34弾 王都で子供とたわむれよう

 翌日、ルームサービスで朝食をいただき、リーゼさんからこちらに構わず、王都観光をして下さいとの言伝をいただいた。やっぱ宰相邸に侵入された事件の対応で、大変忙しくなるのようだなあと思いながら観光をすることに。

 

 まずは、サンイーカー王国総図書館か王国総組合本部の書庫を目指して行く。元の世界に戻るヒントは、そこにあるかなあと期待したのだが。

 

 総図書館で、受付に本人証とイチノシティの組合本部抄録、これには冒険者ランクと商業ランクの記載があるのだが、それらを提示すると、ランクがまだ低いせいか、行ける書架の部屋と、立ち入り不可の書架の部屋を記したパンフを渡されてしまった。だが、広い。大きい。1日では回りきれないくらいの図書館だった。広さと大きさに圧倒され、昼前には、尻尾を巻いて退散することになってしまった。


 総組合本部も然り。総図書館の時と同じように、いける書庫と、侵入不可書庫があることを告げられた。これまた、書籍量に圧倒されてしまって、早々に引き上げることにした。


 ということで、結局はウィンドーショッピングになってしまう。さすが王都である。品揃えも品質もなかなかの物が揃っている。一つ問題なのは、俺の財布じゃ、結構厳しいお値段ばかりである、ということだ。杖の材料は売ってあるのだが、ブルビアンの木の塊で、お値段が605万クレジット…、買ったら、その加工も考えなくてはいけなくなるし…財布に対して、ヒジョーに厳しい。他の魔道具や武具もそうであった。


(ダン、残念ながら、元に戻るヒントは、今回、王都では見つからなかったわね。)


 王都の商業街を歩きながら、メムが念話術で話しかけてくる。


(ランクを上げる必要性を、まじまじと感じさせられました。あと、書籍を探し当てるのに、あらかじめ準備が必要になりますね。ちょっと行って探し出す、というわけにはいかないですね。あの量の書籍から、目的のものを見つけるのは、かなり骨が折れますね。)


(でも、やっぱり王都なのかしら。私に視線が結構集まっているわ。)


(まあ、グランドキャットを連れているためですかね。でも、この異世界でも、ペットの概念が、一部にはあるのでしょうね。あまり見ない小型動物を、抱えて歩いている人もいますね。)


(せめて、私に、美しい、という前置詞は必要でしょ。美しいグランドキャットとお言いなさい。)


(あー、はいはい。)


 そこへ、10代前半くらいの子供が一人、目の前に。


「ねえ、おじさん。」


 メムが笑いを噛み殺す。

 俺は苦笑いをしながら、


「どうしたの。お嬢ちゃん。」


「ねえ、このグランドキャット、触って撫でてもいい?」


(メム様、いかがなさいますか。)


(別に良いわよ、子供にはそれくらい。おじさん。)


