30弾 練習(トレーニング)に参加しよう

 商業ギルド系の依頼もランクアップとともに、増えてきたので、淡々とこなす。本日は運良く、配送達依頼を4件同時にこなす。ただし街中を走り回ることになったが。商業ギルド系と冒険者ギルド系の両方を同時にこなしてもいいが、まだそれは依頼の重なりが悪いのかできていない。


 依頼完了の報告をして代金を受け取り、部屋に戻ると、窓をノックする音が。窓を開けると、黒い鳥がそこにいた。ベンレーかと一瞬思ったが、尾だけが白い鳥だった。別種か。そう思って見ていると、


「使イ、使イ。チャンプ、ノ、オ頭ヨリ連絡。」


 どうやらこれが、ファイティングエイプが前に言っていたツカイドリとかいうものか。


「連絡、我々ハ、シバラク定住スル、キャンプ地ニ着イタ。場所ハ、スレアチックノ森。ソコノ付近ニ着ケバ、前ニ渡シタ笛ヲフケバ、我々ハ、案内スル。手合ワセト、指導ヲ、オ願イシタイ。」


 えっと、前もらったのは木札らしきものだったが、あれって笛だったのか。心の中でツッコミを入れながら、スレアチックの森がどこにあるのか後で地図を確認しようと考える。


「私を置いてけぼりにはしないわよね。というかどっちにしても行くつもりでしょ。」


 メムが俺に確認する。やってきたツカイドリに、数日のうちにそちらに来訪する旨、チャンプのお頭へ伝言を託すと、ツカイドリはファイティングエイプの群れの場所へ飛んで行った。


 正直、現状戦闘スタイルはある程度確立しているが、相変わらず、魔術の使い方、魔法や魔道具の発動に難を抱えているままで、杖の材料についても費用がまだ手に届かないし、例の拳銃らしきものをどう使うかも行き詰まっている。また、この異世界について調査して、我々が元に戻る方法も模索しているが、冒険者と商業のギルドランクがまだ低いため、情報未開示の資料も多いのだ。こんな状況なら、逆に思い切ってあのファイティングエイプの皆さんと会って、戦闘能力と技術を上げることも考えたくなる。おまけに行き詰まっているせいか、メムの暴食で家計が苦しくなる時もある、しかし、稼ぎが増えたのでなんとかなりつつあるが。


「とりあえず、行って見ますか。前々から話はしているし。」


 組合本部には、当座の間、スレアチックの森へ探索に行くことを話すと、用心だけはしてください、と言われる。

 場所的には、ドラキャを半日使えばすぐのところという事で、徒歩でもいけるが、ドラキャの送迎ををお願いしてみる。スレアチックの森まで送ってもらい、帰りは3日後の朝に、降ろしてもらったところで拾ってもらうことにする。スレアチックの森はまあ初級クラスから中級クラス向けの冒険場所だというが、どんなものだろうか。


 ドラキャを降り、しばらく森の奥に進み、木札のような笛を吹こうとするが、どこから吹くのかわからない。裏下の部分に小さな穴が見えたので、そこに息を吹き込むように吹くと、微かにピーっと甲高い音が鳴り、しばらくすると、木の上から、ファイティングエイプが2匹降りてきた。ただこの登場で、メムが少しビクッとした。2匹のファイティングエイプに荷物を持ってもらいながら、案内されて、さらに森の奥へ進むと、少し開けたところがあり、そこにお歴々がいた。


「ヨウコソ、ニシキ殿。久シイナ。」


「これは、チャンプ殿。お久しぶりです。グランドキャットも連れてきましたがよろしいでしょうか。一応俺の相棒ですので。」


「一応?、相棒でしょ。一応は入らないわよ。」


 メムが抗議の声を上げる。


「何、構ワヌ。我々ニ危害ヲ、及バサナケレバ。トコロデ、早速ナノジャガ、手合ワセヲ、オ願イシタイ。良イカナ。」


「わかりました。」


 ショートソードを外して、地面に置く。

 ファイティングエイプ達が、最初に遭遇した時のように、四方に俺とチャンプを囲う。


「デワ、一ツ、オ願イスル。」


 そう言って互いに一礼する。とすぐにチャンプは両拳を顎の下にあげて構えをとった。

 この異世界にきて、個人特殊能力のタイムマネジメントという能力が、実際どんな力かわからなかったが、今ここで手合わせすることで、そして今まで退治依頼により獣達と戦ってきたことで

