23弾 警護の依頼をこなしてみよう

「まず確認したいのですが、この試験に何か気づいていましたか?」


 着替えたセイクさんが俺に尋ねてくる。


「配送物の中身を言わなかった点で、違和感を覚えていました。」


 俺が答えて回答を続ける。


「普通、中身は教えてくれる物だと思っていましたし、もし、言えない場合は何か条件なりをつけて配送依頼を行うはずです。でもそれもなかった。だから、俺は、中身の破損等に対しての俺の免責事項を要求したわけです。」


「まさかの要求でした。普通の方は大体がそのままギルドの話を鵜呑みにして動くので。」


「まあ、試験ですから、何か裏があるのかとうがった見方はしてましたが。俺の回答は、おかしかったでしょうか。」


「なるほど、用心深い対応ですね。ええ、ランクアップ試験は合格になります。」


「この試験で何を試験していたのですか。」


 俺は、肝心なところを尋ねてみる。


「配送をしてもらって、その途中で襲撃を受け、中身が破損したと受け取り側から文句が出たらどのような対応をするかを見ていたのです。ただ、ニシキ様の場合、その文句を言えなくする手段を設定したので、それが予想外でした。そこで襲撃をして、箱を破損させ、その状況でどうするか見てみようとしたのですが、反撃と正体を見抜かれるということになってしまったのです。」


「あれ、試験官はセイクさんだけですか。」


「いいえ、他の方も試験官として準備していたのですが、ニシキ様の回答がいろいろ上回ったのです。」


「わかりました。とりあえずランクが上がったということですね。」


「はい、おめでとうございます。冒険者ランク2級にランクアップです。」


 こうしてランクアップ試験は終わった。


 部屋に戻ってくると、メムが声をかける。


「ランクアップて言うけど実感ないでしょ。ダン。」


「まあ、もっと素直にランクアップ試験を受ける方が良かったのかな、とは思っています。」


「なんかあの試験については、ツッコミどころ満載な気もするわね。」


「確かに、冒険者ランクアップの試験なのに、商業ギルドの配送をするとは。いろいろ試験について聞いてもいいのですが、多分あまり質問しても、向こうも答えられないでしょう。」


「どうしてそう思うの?」


「試験の公平性は保つ必要があると思いますし、あまり試験について質問すると、俺たちがチートするという疑いも持たれかねないですから。」


「ふーん、まあそれもそうね。」


「でもお陰で分かった事があります。いや可能性かな。」


「何、改まって。」


「メム様はやっぱりすごいです。」


 メムが大いに照れる。


「いや、何よ、急に。当たり前なんだけど…ちょっと…黙ってないで何か言ってよ。」


 俺は生暖かい目でメムを見ながら話を続ける。


「メム様には、敵感知の力があると思います。まるで探知レーダーみたいです。あと、状態異常に強くて無効化できる能力があるのでは、とも思っています。もちろん、前にも言っていた最強の囮としての力は半端ないです。やっぱり女神様、素晴らしいです。大食いでなければなお素晴らしいです。燃費が悪いのですかね。」


 調子に乗りすぎて口が滑りすぎたようだ。


「ダン。………上げて落としているのかしら。女神に対して燃費が悪いとは、どう言うことか・し・ら。」


「いえいえ、メム様、女神様、そんなつもりはありません。サイコー、サイコーでーす。グハッ。」


 久しぶりに腹部に強烈な頭突きを喰らった。


「何がサイコーよ、思いっきり馬鹿にしてるでしょ!。ありきたりかつ貧弱な語彙で褒めるな。」


 今後は、口の滑りすぎに気を付けよう。俺は腹の底からそう思った。



 ランクアップ試験について、いきなり告げてから開始するのは、事前の試験対策を防ぐためだと教えてもらった。それに、組合本部付きの制度は冒険者の離職を防ぎ、順序を踏んで成長してもらうためだということもあるが、他国からこの国に流れてきた者たちに対しての、就職斡旋に近い面もあるのだ。

 意外とこの世界、セーフティネットがよくできている気もする。この国だけでなく他の国も同様らしい。まあ、ランクアップしても依頼はあまり増えた気がしないしランクアップの実感はまだ湧かないが。


