31弾 この元女神に注目しよう?

 翌日、翌々日と指導を行い、チャンプやゴルド達と格闘と戦闘技術について意見交換と情報交換をしたり、バーバリーエイプとの関係性について話をした。

 ファイティングエイプが俺のようなヒューマーと話をしたり、手合わせをしたりするのは何十年ぶりだそうで、


「我々モ、アマリ定住ヲシナイノデ、ヒューマーニ、遭遇シテモ、他ノヒューマーガ、来ルコロニハ移動ヲ開始シテイタリスル。タマニ、ヒューマーガ、スグニ、魔術ヲ発動サセテ攻撃シテクル。ソンナ中、貴殿ニ会エタ。ソレハ、僥倖ぎょうこうナノダガ、ニシキ殿、魔術ハ発動デキナイノカ。」


「うーん、なんて言いたら良いのか。魔術の力が無い、のでなく魔術の発動に耐える杖などを手にいれるための準備中というところで。」


「我々トシテハ、協力シタイノダガ、魔術ニうとイノデ。」


「いやいや、お気になさらず。」


 そういうやりとりをして、離れる予定の日が来た。


「手合ワセニ、指導マデ、誠ニアリガタク。マタ、イツカ、機会ガアレバ、手合ワセ、指導ヲ、オ願イスル。コレハ些少デアルガ、指導料ミタイナモノダ。」

 

 と言ってチャンプが正四面体の形状になった立体物を渡してきた。


「これは…綺麗な正四面体の石?ですか。」


 黒色をしているが輝きがなく光に当てても、輝きも反射もしない。


「力ヲ秘メテイルヨウナノダガ、我々ニハ、分カラナイ。持ッテイテモ、ショウガナイ。」


 と言って俺たちは、チャンプ率いるファイティングエイプの群れに別れを告げ、案内に従いスレアチックの森のドラキャを降車したところへ行き、俺たちを乗せるドラキャがやってくるのを待った。


「見事に正四面体ね。こんな石見たことはないかも。」


 待ってる間に、メムが話しかけてくる。


「力を秘めていると言ってましたが、どんな力か渡した側もわからないのかもしれないということですね。」


「分析するにしても、街のどこでやってもらうかね。」


 そういう会話をしてるうちにドラキャが来たので乗り込み街へ帰還した。



 この異世界は、3日勤務1日休みの生活パターンが基本なのだが、依頼を行っていると、そのパターンで休みを取れなくなることもあるので、その場合は、代休みたいに休みを連ねることもできる。休みの日は大概、掃除、洗濯で1日が終わることも多いのだが、たまには。


「メム様、久しぶりにあの茶店に行きますか。」


「そうね、行っても休みか、雨が降りそうになって、慌ただしく茶と茶菓子を平らげて帰っているものね。」

 

 あの茶店を知ってから、自分の休みのタイミングで、何回か店に行ったが、店が開いていたのが3回ほど。それも茶を堪能しようとすると、天気の急変で、干した洗濯物を取り込むため、慌てて引き上げるパターンばかりでゆっくり茶も飲めない。あと3回は休みだった。こんだけ落ち着いて茶を堪能できないと、半ば意地になって、空いてる日に当たれとばかりについ通ってしまう。


(今回はゆっくり堪能したいですね。)


(そうよね、茶を飲み出したら天気の急変で、というのは勘弁してほしいわよ。)


 洗濯を終え、外干しして、今日の天気は大丈夫なことを祈りつつ、茶店ノンブリへ向かう。


 茶店に着くと、表に店の少年が出てきた。『臨時休業』と手書きの札を扉にかけている。


「え、何かあったのですか?。」


「ああ、足を運ばせて申し訳ありません。開店したところだったのですが、厨房にトラブルが発生して、調理ができなくなりまして。」


「トラブルですか、厨房器材の故障か何かですか。」


「いえ、茶葉をほとんど丸こげにしてしまいまして、茶が出せなくなってしまって。」

 どうりで微かに焦げ臭い匂いがするとは思ったが。


「被害はそれだけですか。怪我人とかはないのですか。」


「お気遣いありがとうございます。怪我人はいませんし、焦げたのは茶葉だけですので。後で焦がした奴をしばくので、そういう怪我人は出るでしょうけど。」


 口元に笑顔はあるが、少年の目は笑っていない。


「そうですか、また日を改めて伺います。」


「こちらこそ、来ていただいたところで、申し訳ございません。」


 少年は深々と頭を下げる。


「お詫びと言っては何ですが、割引券です。1ヶ月有効です。」


 と言って、チケットを渡してくる。2割引のチケットだった。


「わかりました。機会があれば使わさせていただきます。」


 そう言って、その場を離れる。


(まあ、残念ね。確かに焦げた匂いはあったけど。)