「優しくしてあげてね。お嬢ちゃん。」


 そう言って、公園らしき所に、ベンチがあったので、女の子と一緒に行ってそこで座り、メムと女の子が戯れるのを見ながら、女の子に聞いてみる。


「お嬢ちゃん、親御さん、お父さんかお母さんは、どこにいるのかな。」


「私、近くの養護院にいるの。孤児なの。」


「ふうん。寂しいのかい。お父さんお母さんがいないと大変だろう?」


「寂しいけど、みんながいるから。養護院に。」


 そう言いながら、メムを撫で続ける。メムもおとなしく、女児のされるがままになっている。そこへ、


「あー、グランドキャットだ。」


「あーいいなー。僕にも触らせて。」


「あー。わたしもー。」


 そう言いながら、その近くの養護院の子達だろう。7人くらい男女問わずわらわらとやって来て、代わる代わるメムを触り出した。


「きゃー。すべすべー。」


「きれいな毛だー。」


 ちょっと、混雑してきたか。


「はい、みんなー。順番になでなでしてねー。はい、並んでー。」


 と言うと、子供たちは一斉に


「わかりましたー。おじさん。」


 と言って、メムを囲むように列を作り、交代で触り始めた。

 子供たちは、躾ができているし、身なりもこざっぱりしており、健康そうだ。全く虐待されている感じもない。子供の笑顔は良いものだな。そう思っていると、


「ああ、ここにいたのね、みんな。さあ、戻るわよ。」


 割烹着のような格好をした、初老の女性が、声をかけてきた。養護院の方だろう。


「どうもすみません。グランドキャットに触れてみたかったのでしょうか。ご多忙のところ、足を止めさせてしまって、申し訳ございません。」


「いえ、良いですよ。後、帰ったら、手洗いとうがいをさせてください。」


「お気遣いありがとうございます。さあ、みんな、行くわよ。」


 そう言いながら、その初老の女性が、手際よく子供達をまとめ、隊列を組ませ、養護院に戻らせる。


「バイバーイ。」


「ありがとう。」


「おじさん、ありがとう。」


 そう言いながら、メムから離れていく。

 あれ、そういえば、最初、俺たちに声をかけてメムに触った子は?

 そう思いながら、子供たちが、手を振りながら養護院へ戻っていくのに合わせて、こっちも手を振る。


(ねえ、ダン。どうしたの?。キョロキョロして。)


(いや………、何でもない。)


(もしかして、おじさん扱いが気になった。)


(まあ、外見は17歳、中身はおっさんの50歳。子供は、直感的にだけど、気付いたのかなと思って。)


(でも、ダン。おじさんって言われた時、微妙な顔してたわ。)


 メムの表情は、ニヤニヤするのを誤魔化そうとしているようだった。



 王都の商業街の散歩と、ウィンドーショッピングを堪能して、宰相邸に戻ってきた。翌日は朝食後、宰相邸を発って、イチノシティへ戻ることになる。夕食を、ローウェルとグリュック、そしてリンさんと一緒に取り、食事を終える頃に、扉が開いて、リーゼさんと、連れ立ってもう一人の、口髭を蓄えた、灰色な髪色をセンター分けにした、ナイスミドルな初老の男がやって来た。


「いや、そのままで結構です。」


 その初老の男は言った。


「初にお目にかかりますね。皆さん。宰相をしております、アルトファン・ヨナースです。」


 げえっ、まさかの宰相との遭遇。

 リンさんが立ち上がり、


「リー・リンです。」


 ローウェルとグリュックも立ち上がり各自挨拶を返す。

 慌てて俺も立ち上がり、


「お初にお目にかかります。ニシキ・ダンです。」


 と挨拶を返すと、


「ああ、あなたですか。侵入者を発見してくれたのは。おかげで助かりました。長い間使っているので、思わぬ侵入経路ができてしまったのですよ。次の使用者にいい状態で引き継ぐことができます。」


「え、次の使用者ですか?」


「この館は、宰相の役が交代すると、次の宰相に引き渡して使うようになっています。」


 リーゼさんが答える。

 おお、宰相の公邸みたいなものだったか。


「ところで、ニシキ殿、それとグランドキャットのメム殿。この王都はいかがでしたか。」


 宰相からのご下問。


「そんな畏まらなくてもいいわよ。」


 とリーゼさん。


「そうですね、養護院の子供達を見かけたのですが、飢えてる様子も無く、身なりもきれいで、元気で躾もしっかりされていて、いい街だと思いました。」


 洒落た答え方をしたつもりだったが、


「…へえ、面白いところに目を付けますね。子供の養育は、国にとっても重要事項とは思って政務をしていますので。ただ、孤児の養育については、全員うまく救いきれればいいのですが、なかなか全てを救いきれないのです。」


 宰相が思わぬリアクションをしてきた。


「そういえば、明日、出立されるとか。この私も多忙ゆえ、お構いできませんが、良い思い出が皆様に残ることをお祈り申し上げます。」


 そう言って、宰相閣下は去っていった。


「侵入者の発見は、本当に助かったのよ。何せ、その侵入者、庭に一日滞在していたようだから。」


 リーゼさんがそう言って、


「今後の警護にも役立つわ。後、今夜はゆっくりしてね。」


 そう言い足して、一礼して、食事場所を離れていった。

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