33弾 見合いの介添をやってみよう
席に着くと、
「初めてお会いする方もおりましょう。まずは、こちらから自己紹介をさせていただきます。姓はアルトファン、名はリーゼと申します。宰相秘書官兼補佐官を拝命しております。お聞き及びの方もおりましょうが、父は、アルトファン・ヨナース、このサンイーカー国宰相でございます。」
宰相令嬢は、栗髪をハーフアップにし、肩まで下ろした髪型でかつてのメムが女神だった時に似た細身のスタイル。来るドラキャの中でローウェル隊員から聞いた話では、相当な辣腕だということだそうだが。
「ギグス・ローウェルと申します。今回、お招きいただき誠にありがたく存じます。こうしてメモン・グリュック殿と面会の機会を賜りましたこと、誠にこの上なき喜びにございます。」
「メモン・グリュックと申します。ギグス・ローウェル殿と口上が重なりますが、面会の機会を賜りましたこと、重ねて御礼申し上げます。」
え、この流れで俺も挨拶するのか。
「えー、ニシキ・ダンと申します。……こちらは相棒であるグランドキャットのメムと申します。以後よろしくお見知り置きの程を。」
「リー・リンと申します。ギグス・ローウェル、メモン・グリュックご両人の介添役としてまかり越しました。よろしくお願いします。」
えーっ。えーっ。俺ももしかして挨拶、そういうべきだったのか。少し動揺する。
「さあ、堅苦しい挨拶はここまで。食事にしましょう。」
リーゼ補佐官がくだけた口調になって、食事を勧める。
朝食は、和やかな雰囲気で進んだ。メムも空気を読んだか、あまりがっついた食事をせず、控えめな食べ方であった。ただ俺は、緊張のためと、戸惑いのためか、今一つ食事の味が分からなかった。
「さあ、食事も終わったし、あとは両人でゆっくりしてらっしゃい。庭にテーブルを用意しているわ。」
リーゼさんは、完全に仲人的立場になってしまった。
「介添役の方々はこちらに。」
「はい、かしこまりました。」
俺と、リンさんは別室で庭を眺めながら、リーゼさんとお話しということに。この部屋は、庭からの風が心地いい。
「介添役と聞いているけど、あの出会いをよく縁に結びつけたわね。」
「いえ、運が良かっただけです。」
恐縮しながら、リンさんが返す。
「そういえば、お忍びでマーハ商店にて、お買い物をされていたとか。」
俺が確認してみようという体で話し掛けてみる。
「そうなのよ。お忍びで街の調査もしながら、護衛役のグリュックちゃんとあの店に入ったのよ。そうすると、あのローウェル君が店内にいて、こっちも商品に気を取られていたからね。グリュックちゃんとローウェル君が軽くぶつかったのよ。でも、ぶつかった後、二人、見つめ合っちゃったのよね。まさに、あれが、恋が生まれる瞬間だったのねー。」
嬉々としてリーゼさんが話を続ける。
「でも、私も予定があったから、ちょっと急いでしまって。それで、互いに連絡先くらい交換する余裕もなかったのね。結局、護衛を終えて、ジューノシティへ戻って、そこから宰相邸からの迎えの馬車に乗ったのだけど。後日、ジューノシティの警備隊総隊長から、何かあったのですか、うちの近侍役が、護衛任務終了後から様子が変だという問い合わせが来てね。」
リンさんがため息をつきながら
「それでグリュックと学校が一緒だった私に、警備隊総隊長から直に様子の変な理由を探ってくれという依頼が来たのです。」
なるほど、互いに似たような依頼の流れになったということか。
「こっちは、ビジネスがらみでローウェルと最近付き合いのあった俺宛に、同様の依頼が来たのです。」
「へえ、で、お互い相手が分かって、良かったわ。もし、互いに見つからないままだったら、ある意味、私が潰したようなものじゃない。それってなんか嫌なものよね。それにせっかくだから私も、あの二人の恋を応援したくなったのよね。で互いに会う機会をこうやって作ってみたのよね。私もこういう恋してみたかったし。でももうすぐ40代だし、2回も結婚と離婚をしたし。まあしかし、人の恋愛は面白いわね。…そう言う自分のは大変だし、もう懲り懲りだけど。」
