39弾 研究結果を反映させよう?
「ねえ、魔術の研究ってもっとどこかいい場所はないの?ダン。」
「街中じゃ基本使用禁止になってますし、人に見られにくい場所を考えるとね。」
俺たちは、メムと最初に出会った、その時はまだ地名を知らなかったが、カーリメアの森の入り口にいる。途中まで乗合ドラキャで向かい少し歩いて、俺がファイティングエイプ達と出会った付近までメムと共に歩みを進める。依頼をこなしつつ、その間に魔術研究をしようと考えて、ここまで来たのだ。
荷物を足元に置いて、適当な近くの木に歩いて行き、的となる古板を立てかける。
そこで、あらかじめ製作した、6発分の紙製薬莢、フツーペーパーの円筒、フツーペーパーの円筒の中にフツーペーパーに書き込んだ魔法式を詰めた物、チョーリペーパーの円筒、同様にチョーリペーパーの円筒の中に書き込んだ魔法式を詰めた物、魔伝紙の円筒、魔伝紙の円筒に魔伝紙に書き込んだ魔法式を詰めた物をカバンから出して、一緒に件の拳銃を出す。
拳銃の弾倉を取り出すボタンを押し、左側に弾倉を振り出すと、紙製薬莢を詰める。詰め終わると弾倉を元に戻し、立てかけた古板を的にし、両手で拳銃のクリップを握り、ハンマーに右親指をかけて引く。深呼吸して、引き金を引く。
カチリと音はしたが、拳銃には何も起きない。同様にハンマーを再度引き、もう一度深呼吸して、引き金を引く。さっきと同様にカチリと音はするが、何にも起きない。引き金を引き、カチリと音がするだけのアクションを後4回繰り返す。
「えっと、何にも起きないわね。」
メムが戸惑いがちに言う。
「ええ、何にも起きませんね。」
俺が、おうむ返しのように淡々と言葉を返す。そう言った後、ハンマーがセイフティの位置つまり、使わない時の位置にあるのを確認し、弾倉を取り出すボタンを押し、弾倉を振り出して、弾丸を見ると、魔伝紙の円筒が2発分消えていた。
「で、結局のところ、魔術研究は進展したのかしら。」
少し疲れた声で、メムが聞いてくる。
「まあ、少しは進展したと思いますよ。成果がゼロというわけではなかったので。」
俺は少し明るい声で、メムに回答する。
ここでの魔術の実地研究を一旦終わらせて、組合本部の部屋に戻ることにする。
「ということで、わかったことがあります。一つは、今の段階で紙製薬莢として使えるのは、魔伝紙ということ。もう一つは、あの拳銃で、魔法を発動できる可能性があるということです。」
部屋に戻り、メムに説明する。
「ふーん、ま、可能性イコール実現性じゃないからね。」
メムが意外とクールな反応を示す。そして追撃の一言を
「ダン、どうせ今度は新たな問題も出てきました、とか言うのじゃないの。」
「ええ、その通りです。今回、魔法式は、参考書から火球という一番低レベルで、誰もが使える魔法式を書き写したのですが、発動した様子はありませんでした。俺と、魔法式が合っていないと言うことです。」
「へー、もしかしてだけど、あなたに、ここの世界の記載された魔法式や魔法陣は合わないのじゃない。私たちは、この異世界にとっては、全くの異物であり、外の物だから。」
「そうですね、あともう一つは、魔伝紙は高いと言うことです。」
「でも収入は増えているわよね。私の食費に響くのかしら。」
「贅沢を控えるしかないです。ただ、魔伝紙は費用の問題だけでなく、販売数の問題も。売っている量が多くないのです。」
魔伝紙を使う上で、量が少ないのは結構な問題になる。大量に紙製薬莢が必要になっても、材料が無ければ、当然作れないし、拳銃はただの宝の持ち腐れになるか、殴打用の武器になるしかない。
「でもあなた用の杖の材料を買うことを考えたら、まだマシにはなるのでしょ?あの高級な杖の材料費だけでも、ウン百万クレジットやら、ウン千万クレジットもすることに比べたら。」
「まあ、あの拳銃で、俺が魔法を発動できるようになれば、解決するかもしれませんが…。」
「まあ、しっかり稼いでいく事しかないわね。」
メムは非情の一言で締めにかかった。
まあ、しっかり稼ぐ必要はあるので、依頼をこなし、その合間に魔術研究を進めていくという日々を過ごしている中、急に朝から、激しく
俺も、あまり見ないハイランカーもいるのか、装備からしてしっかりした物だな、と思いながら他の冒険者を観察していると、冒険者の集団の前方に一人の男が立った。
「朝早くからすまない。冒険者ギルド長のロジャーだ。早速だが、緊急事態、
そう言われて、冒険者たちの士気も上がってきたようだ。その話の後、組合本部の受付内で混雑した中、各員に街のどこに行くのか、警備隊のどの分隊に行くのかを示した指示書を渡される。
と言う事で、俺たちは、
(ねえ、ダン、私たちはどこに行くの?)
