38弾 素材をいろいろ集めてみよう
この異世界にきた時に、メムから受け取ったリボルバー式拳銃の弾丸をどうするか、試行錯誤をしている。ヒントはメモに書いた『レンコンの肉詰め』だった。プラス、メムの話で、俺の生まれるかなり昔は、紙製薬莢がかつて使われていたことと、戦国時代に早合という簡易薬莢、これも紙で包むのだが、それで火縄銃の弾込め作業を簡略化し、発砲速度を上げるということを聞いたからであった。
さすがは腐っても鯛ならぬ、猫っても女神である。知識はあるなあと感心しながら、話を聞いていた。問題は、紙製薬莢を作るにしても、以前から調査と試行錯誤で分かっていたが、火薬の材料や代用品がないこと、雷管の材料も代用品もないこと、および、この異世界の魔術知識を色々勉強はしているが、魔術の発動体系が、この異世界の方々と俺とでは何かが違うことであった。
化学の知見が魔術に隠れているようなものであり、前世の俺の知識、メムの知識も含めての活用がうまくいかないのだ。
火薬の代用品になりそうなものは、以前、爆岩石を試してみたが、どうやっても加工が難しく、失敗に終わった。
今試行しようとしているのは、弾を打ち出すのではなく、魔法を発動させることができるかどうかだ。これは、マーハ商店のダホンさんとの会話がきっかけになっている。魔法発動のための短杖みたいにみられたことを考えて、この異世界の魔術によく使われる素材を使用する。と、いうことで、ここ最近は、素材、資材集めが主になっているのだが。
まずは紙集めだが、一般的な生活雑貨として使われる紙を研究材料にするため、一般的なフツーペーパー、料理用のチョーリペーパー、前世でいうトイレットペーパー、この異世界ではヒップペーパーというが、など新紙、古紙問わず集めてみた。この異世界もなかなかに紙の種類がある。あと、魔伝紙(までんし)も買ったが、これは、本人登録証の元になる紙で、魔力に反応するという代物。ただし、値段もそれなりにする上、供給量もそう多くないので、大量に購入とはしかない。前世でのA4くらいの大きさの魔伝紙が10枚で、12万クレジットもする。
あとは、魔法式、魔法陣の参考書を図書館から借りたり、古書屋から買ってみる。この異世界では、基本は、他人に魔法の手の内は見せないようになっているので、高度なものは借りられないし、売っている古書、古本は安めのごくごく初級レベルな魔法関連の本だ。
組合本部で依頼をこなしながら、素材、資材をコツコツ集めていく。
「ここ最近、冒険者ギルド依頼より、商業ギルド依頼をこなしているのは、素材と資材を集めるためね。」
組合本部の部屋に、素材等が増えるのを眺めながら、メムが呟く。
実際、素材等を集めるには、商業依頼がちょうど良かった。街中を巡る依頼を中心に資金も稼ぎつつ、素材等の販売情報も集めたかったからだ。
それに、囮役だったとはいえ、前に賊に襲撃された際の対応で、近接戦闘のみにするのも、あの時は何とかなったとはいえ、今後のことを考えると、
「戦闘スタイルを変えるというより、新たな戦闘スタイルを加えるというところですか。いつまでも魔術なしの戦闘方法は、早晩行き詰まりますから。」
「そうね、私とのコンビネーションも、ダン、あなたの近接戦闘だけだと、生かし切れない可能性は大きくなるかもね。」
「それもありますし、レベルが上がっても、能力値はカンストしてきたのかとも思いますし。」
俺自身の本人登録証をポケットから出して眺めながら、嘆息する。
氏名:ニシキ・ダン 17歳 レベル4
ジョブ:魔弾道士
能力値
筋力:85
知力:88
敏捷:99
魅力:79
魔法属性:火 水 風 土 光 闇
特技能力:??? ???
個人特殊能力:タイムマネジメント
俺のレベルは上がったのだが、どこぞのRPGみたいにレベルアップのファンファーレも無く、レベルアップのボーナスもない。特技能力はクエスチョンマークのまま。まあ、地球の現実世界のようにシビアで世知辛いものなのだろう。この異世界も。
ジョブの意味も未だよくわからない。魔弾道士って何? 色々調べていたが、明確に示されるものはなかったから、むしろ諦めて、ジョブ:魔弾道士、についてはもう考えないことにした。
「しかし、フラグのおかげで、資金はいい感じで増えてきているし。ね、ダン。」
「収入が増えた分があるからって、やたらに高級食材の大食いやらができるものではないですがね、メム様。」
「ちえっ、グルメツアーはまだ夢のまた夢か。」
確かに、マーハ商店とのフラグの開発と販売で、俺たちには、一種のパテント料が毎月入ってきており、そこにプラス売上の7パーセントも入ってくるので、それなりに小金持ちにはなりつつある。
小金持ちという理由は、メムが、俺の収入増加を知って、組合本部の食堂よりも、外の少し値の張る食堂へ行きたがり、俺もたまに根負けして食事に行くが、まあその時も、遠慮も容赦もなく食べ尽くすので、その分食費がかかるようになっているという問題が、新たに発生しているからだ。それに、弾丸の研究で、素材や資材にお金を費やしていれば、それなりの支出になる。
「メム様、贅沢は敵です。本当に元の世界に戻る気はあるのですか。」
「わかっているわよ、でもストレス解消は必要よ。それに贅沢は敵なんて言ってると、そのうちダンは禿げるわよ。」
メムが言い返してくる。
「いいのですか、そんなに暴食していると、元の世界で元の女神の姿に戻った時に、体型が大きく変わっていて、他の神様達にあなたが女神メムだと、認識してもらえなくなりますよ。あ、前にも言いましたっけ。」
「そんなことは、ないはず………。」
断言しかけて、もしかしてと思ったのか、元女神猫は、語尾を言い淀んでしまう。
俺としてもメムのためにも、大食い以外のストレス解消法に、猫の遊び用具として前世で売られていた猫じゃらしを、あわよくば商品化も狙って、この異世界でも作ってみたが、メムに示した途端にブチギレられて、
「何これ、猫用のおもちゃ?。私は女神よ、私を猫扱いするとはどういうことよ。いい、私は女神よ。」
とまくし立てた上、俺に頭突きを喰らわせたのだった。ううっ、効いたー。これはお蔵入りか。
メムのストレス解消法、大食い以外のストレス解消法は何かないものだろうか………
と、メムのストレス解消法を考えながら、魔術研究に勤しむことにする。
紙製薬莢は紙で薬莢筒を作り、その中に、火薬の代わりを入れることになるのだが、何を入れるか、今は全く思いつかないので、まず銃のシリンダー、いわゆる回転弾倉の中の大きさをいろいろ調べて、弾丸と同じくらいの大きさの円筒型の筒を作ることになる。弾頭はいらないから、その分は先を尖らす必要はないしな。のりしろを加味して展開図を作り、それに従い紙を切り抜き、その切り抜いた紙に、羽ペンでインクをつけ、魔法式や魔法陣を参考書から書き写し、書いた部分を内側にして糊付けし、円筒を作る。
フツーペーパー、チョーリペーパー、魔伝紙、を材料にしたものはできたのだが、ヒップペーパーで作るのは無理だった、羽ペンで、魔法式や、魔法陣を書写しようとすると、ヒップペーパーは破れてしまうのだった。
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