のできる者は、多いほどいいと思ってるの。内政に携わる者は、長い期間携わっていると、自分でも気付かないうちに、腐敗してくるものよ。大臣だ、宰相だ、などの顕職についているうちに、内政じゃなくその職にしがみつくことに執心するようになって、老いさらばえて、若い力を削いでしまえば、国が衰えやすくなるのよ。それを防ぐには、どんどん内政のできる者を集めて、鍛え合って、顕職にしがみつくことを防ぐようにしたいのよ。これは父も私も同じ意見よ。」
「……………素晴らしいです。なるほどとは思いますが。ですが、今の俺には急すぎるお話です。俺はまだ修行中の身ですから。」
「まあ、帰る間際に確かに急よね。まあいいわ。あと、メムちゃんを絵画のモデルにする話もあるからね。」
まだ諦めていなかったのですか、補佐官。
「そう言われると、王都に行きにくくなりますね。」
俺は皮肉を込めて返してみる。
「ふふっ、また来てください。そして、ローウェルの介添役、お疲れ様です。」
そう言って一礼してきたので、こちらも一礼してドラキャへ向かう。
俺たちが乗ると、間も無くドラキャは、イチノシティへ向けて颯爽と走り出す。しかし、えらい方にこんな話をされるとは。帰りも何事もなく、無事にイチノシティへ到着したのだった。
夕刻に、ドラキャが街の警備詰所本部前に着き、ドラキャを降りて、俺たちは組合本部に向かい、担当のセイクさんが休みだったので、他の受付に、護衛依頼の完了を報告する。
その後早速組合本部付きの寮の俺たちの部屋に入って、宰相邸のゲストルームとの落差を感じながら、戻って来たことを実感する。
いつも通りの夕食と、入浴を終えて、一息つく。
「いやー、いつもの日々ね。あの宰相邸での飯はやっぱり良かったけど、いつもの飯もしばらくぶりに食べると、何か違った感じね。そう思わない、ダン。」
メムも、宰相邸を離れて落ち込むかと思ったが、しっかりいつもの日々に馴染んでいる。
「宰相邸を離れて、王都を離れて落ち込むかと思っていましたが。」
「何言ってるのよ。モデルはやらないわよ。いくら大食いの私でも、そうそう食い物に釣られないから。モデルの報酬にと言われてもね。どうしたの、何か考え事?」
「いや、帰り際の挨拶の時、リーゼ補佐官の話が頭に引っかかって。」
「何、あの人の部下になるって話なの。」
「その話は受けられないでしょう。元の世界に戻ることを最優先にしてますから。」
「ダン、意外とあなた真面目すぎるのよ。私も元の世界に戻ること優先でいいのは分かってる。でも多少の羽目を外すのはOKよ。それに、部下になれば、意外と元に戻るための方法がわかるかもしれないじゃない。」
メムは、俺が部下になることを反対すると思っていたので、そう言われて、意外だと思いつつ、顔に出さないようにするが、
「私がそう言うと意外だったかしら。」
しっかり見抜かれていたようだった。
「うーん、そう言う考えもありですかね。でもあの親子ですごいなと思ったのは、自分たちが腐敗するかもしれない、と自戒しながら内政を行なっているのだなと俺に感じさせたところです。とはいえ、俺が引っかかっているところは、内政に携わる者は腐敗していくと言った件のところです。もしかすると、あの宰相と補佐官の親子は、いわゆる老害、まあ、権力を握ったまま老いさらばえても、後進に譲ると言う思考が欠けている者たちと、結構政争になっているのではと思って。」
「まあ、権力は腐敗するものよ。」
メムが、はっきり断言する。
「権力者が、長期にわたり権力を握ってしまえば、澱んで腐敗もしてくるわよ。ましてや、年取って判断力が衰えれば、より顕著に腐敗するものじゃない。まあ、若くして権力を握ったから腐敗しないってこともないでしょうけど。所詮、理想は現実に駆逐されることが多い結果なのよ。」
「なんか、女神様として、拝みたくなるようなくらいの名言ですね。しかし、女神様として、そういう権力の亡者のような、権力者だった死者も見てきたってことですか。やっぱり赤ん坊に転生させるのですか。」
「あなたの言う地獄に落とせるわけじゃないからね、ない所には落とせないでしょ。」
メムは、真面目な顔で語り、それに対して、俺は、大きくため息をつきながら、ふと思い当たった疑問を口に出す。
「ところで、ものすごくいいことを言った女神メム様、さっき俺があの補佐官の部下になることを勧めた話から今までの権力者論については、説得力あるものでした。しかし………、もしかして本音のところは、俺が補佐官の部下になれば、あの宰相邸で、メム様、また美味いものがたらふく食える、と思っているのじゃないですか………。」
それを聞き、メムの顔がスッと無表情になり、顔を逸らす。やはり、本音はそこか。
「顔を逸らさないでください。やっぱり本音は、食い物に釣られているのですね。宰相邸に、結構未練たらたらなんですね。」
俺は、元女神猫の顔を両手で挟んで、無理やりこっちを向かす。
「ううう、………理想は現実に駆逐されることが多いのよ。」
カッコつけて言っているが、食い意地には勝てない、と言ったところか。
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