21弾 弾丸について調べてみよう
俺の持ってるリボルバーの拳銃は弾丸が無い。弾丸は弾頭、弾薬、
俺がある程度把握した、銃と弾丸についての知識だ。一部はメムに教えてもらったが。
ただ、この異世界には銃器の概念が無い。銃器の概念が無い以上、弾丸の概念も無いし、ましてやそれの材料の概念も無い。昔のトイレ、厠の土から硝石を取ろうとしても、意外に下水が完備していて水洗式トイレだった。また、燃水(もえみず)というまるで液化ガスのようなもので、料理などの燃料に使うというこれまた意外なことで、木炭をあまり使わないこともわかったのだ。つまり材料の調達がまず無理だった。代用品を探すしか無いのだが…
ということで、街付近の鉱山跡に来ている。
「こんな昔の鉱山跡、何にも無いじゃない。何、人もいないから、歌のトレーニングでもするつもり。あなたのレベルじゃまあ無駄よ、無駄。」
メムはまだ俺の音痴ネタでいじるつもりのようだ。俺は黙ってメムをじっと見つめて、大きくため息をつく。
「まあ、今まで少しずつ私に聞いてたけど、この拳銃の弾丸の代用品について考えていたのでしょ。前世の知識で弾丸を作るにしても、恐ろしいほどの無い無い尽くしじゃね。」
「見当ついているなら、音痴ネタでいじる必要はないでしょう。メム様。」
「わかっているわよ、軽いジョークみたいなものよいじってみただけよ、気にしないで。もうあの制裁は嫌だから。」
「本当ですか?。まあ、ちょっとこの鉱山跡についての情報で気になることがあるので。」
この鉱山跡、かつては建材用の石材を切り出していたのだが枯渇してしまい、閉山したと聞いているのだ。ただしもう一つ理由があるらしく、それが、
「この石です。俺がここに来た理由のもう一つは。」
炎の模様状に朱色が混ざったこぶし大の薄赤い石をメムに見せる。
これは通称『爆岩石』と言われるもの。強い衝撃を与えると爆発を起こすらしい。しかしこの異世界では、この石についての研究が進んでいない。なぜなら、火属性魔法で爆発させる魔法と、風属性魔法で気体を爆ぜさせる魔法があるからである。
それに元々は依頼として組合本部から鉱山跡の探索を頼まれたからである。
2日前…
「ちょうど依頼を終えたところで、一件お願いしたいのです。最近、鉱山跡にて妙な爆発音がするとの話があって、その調査探索となります。爆発音の原因を探っていただければ。いえ、原因の探究調査だけで問題ありません。」
「わかりました。まあやってみます。早いほうがいいですよね。」
「ええ、期日は明日を含め4日以内でお願いします。」
ということで、ちょうどいいタイミングなのもあった。事前に情報の収集を先にやっておき、それから現場探索と調査である。
「さてさて、何が出るかな。」
「まあ何も出ないわよ。私の鼻に何も匂わないから。」
あっさりとメムが断言する。ある意味このメムの鼻が敵感知レーダーみたいなものだ。
「まあ原因の一つがこの石でしょうけど。」
俺は呟く。考えられるのはこの爆岩石を誰かが、もしくは何か獣が投げたりして衝撃を与えて爆発音がしたということ。でもこの石、どうやったら加工できるかなとも考える。多分普通の石を割る方法で、楔を打ち付けるのは難しいだろう。楔を打ち込む衝撃で爆発するだろうし。弾丸の代用品にするとしても同じ大きさに加工する方法を第一に考えなくちゃならない。しかも衝撃を与えないで、この爆岩石を割ったり削ったりする手段は…
それやこれや考えていると、この異世界でベンレーという大きめの烏のような鳥が数羽、鉱山跡に降りてきた。
「あれ、何してるのかしら。」
メムが疑問を呟く。
「まあもう少し観察ですね。」
俺が答える。どうやら何か探しているようだ。
そのうちに、何かを足で掴んで飛び立っていった。そのうちの1羽がかなり大きめの石を掴んで飛んでいるが、飛行バランスを崩して足から石を離してしまう。その石が地面に落下すると同時に
ドッカーン