え……………、いわゆるバツ2ってことですか。あとアラフォーに全く見えないです。若々しく見えます。やはり女性は良く化けます。それゆえ怖いです。色んな意味で。
「ところで、そのグランドキャット、メムという名前だっけ。ダンちゃんが連れているのね。いい毛並みよね、この子、モデルにしたいわ。」
「えっと、モデルって、何のですか。」
「もちろん絵のモデルよ。」
その瞬間、メムから念話術で
(嫌に決まってるでしょ、モデルなんて。じっとさせられたりして、窮屈なものだから。)
(じゃあ、メム様、うまく断っておきます。)
とりあえず、演技を少々入れつつメムの顔を見ると、おもむろに、
「見たところ、いやそうですし。俺の大事な相棒ですので。それはご容赦を。」
「そう、残念ね。まあでも、急にそう言われてもね。今回は、諦めさせてもらうわ。」
え、ということは次の機会を狙うのですか、リーゼさん。
と思った瞬間、念話術が。
(庭の方向に、人ね。侵入者かしら、臭うわ。)
そしてメムは俺の袖を咥えて引く。
「リーゼ様、庭に怪しい気配が。御免。」
俺とメムは、そう言ってすぐに庭へ駆け出す。
「確か、あの方向に、2人がいるわね。」
リンさんがそう言って、素早くリーゼさんのガードにつく。
リーゼさんは、泰然としつつ、呼び鈴を大きく鳴らし、
「曲者が侵入した模様よ。誰か対処しなさい。」
と大声をあげて指示を出す。
俺はメムの走る方向についていきながら、広い庭を走っていると、茂みから、怪しい黒一色の面を被り、黒装束の輩が飛び出してきた。敵か、と認識した瞬間、その輩は懐から何か取り出し煙幕を張った。相手は、木を伝って逃げにかかった。
この屋敷の執事か警護かわからないが、タキシードみたいな格好をした男女がやってくる。さらに、ローウェルとグリュックのカップルも駆けつけてくる。俺たちは、追跡を諦めた。
例の輩は、そのまま逃げていったようだった。
俺たちはローウェルとグリュックを連れて、リーゼさんのところへ戻ってくる。ローウェルとグリュックには何の異常もなく無事であった。リーゼさんの方も無事であった。しかし、さっきまでいた部屋には、男女のタキシード姿の数人が出入りしていた。
結局、昼以降は宰相邸を守る警護室の方々と現場検証・事情聴取に付き合い、屋敷の異常の有無の確認や犯人像の確認に時間が費やされてしまった。
「こんなことが起こるなんてねえ。」
夕食後、リーゼさんがぼやく。
単なるコソ泥の侵入だったようだと、警護室の方では結論づけて、リーゼさんと宰相に報告をした。
「結局何が目的で、侵入したのかしら。でも、気づいてくれてありがとう。ダンちゃん、メムちゃん。」
「いえ、気づいただけですので。」
メムは、食事にものすごく満足したのか、うっとりとして目を閉じている。俺もメムが気づいたから、対応できたので、お礼に良い飯を思いっきり食べさせてくれと言ったら、もちろんとばかりに、しっかりメムの大食漢ぶりにも対応してくれた。
「明日は、みなさん、王都を観光してみなさい。もちろん、ローウェルとグリュックは一緒にね。私は、この侵入事件の件で対応しなければいけなくなったから、申し訳ないけど、明日は、みなさんの相手はできないのよ。ダンちゃん、リンちゃんはそれでも大丈夫?。」
「私は大丈夫です。王都で武具を見繕うかと思ってましたので。」
とは、リンさんのセリフ。
「俺も大丈夫です。メムと一緒に、王都の市場を散策してみようと思います。」
「そう、何かあったら、王都警備隊の方に連絡してね。」
そういう話になり、部屋へ引き上げた。
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