22弾 ランクアップに挑戦しよう
懲りずに何回も鉱山跡へ採集に出て持って帰った爆岩石を、弾丸の代わりにもしくは弾薬と雷管の代わりになるか調査実験してみたが、難しいと分かった。この異世界で、これを加工する技術がないし、俺も方法が見つからなかった。やはり衝撃によって爆発するとなると、衝撃を与えずに石を削ったり割ったりしなければならないので、ヤスリで削ってみたが、激しく削ると爆発してしまう。削る力の加減ができないのだ。水につけるとあっという間に溶けるので、加工の仕様がないし、溶かした水が液体火薬になるかと期待したが、何にも反応しなかった。貸し工房で色々やってみたが、加工に失敗し爆発した際の俺へのダメージもあり諦めざるを得なかった。でもこれ何かに使えないかな。
「ねえ、そろそろ食事にしましょう。」
メムが気だるげに促してくる。しょうがない。夕方だし、工房の使用時間もあるし、片付けて組合本部に戻って、そこの食堂で安く飯にしよう。
(なかなかうまくいかない物ですね。)
俺がため息まじりにぼやく。念話術でのぼやきもどうなんだか。
(まあしょうがないけど、でも八方塞がりに近い状態ね。)
(うーん、何か突破口があればいいのですが。)
夕食である日替わり定食を口に運びながら、無い脳みそからいいアイデアがないか捻り出してみるが、やはりないものはない。
(そういえばここの料理って、たまに前世に似ているものはあるのよね。)
何気なくメムがそう念話術で俺の頭内に話しかけながら飯をかっこむ。
(そうだねー、この料理とか。)
俺は相槌を打つ。この料理なんて、レンコンの肉詰めとそっくりだ……
一瞬、何か閃きかけた。でも具体的なものが浮かばなかった。メモ書きにレンコンの肉詰めと書いておく。
翌日
「今度は、冒険者ランクのランクアップ試験になります。」
セイクさんからいきなり、そう言われて、頭の中が少し固まる。
「はい?、蘭食うポップの試験?」
「ランクアップです。今までの依頼完了実績から、ランクアップ試験受験の資格者になりました。」
「そうですか、それはおめでとうございます。」
「ニシキ様、ボケ過ぎです。あなたがランクアップ試験受験の有資格者になったのです。」
「………あっ、俺か。すみません、実感がなくて。」
「どこか調子が悪いのですか?心ここに在らずみたいな感じですけど。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。何の問題もありません。」
閃きかけたものを具体化するために、昨夜色々考えていたので、寝ぼけ気味で頭が回らず、思考がブレブレなのかも知れないが、それはおくびにも出さないようにする。
「で、試験って何をすればいいのでしょうか。」
「ええ、では。この箱を、この地図に記載の場所に配送してください。期限は明日までです。」
「箱の中身は何でしょうか。中身を今ここで見ることができるのでしょうか。」
「いいえ、それはできません。さっき言ったようにこの箱を、地図に記載の場所へ配送してください。」
「わかりました。でしたら、この中身がどうなっても、そちらで責任を取るという文書を一枚ください。」
「え、……わかりました。少々お待ちください。」
予想外だという顔をしながら、セイクさんが一旦奥の部屋に、箱と一緒に移動した。しばらくして、紙を一枚持って、箱と一緒に渡してくれた。文書が、希望の文言であることを確認してから立ち上がり、試験である配送に取り掛かる。
「では行ってきます。」
セイクさんの表情には、少々強張った感じが浮かんでいた。
「ねえ、地図の記載場所までもうすぐなのかしら。」
メムも緊張感を持った声で俺に尋ねる。記載の場所は、前に爆岩石を取ってきた鉱山跡手前の森の中の古びた祠であったが。
「ああ、もうすぐです。ただしこの試験なんか裏がありそうなので、用心してください。」
小声でメムに答える。どうもこの試験には裏がありそうな気がする。まず一つに試験と配送する箱の中身について説明がなかったこと、もう一つは責任問題の回避のために文書を依頼したら、意外な顔をされたこと、最後の一つは、配送に出る前の担当者のセイクさんの戸惑ったような表情、今まで依頼受理していく時とは、全く違った顔だったのだ。
あと少しで目的地の祠に到着というところで、祠の後ろから人影を認めた。
用心して身構えると、その人影は火属性魔術の火炎弾を繰り出してきた。後ろに飛び下がって間合いをとる。相手は、短杖を右手に持ち、忍者のような頭巾を被り、マントをかけたままジロリと俺たちを睨んだ。明らかに曲者だ。
一旦この場から撤退しようとするところで、土属性魔術の石弾を撃ってきた。
集中していくと、石弾の動きがスローに見えるので、かわせるもの四発はかわし、あと二発はショートソードで受けて防御する。しかし、ショートソードが石弾を受けた瞬間、根本から割れ折れてしまった。
ショートソードは折れてもいいので、とりあえず柄を持ったまま前へ出て間合いを詰める。相手の動きはスローリーなままだ。
右足を踏み込んで、曲者の顔面に折れたショートソードを投げつける。そのまま、ダッシュをして相手の腰から太ももあたりに狙いをつけて、諸手狩りでタックルする。両太ももを捕まえて思いっきりジャーマンスープレックスをする要領で放り投げる。曲者は、地面にのめり込む直前にうまく前回り受け身を取り、前転するように転がっていく。そこを目掛けてもう一度ダッシュして右足でサッカーボールを蹴るようにキックする。後頭部に一撃を与えたが、ダメージを大きく与えていなかったようだった。
曲者が起き上がろうとするところに右パンチを打ち込もうとすると、
(ダン、その人は、担当のセイクさんよ。匂いで分かったわ。)
メムが必死な感じの念話術で知らせて来た。しかし、俺は勢いを止められず、曲者の顔面にパンチがヒットした。相手がぐらつき、片膝をつく。
俺は、少し後退し、声をかけてみた。
「もしかして、セイクさんですか?」
少し慌てて相手が頭巾を外すと、担当のセイクさんだった。
「ふぁい、そうです。反撃してくるとは予想外でした。」
「これ試験だと言っていましたが、どういうことですか?」
「まず組合本部に戻ってからお話しします。とりあえず試験は終了です。」
そう言われて、セイクさんと一緒に組合本部へ戻る。セイクさんは回復ポーションを飲みながら左顎をさすっていた。
メムが念話術で伝えてくる。
(セイク以外にも、二人ほどあそこにはいたけど、ただ見てる感じだったわ。)
やっぱり、試験官か何かか。取り急ぎ組合本部へ戻ったのだった。
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