「なるほどね、欲をかき過ぎたのですね。」
「そのようね。」
「あのベンレーが欲をかき過ぎて、足で掴んでいたが、爆岩石を落としてしまった。それで爆発音がするようになった。」
「まあそんなことだろうけど、疑問が出るわね。ダン。」
「運んで行ったあの石はどこに行くのかという点と、なぜあの石を持っていくのかという点ですね。ふーむ、どこかに鳥類学者はいませんかね。」
前世で得た知識だが、カラスが、植物の実の油脂分でできた蝋燭を餌がわりに持っていってしまうのだが、その蝋燭に火がついたままだったので、持っていっている途中で火を落として、思わぬ放火事件になるという話は聞いたことがあった。もしかして今回のこの件とよく似ている気はする。
まあ、どっちにしても原因物質を持って帰って、報告するか。
「ねえ、その爆岩石、どうやって持って帰るの?」
「うーん、極小のかけらを探して持って帰るか。それともそこいらにある爆岩石を持って帰るか。ま、暴発しないようにすることを考えたら、極小のかけらを探すか。」
さっきのベンレーみたいに欲をかくわけにもいかないし、火のついてない蝋燭のようにもいかない。結局、時間をかけて極小の爆岩石のかけらを捜索することにした。
「ねえ、いつまで探すの?」
うんざりした感じの声でメムが問いかける。
「あともう少しですから。あともう一個だけ。」
「なんか博打にのめり込んでいるみたいな回答ね。」
とりあえず、手頃な小指の先の半分くらいの大きさの爆岩石を2つ見つけて、厚手のハンカチに包んで、カバンにしまっている。
もうこれ以上は無理か…そう思っているところへまたベンレーがやって来た。
「1羽か、でもなんか様子がおかしいですね。ちょっとここを離れますか、メム様。」
と言った途端に、ベンレーがこっちに目掛けて急降下してくると
「メム様、退避を。」
大声でそう言いながら、急いでその場を離れる。メムの動きは少し遅れた。
ドッカーン
爆発音が響き、砂埃が舞い、俺の耳がキーンと鳴って聞こえにくくなった。鳥類による急降下爆撃だ。
「メム様ー、ご無事ですかー。」
「…………………」
「メム様ー、大丈夫ですかー。」
「…………………」
俺の背後で荷重がかかる。メムだ。
「ご無事でしたか。」
「…………………」
「すみません、俺の耳がおかしくなったみたいで、何言ってるかわかりません。」
「…………………」
「一旦ここから引き上げましょう。」
メムがうっすらと白くなっていた。砂埃をかぶってしまったようだ。
元いた所から数十メートル移動し、お互いの状況を確認し合う。
「ねえ、聞こえる。」
やっとメムの声が聞こえた。
「ええ聞こえますよ。ただ爆音で俺の耳が、一時的に聞こえにくくなったようです。そちらは大丈夫ですか。」
「ちょっと埃っぽくなったくらいで、あとは何ともないわ。」
「さすが女神様、タフですね。しかしメム様、申し訳ありません、欲をかいて、ちょっとしつこく探し過ぎました。早めに引くべきでしたね。俺の判断ミスです。」
「どうせ、弾丸の代用品に、この爆岩石を考えていたのでしょ。」
「ええ、ご明察です。」
「まあいいわ、引き上げるのでしょ。さっさと帰って身綺麗にしたいわ。」
「そうですね、依頼完了の報告はできますし、潮時ですね。」
ということで、物を片付けて、街に戻り報告を済ませる。ベンレーが爆岩石を足で掴んで、取りこぼした時に爆発させた話をすると、後でどこかの研究者に、この話を持っていくことになるだろうと、担当のセイクさんに言われた。
「しかし、大変でしたね。」
セイクさんは半分笑いを噛み殺しながら、代金を支払ってくれた。
鏡で俺たち自身の姿を見たが、まるでとあるコントで、小麦粉を被ったかのようになっていたのだから。そりゃあ、笑われる状態だったわけだ。ふう、今夜は風呂に、明日は洗濯に精を出そう。
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