25弾 新商品を開発しよう
組合本部から、しばらく依頼はないし、3日間は休んでくださいとのことだったので、言葉に甘える形で過ごすことにした。まずは、マーハ商店へ向かい、お話という情報提供をする。
(警護の依頼は、あまり私活躍できなかった気が。)
メムが念話術で訴えてくる。
(まあ、こういうのはあまり俺たちが活躍するのも問題でしょうから。こういうのは無事に終わるのが一番です。)
(まあ、それもそうね。)
マーハ商店へ到着すると、当主自らのお迎えであった。
「いやいや、お待ちしておりました。無事に依頼は終わったようですな。さあ、どうぞどうぞ。」
「ご丁寧なお出迎え、ありがとうございます。」
応接室に通されて、情報提供が始まる。
「マーハ様が伺いたいのは、先日、警備隊が巻き布を買い取った件についてですね。」
俺の方から話を振ってみる。
「ええ、警護用務と言っておられましたが、どのように使ったのか気になってまして。」
物凄い食いつきだった。
「まあ、乱暴な言い方になりますが、布を振ったのです。伝達をするために。」
「はあ、布を振った、のですか。」
「あらかじめ、ある色の布を振ったらこういう指示・意味だ、というのをみんなで認識させることで、情報伝達の効率化を図ったのです。街中だと魔術も使いにくいでしょうし、伝達手段は俺の認識しているだけでも、ドラキャを走らせて伝令か、狼煙を使っての伝令、個人相手のツカイドリの情報伝達。あとは我々が走って伝えるか、手紙による配達。これらは、街中ですばやく伝達するには長所より短所の方が勝ってしまって使いにくいと思ったのです。」
「確かに言われてみると。うーん、街中の伝達方法は、狼煙じゃ情報量が少ないし、ドラキャや人を走らすのも、手紙も交通が渋滞していればかえって時間がかかるかもしれない。」
ダホンさんが呟く。
「あの時は、時間が足りなかったので、布を振って必要最小限な情報の伝達にしましたが、一時的なイベントで情報を伝えるのなら、こんな物があればと思いまして。」
と言って俺は、小さな旗を示す。今回の依頼完了後、木の枝と布を組み合わせ、手旗もどきを作ってみたのだ。
「あり合わせの材料なので、あまりいい出来ではないですが、端を袋状にした布に、この棒を差し入れてこの紐で棒にくくりつける。といった物ですが、商品にいかがでしょうか。」
「ふーむ、なるほど……。もしかして私どもにこの話を持って来たのは、」
「もちろん、布地を扱っておられるので、新たな商機を作る一助になればと考えました。」
「確かに、布端を折って縫って、棒を差し入れるところを袋状にする。あと紐を取り付ける。布を裁断する過程を含めたら、約4工程ほどになりますか。ところで、これはなんという物でしょうか、どういう商品名でしょうか。」
そう言われて、俺は、ついと考えてしまう。そこへ、のんびりとソファーで横になっていたメムが念話術で、
(フラッグよ、フラッグって商品名よ。それにしたらいいんじゃない。)
と、俺の思考に割り込んできた。
まあ、前世じゃ旗とかフラッグと言ってたし、それもいいか。
「フラッグ、フラッグと言います。」
「おお、フラグと言う物ですか。」
俺の滑舌が悪かったのか、ダホンさんが聞き間違えたのか。
「これは、使い方と売り方をうまくすれば、新たな商品になりそうですな。今回、情報料ではなく、発明料として支払わせてください。このフラグ。」
「そうですか、いい話ができてよかったです。」
結局、この異世界では、旗がフラグとして世間を席巻しそうだ。とはいえ、今後このフラグについて、量産等のアドバイスが欲しいということで、何回かマーハ商店に行くことになった。あと、特許を取れるかもという話まで。今後の細かい話をして、夕刻にマーハ商店を辞して、組合本部の寮の部屋に戻る。
食事、入浴を終え、夜のひと時。メムが、
「売れて、商店も私たちも儲かればいいけど。」
「いや、まだ商品として未完成だから今後の詰めが必要でしょう。」
「そうね、でも色んな意味でフラグが立ったわね。」
まさか、メムはこれを見越して念話術でフラッグと言って来たとか……………。
「ちょっと、ダン、なんとか言いなさいよ。」
「ええ……お後がよろしいようで…。」
フラグの商業化はうまく行きそうである。マーハ商店に警備隊の方から依頼があり、フラグの話をすると、ぜひ作って売ってくれ、という流れになった。俺たちも、獣退治依頼を片付けながらその合間に、発案者として、警備隊とマーハ商会と話をしている。警備隊の方は俺たちと組んで警護の依頼を完了させたギグス親子が窓口になって、細部の注文をしている。
「バフロッグの退治とレッドヒルダイルの退治完了しました。」
俺がいつも通り、セイクさんに報告する。
「はい、確認しました。こちらが代金となります。ご確認ください。」
ランクが上がると依頼料も依頼件数も少し増える。
「ところで、ニシキ様、杖の材料はまだ揃わない感じですか?」
「正直、そちらの方は苦戦しています。魔術が使えれば、こういう退治依頼も、もうちょっと楽にこなせると思うのですが。」
「あのランクアップ試験で、ニシキ様の実力は再認識しましたので、これで魔術が使えれば、一気のランクアップも可能になるとは思うのですが。折角の魔法全属性持ちですし、何か勿体無いです。」
あの拳銃を魔法の杖と考えれば、魔術が発動できるとは考えているが、弾倉が空のままでは、どう念じても何しても魔術は発動しなかった。魔術を発動させる弾みたいな物がこれだというアイデアが浮かんでこないのだ。
「では、一つ連絡が。マーハ商会から新たな契約締結のための招待状が届いております。フラグとかいう道具?の商品化に関してということです。」
「わかりました。招待状は、明日ですね。」
「あと、もう一つ、ランクアップの話があります。商業ランクの方です。」
「おお、そういえば前のランクアップ試験は冒険者ランクの方でしたね。色々あって忘れていました。しかしあまり商業ギルド系の依頼をこなしていない気もするのですが。」
「いえ、実績があるという判断です。ま、細かい話は後日いたします。」
翌日、マーハ商会へ向かい、契約の手続きに入る。現在の情報提供の契約にプラスして、今回はフラグのアイデアを出したことで、俺に対して、売り上げの7パーセントを毎月支払ってもらうという契約である。それと同時に、警備隊とフラグの売買契約をして、最初の商品が納品されるのだ。
前世のパクリとしても、自分のアイデアがお金になるのは悪くない話ではある。納品の立ち合いに警備隊からも、ギグス親子がやって来ている。相変わらず親子感が薄いが。
「これはいい物だ。考えついてくれてありがとう、だな。」
第十警備分隊副分隊長のギグス・ステファンが俺に笑顔で声をかけてくる。
俺の契約手続きも終わり、納品も終わって、商品は警備隊に持ち帰られる。
「さて、ちょっと、話を聞いてくれるか。」
ものすごく真剣な表情になった親父殿が俺に頼み事をしようとしてきた。
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