(しょうがないですね。俺たちは運が悪いということで。)


 組合本部に戻り、部屋でゆっくりするか。そう思いながら、中心街へ向けて歩みを進める。メムがキョロキョロし出す。


(どうしました、メム様。お手洗いが近いとか。)


(いえね、最近妙に視線を感じるの。何か観察されているというか、監視されているというか。)


 俺は背伸びをし、腰を左右に捻り、体をほぐしながら歩いている体で、後ろを見てみる。


(ふうん、尾行されている、というわけではなさそうですが。)


(どっか物陰から見ている感じじゃないかしら。)


 念話術での会話は、このような時、意外と便利だ。


(やはり、メム様の美しさが、存外人目を引くことがあったりして。)


(まあ、女神だからそういう目で見てくれる、この異世界の民もいるのかもね。)


(すみません、言葉が足りませんでした。グランドキャットとしての美しさがでした。)


(いい度胸ね、喧嘩売ってるのかしら。)


(いえいえ、で、今、視線は感じますか。)


(うーん、今はなんとも言えないけど、さっきほどではないわね。少し視線を感じる程度かしらね。)


(じゃあ、当分用心しておきますか。)


(そうね、わかったわ。あと、帰ったら、グランドキャットとしての美しさが、との発言についてしっかり説明してね。)


いやあ、そこを根に持たれても………。


軽く昼食を済ませて、組合本部の部屋に戻る。


「どうですか、メム様、視線を感じますか。」


「そうね、全く感じないわ。組合本部付近で切れた感じね。」

 

 まあ組合本部付近で不審な行為はできないだろうし、そんなことをしていたら目立つだろうし。

 そこへ、ドアがノックされて、開けると、セイクさんがそこにいた。


「何か緊急依頼ですか。」


「いえ、帰ってくるのをお見かけして。こちらに連絡が届いたもので。」


「連絡事項ですか。何かあったのですか。」


「警備隊総隊長から明日昼以降、もしくは明後日に警備詰所本部へ来てほしいと連絡がありまして。」


「来てほしい理由というのは。」


「ギグス氏にかかわることだそうです。」


 どっちの話だろう。親父殿か、息子殿か。


「明日昼飯後に伺いましょうか。」


「わかりました。総隊長には、こちらからそう伝えておきます。ちょうど別件で、組合本部から警備隊に使いを出すところなので。」


 意外とこういう事はスムーズに流れていくような気がした。


「あと、大した事ではないのですが、そのグランドキャット、最近子供達に人気ですよ。」


「へええ、そうですか。」


 視線を感じる原因ってこれか………。


 セイクさんは話を終えると、すぐに組合本部受付へ戻って行った。


「やっぱり、視線の原因は子供達のようですね。メム様。」


「うーん、それは嬉しいのだけど、あの視線は、子供の視線の感じじゃなかったわ。」


「じゃあ、やっぱり用心しておきますか。」


「で、グランドキャットの美しさがと言った件だけど。」


「実際、子供達にそう見られているんじゃないか、と思ったからの発言ですよ。」


「それはそうなんだけど、ただ見続けられて監視されている感じの視線がいくつか混ざっていたのよね。邪な感じというか。子供の視線ってもっと純情というか、まっすぐな感じなのよ。」


「うーん、敵意は感じなかったという事ですか。」


「敵意は感じなかったわ。」


「また、邪な視線を感じたら言ってください。」

 

 あんまり俺たちに興味を持たれるのも困るような気がする。別世界から来ました、と言ってもこの異世界の人々は、信じてくれないだろうけど。


「なるべくこの異世界で目立たず、この異世界に介入せず、この異世界で殺さず、の姿勢で元の世界に戻りたいのですが…。」


 俺は呟いた。


「ダン、理想と現実よ。」


 メムがフォローしてくれた。

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