(第2裏門ですね。第十警備分隊です。いろいろ依頼がらみで因縁があった分隊ですね。しかしまるで、災害が来るための対処みたいだな。)
念話術でそう会話しつつ、第2裏門の第十警備分隊のいる場所へ急ぐと、
「おや、ニシキ殿。」
と、ギグス・ローウェル隊員が、
「おお、ニシキ殿、来てくれたか。」
と、ローウェルの父でかつ第10警備分隊副分隊長のギグス・ステファンが、互いに声をかけてきた。
「ここでしたか、分隊の集結場所は。で、俺は何をすればいいのでしょうか?」
そう言いながら、俺は周りを見渡す。この分隊に送られた冒険者は、どうやら俺だけらしいが。
「ああ、後方支援が主任務になる。兼ねて予備兵力だ。門外に出ている分隊に物資を送り込むことになるだろう。今は、命あるまで待機になる。そのうち忙しくなるからな。」
「わかりました。」
とそこへ、別の声がして
「ああ、彼が冒険者ギルドからの協力者かな。」
「はい、分隊長。」
副分隊長が答える。ああ、この人が怪我でしばらく療養していたと言う分隊長か。
「初めましてだね、私が第十警備分隊分隊長の、姓はガーラン、名はモーリーズだ。よろしく頼む。」
まるで、穏やかで知的さが溢れた、前世でいうところの大学教授のような感じの人だ。右の腰に短杖が刺さっている。魔法使いか。
「こちらこそ、冒険者をしています。姓はニシキ、名はダンと申します。よろしくお願いします。」
分隊長を観察しながら挨拶を返した。
「君がニシキ殿か、うちの副分隊長とローウェルが世話になったと聞いている。ふーん、ところで君の戦闘スタイルは、剣士と魔法の混合かい?」
今の俺の格好は、一般的冒険者な服装に軽鎧を着けて、左腰にショートソード、右腰に拳銃をぶら下げている。それを見たのだろう。
「いえ、魔法は使えなくて。これは殴打用武器です。」
と答えると、
「ほう、変わった短杖だなとは思ったが、そういう武器か。ふーむ、すまないが、他の隊員を見ておくので、一旦失礼するよ。」
と言って、俺たちの前を離れて行った。副分隊長も分隊長についていった。
「へえ、分隊長は魔法使いか。」
と呟くと、傍にいたローウェル隊員が
「火と土属性の魔法に秀でていますからね。自分にも追いつけるかどうか、いい目標です。」
と言ってきた。
そこに、響き出す轟音と鬨の声が。
「この音は、まさか。」
「始まったみたいですね。バーバリーエイプが襲撃を開始したのでしょう。」
ローウェル隊員の顔も険しくなる。街中にも緊張感が漂い出す。
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