「ニシキ様、今回、警護の依頼をお願いします。」


「警護の依頼ですか。護衛じゃなくて。」


「ええ、警護の依頼です。王国会議の開催に伴う警護になります。」


 あまり外交的な話に興味を持てなかったし、少しくらいの知識はあるが、この異世界には六つの国があり、俺たちが現在いるサンイーカー国、その他の国としてトゥーンカーン国、エイカットシン国、セナシュー・イキュン国、ドーイッカホ国、コシチューク国がある。

 王国会議は、それらの国の国王が、持ち回りで実施するものだ。今回はサンイーカー国、俺たちの現在いる国での主催になる。しかし、実際はどの国も国王は象徴的存在として扱われ、実際の政治は宰相府等が中心になって行っている。


「王国会議は基本、各国の王都で行うのでしょう。俺たちも王都に行くのですか。」


 疑問点を問いかけてみる。


「いえ、王国会議の終わった後に地方を回ってから帰りたい、という王族がいて、このイチノシティを通られるので、その際の交通整理と滞在場所の見張りになります。」


「それなら、王都からも警備兵みたいな応援がくるのでしょう。」


「無事に終わらすには、人手と協力が必要になるのですが、人手不足の部分を冒険者に協力してもらいたいという王国宰相府からの依頼もあります。王都からの応援はあるにしてもです。」


「まあ、わかりました。やってみましょう。実際はどこに行けばよろしいのでしょうか。」


「街の警備詰所本部に行ってください。そこで仕事内容の詳細が説明されます。」


 実際問題、王国会議というイベントは結構大変なのだろう、いろいろやらなければならないことへの対応をするといっても、人手が無限にあるわけでもないし、猫の手も借りたいという諺もあるしな。


 言われた通り、街の警備詰所本部へ行ってみた。

 中に入ると、事務仕事をしている方々が一斉に俺たちの顔を見る。


「組合本部から来ました。警護の依頼を受けた者です。」


と俺が説明すると、俺たちの一番手前に居た警備兵が、


「わかりました。しばらく外の扉付近でお待ちください。」


 と言って奥へ誰かを呼びに行った。俺たちは一旦外に出てその付近で少し待っていると、重鎧をつけた頭頂部は坊主刈りにして白ヒゲモジャで薄褐色の肌の男が、扉から顔を出して俺たちを見て、こちらに歩んでくる。


「おお、あなた達か。ちょっと人手不足でね。協力をお願いしたいのだ。」


「はい、よろしくお願いします。ニシキ・ダンと申します。こちらはグランドキャットのメムです。」


「名前は聞いている。確か前に、マーサ商店の後見の爺さんと孫と当主夫人を、飛び込みで助っ人して、賊を追っ払ったやつだな。鮮やかなものだという話だったが。あ、名乗りが遅れた。第十警備分隊 副分隊長 ギグス・ステファンだ。」


「で、早速ですが、何をすればよろしいのでしょうか。」


「ああ、明後日から3日間、街を見回ってくれ。こいつと一緒にな。その後は1日交通整理を頼むことになるだろう。」


 副分隊長の後ろから、メガネをかけた気弱そうな、薄褐色の肌で白髪をオールバックにした20歳前後ぐらいの男が、おずおずと顔を出してきた。


「初めまして、第十警備分隊隊員のギグス・ローウェルと申します。警備上の問題点をチェックしておきたいのです。ご協力をお願いします。」


 何かに怯えているのか、妙に挨拶が弱々しい感じだった。


「氏名を聞く限り、親子ですか?」


 副分隊長が答える。


「俺の息子だ。入隊してしばらくたつがな。人見知りが激しいところはあるが、こいつと協力して依頼を片付けてくれ。」


 なるほど、風体は違っても白い髪色と肌の色が親子そっくりだ。


「わかりました。ギグス・ローウェルさん、よろしくお願いします。」


「よし、顔合わせは終わったので、明後日からの作業について打ち合わせをする。こっちへ来てくれ。」


 副分隊長にそう言われ、警備隊の小会議室みたいな部屋で打ち合わせを開始した。

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