24弾 改善案を出してみよう
打ち合わせは1時間ほどで終わった。一旦、組合本部付きの寮の部屋に戻り、装備をチェックする。試験で壊れたショートソードは、組合本部から新しいものをいただいた。
「ねえ、棍棒なんかで大丈夫なの?、まあ私も話は聞かせてもらったけど。」
メムが、少し不安気な様子で俺の装備を一緒に確認する。
「まあ、なんだかんだいっても信頼して、色々意見を求めてくれたんだと思いますが。」
「情報量が少なくない?」
「王国会議関連の移動と考えれば、俺たちにあまり情報は与えにくいでしょう。」
明後日から俺たちでローウェル隊員と街を巡回し、警備上の問題がないかどうかをチェックし、俺から見ておかしいところを指摘する。その後、指定の場所で交通規制と交通整理を手伝う。
ただ、どの国の誰が通るのかと、通る予定の細かい時間は教えてはくれなかった。また、街をどのように通るのかは、何個かルートを想定しているようだった。他王国のお歴々に何かあれば、流石にえらいことにはなる。偉いさんの首が10個ぐらい飛んでいくこともあり得るわけだ。情報の開示には慎重になるだろう。
「あの副隊長は、メム様も戦力的な考え方で見ていましたよね。もしかして俺とメム様のコンビで1つの戦力と考えているのでは。」
「私にそこまで期待されてもね。とりあえず明後日からの巡回よね。」
「ええ、メム様、巡回中は、いつも通り会話は念話術でお願いします。」
翌々日、警備詰所本部へ行き、ローウェルと合流し、腕章を受け取り左腕に付ける。腕章には剣と盾のマークが入っていた。ローウェルは軽鎧を着け、短杖を右手に持っている。俺はメムと一緒に行動して、いつもの冒険者の格好だが、左手に棍棒を握っている。
「えーと、ローウェル隊員。こんな格好で問題点のチェックは大丈夫でしょうか。」
「まあ、大丈夫だと思います。腕章を付けていると警備作業中を意味するので、みんなそれを分かって、滅多と声をかけてこないですから。あ、ここが最初のチェックする場所です。」
と言って、ローウェルが十字路を指し示す。
「この十字路を直進するんでしょうか。」
「ええ、そうです。交通規制・整理役に4人で対応する予定です。」
などと、街中の道路のチェック場所を確認し続けた。ローウェルは、人見知りというよりは、単に見慣れぬ人や初対面の相手が苦手なようだった。
「しかし、意外と人が足りないですね。」
3日間、街中の道路のチェック場所の確認を終えて、ローウェルが、眉間に皺を寄せる。
「ローウェル隊員、チェックした限りの情報での話になりますが、街の中心部で休憩の予定ですよね。その間に、最初の交通規制・整理役の人員を最後の交通規制・整理の場所に送り込めばよろしいのでは。」
「うーん、そうだな。細部情報は申し訳ないが、ニシキ殿には見せられないですけど、その方法を考えてみますか。」
「後、各色の布で規制準備とかを知らせて簡単な情報伝達をすれば。この色はこういう指示というのを警備隊で認識させれば良いのでは。」
残念ながら、この異世界、もちろんモールス信号や電話なんて文明の利器なんて無い。ましてやスマートフォンなんて無い。情報伝達はかなり懐古的な手段になる。ドラキャを走らせて伝令か、狼煙を使っての伝令。あとは個人相手のツカイドリ、伝書鳩みたいな感じの情報伝達だ。事件や獣の襲撃やらは呼子を鳴らしての伝達。旗の概念はないのだろうか。見たところそんなものは無かったな、そう思いながら意見を言ってみる。
「各色の布ですか。伝達役に持たせて振ることで情報を伝えるということですね。」
「ええ、赤、青、黄、白、黒、あと他の色。赤色は移動開始、青色は交通規制準備、黄色は待機みたいな意味を持たせて、各場所に伝達するのです。」
「ちょっと、副隊長に話してみます。」
息子の立場でなくちゃんと隊員と副隊長の立場でいるんだな、と妙なところに感心しつつ、警備詰所本部へローウェルと一緒に向かう。
警備詰所本部で各色の布使用による情報伝達の案を提案したところ、早速採用されてしまった。これから、各色の布の調達に走ることになってしまったので、ローウェルと共にマーハ商店に駆け込む。幸いと言うべきか、単色の赤、青、黄、白、黒の巻き布が在庫として倉庫に転がっていたので、ローウェルをやって、警備詰所本部から警備隊員に急いで来てもらい、買い取って持ち帰る。そこへ、当主のダホンさんもやって来て、ホクホク顔で
「在庫品のお買い上げありがとうございます。急な購入ですが何かありましたので。」
と尋ねてきたので
「警護要務で使用します。この依頼終わってから、この件でお話でも。」
と俺は答えた。もちろん支払いは警備隊持ちである。ただし半額分だけ払い、あと半額は後日払いとなった。
その後は、買い取った巻き布を所定の大きさに切り取り、各5色を10枚ずつ用意し伝達役10人が、その布を振って情報伝達を行う。各色に対象移動開始、規制準備、待機、規制解除、対象通過の意味を持たせ伝達の予行訓練も行った翌日、王族の方々のやってくる日となった。
当日、俺たちは交通整理を行うことになった。規制中の迂回路への案内が主任務であるが、街の地図を渡されたのでそれを見ながらの迂回路案内である。ただ、前日に布告もあってか、街の中でドラキャや人々の動きは少なかった。
昼前に、王族の方々が、この街にやって来て、一旦街中心部の休憩所に入って行ったようだった。
多分、休憩をしながら、昼飯と街の有力者との挨拶をしているのだろうと俺は思いながら、交通整理をしていたが、また動き出し、無事にこの街を離れて行ったようだった。
「おーい、終わったよー。」
との警備隊員の声掛けを受けて、警備詰所本部へ行き、組合本部に渡す書類を受け取り、俺たちの任務は無事に終わった。組合本部に任務完了の報告へ行き、セイクさんと話をする。
「依頼完了ですね、こちらが支払いとなります。7万クレジットになります。あと警備隊本部からボーナスも出ています。こちらは5万クレジットですね。どうぞ。」
「ボーナスですか。なかなかいい額ですね。」
「伝達方法の改善だそうですが、何かしました?」
「まあ、布を振らせたので。」
セイクさんはものすごく怪訝な顔をした。
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