俺の答えが見えそうな気がする。


「集中」


 小声で呟くと、こっちも両拳を口の前に持ってきて構える。このタイムマネジメントの力、俺が仮説として考えているのは、戦闘時の情報処理能力の速度向上ではないかということである。相手の動きがスローに見えるのは、相手の動きの分析と予測を、ものすごいスピードで行っているから。そしてそれができるのなら、まず、相手の攻撃を予測し、それをかわしつつカウンターの一撃しかない。

 チャンプが構えたまま、一気に間合いを詰めてくる。ものすごく自然でスムーズだ。だが集中力を上げた俺には、スローに見えている。やはりパンチか。右ストレート。これに合わせる。左手で相手の右ストレートを受け流しながら、体を少し捻り、右足を前に置き、右肘を上げて固定し、そのまま体ごと相手に叩きつける感じで腹部を狙う。

 ズシリとした感触が一瞬あったが、相手が後ろに飛び下がる。うまく衝撃を受け流したのか。

 再度相手が、さっきと同様に構えて間合いを詰める。ダメージを感じさせない動きで、左ジャブ、いや、タックルか。なら、右膝を飛ばして膝蹴りを放つ。相手の顔面にヒットするが、これは。俺は思いっきりタンタンと飛び下がる。ダメージ覚悟でタックルするつもりだったか。ただ相手の顔は少し腫れ上がる。

 相手が、スルスルと近づいてきた。俺は右半身の構えを取りガードを下げた。右アッパーだ、俺は右にかわしながら、右ショートフックを浴びせると手応えがあった。全てスローに見える状態だった。


「ウウッ、マイッタ。」


 チャンプは後ずさりし、両手を上げ、


「見事、マイッタ。」


 と言ってきた。

 互いに一礼をして手合わせを終える。


「以前、ゴルドト、手合ワセシタ時ヨリ、技ノキレガ増シテイル。」


「いえいえ、流石です。しっかり打ち込んだはずが、うまく受け流されたところがあります。」


「ウム、ソウカ。シカシ、相手ノ動キヲ、ヨク見抜イテイル。コノママ打チ込ミ続ケテハ、コチラガ不利ニナリソウダッタ。」


 この群れの頭として君臨しているだけのことはある。こっちのカウンター戦術を見抜いているようだった。


「こちらこそ、ありがとうございました。」


 今回は、相手の動きを分析予測し、タイミングを計り、カウンターで撃ち抜く方法を試してみたが、かなり有効だと分かった。

 あとは、依頼の時にどう活かすかだな。


「デハ、少シ休憩ノ後、コヤツラヲ、指導シテクレヌカ。」


 うわー、1匹1匹ずつは結構大変だぞ。そう思っていると、


「やるわね、さすが私の相棒。」


 メムが冷やかし半分で声をかけてきた。



 この後、ファイティングエイプの練習風景を見学し、目についたところをチャンプと共に指導していくことになった。俺たちの予定のこともあり、ドラキャが3日後の朝に迎えにくることを伝えると、その間、指導をし、ゴルドとシルバとブロンズの3匹の有望株と公開スパーリングをしてくれという話になり、しっかり指導とスパーを行った。俺が指導したのは、パワーに頼りすぎて、スタミナが不足しているのではないかということ、それとみんな大振りになりやすいので、細かいパンチも必要ではということだった。スパーはマスボクシングみたいな感じで、途中途中に俺がアドバイスを挟みながらのスパーとなった。周りに見物客のファイティングエイプたちがいる中のスパーは疲れるものだったが。

 寝床は木の上に板を渡して、秘密基地みたいな小屋が用意されており、そこで寝てみたが、意外に心地よかった。メムもこの寝床は気に入ったようだった。


「悪くないわね、居心地がとってもいいわ。ダン、あなたもそう思うでしょ。食事が木の実と果実のみ、なのは腹にたまらないから少し惜しいけど。」


「いい心地です。メム様。」


「ところで、答えは見つかったの。」


「何のことですか。」


「今回、ファイティングエイプと手合わせして、何か見つけようとしたのじゃない。いつもより緩急の動きに、キレがあったわ。」


「そうですか。ま、色々行き詰まっているかなと思っていたので。今後の冒険者稼業にプラスになればいいのですが。そして元の世界に戻りたい。ただ、そのために……。」


「手を汚すかもしれない、と。…わかるわよ。一応、相棒よ。理想と現実でしょ。」


「そうですね……。でもまずは、さあ、寝ましょう。明日も忙しくなりそうです。」

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