26弾 親父の悩みを聞いてみよう
「はあ、なんでしょうか。」
真剣な顔が怖くて少しビビる。
「実は息子のことなんだ。」
件の息子は、納品された商品のチェックを行っている。
「ローウェル隊員のことですか?」
なんか間抜けな質問だな、と俺は思いながら聞き直す。
「ああ、アイツ、最近妙に仕事に身が入っていない感じでな。俺が色々周りの隊員に聞いて回っているのだが、どうも何かあったかようなんだが、何の部分かがよく分からないのだ。」
「直接、息子さんにはお聞きになってはいらっしゃるので。」
眉間に皺を寄せながら言われると、迫力があってこっちも少し言葉遣いまで気を遣ってしまう。
「俺や女房が直接聞いているのだが、どうもハッキリしねえ。変な間諜に踊らされていたら一大事だが、アイツがそんな重大機密を握ることはない。平隊員だし、入隊してそんなに経ってもいないからな。ただ、仕事に身が入らないと、色々なところに影響が出かねない。それでだ、ニシキ殿の力を借りたいのだ。」
「うーん………、これってギルド通しての依頼にならないか………、いや、なるか。」
「一応、ギルドには話を通す。かかった経費の2割を利益として金は払う。どうだ。」
正直顔が怖くて、NOと言えない雰囲気を醸し出している。
「こっちも一回組合本部に戻って、どのギルド対応になるか聞いてみます。」
「なんだったら、臨時の間諜の調査という形にでもして依頼する。」
うーん、これはやりにくいな。とりあえず組合本部に戻って話をしてみるか。副分隊長殿の公私混同にならなきゃいいけど。そこへ、
「副分隊長、チェック終わりました。異常ありません。」
ローウェル隊員がやって来て報告をした。
「よし、戻るぞ。」
そう言って副分隊長はローウェル隊員と警備隊へ戻って行った。
その背を見送ると、
「久しぶりですな。ニシキ殿。」
マーハ・ラステさんがダホン夫人、つまりマーハ・リラーフェさんとその子を引き連れて現れた。これでマーハ一家と対面することになる。
「今回は、いい商売の機会を提供してくれて誠にありがたい。また機会があればよろしく頼む。」
「こちらこそ、あいさつ痛み入ります。お孫さんは元気そうで。」
「ええ、よく泣き、よく笑い、よく食べます。」
と、ダホンさん。
「健康に育ってくれれば十分です。」
と、リラーフェさん。
「挨拶だけで申し訳ないが、いつか一緒に食事でもしたいものだ。」
と、ラステさん。
「いえいえお心遣い十分でございます。それでは、こちらもお暇を。」
そう言ってマーハ商店を辞して組合本部に戻って行った。
戻る途中、メムが
(ねえ、ダン、あのさっきの話、どうするの。)
(うーん、親子問題に首突っ込むような気もしますし。組合本部へ話持って行ったほうがいい気がします。というか、寝ていたように見えたけど聞いていたのですか。)
(そうよ、この体のいいところね。私が分からないと思い込んで勝手に話をするのを聞くと、なんかこう、盗聴器になった気分ね。)
(メム様、その例えはあんまりな気が。)
ということで、組合本部に戻り担当のセイクさんと話をする。
セイクさん曰く
「実に変わった依頼になりますね。組合本部案件になるかもしれません。しかし、ニシキ様も変な事に巻き込まれますね。運がいいのか悪いのか。」
少し困惑気味であった。
翌日、朝の食事、身支度後、受付に顔を出すと、しばらく待っていてほしいと言われた。ただ受付で待つのも芸がないので、組合本部の書庫に入る許可をもらい、資料等を読み耽る。書庫にはまばらに人がいるが、目当ての資料を見つけると、退室していく。魔術関連の本をよんで2時間ぐらい経つと呼び出された。
「昨日のお話、依頼として受けてもらいます。」
セイクさんが真顔で言ってくる。
「依頼内容は、調査みたいな感じですか。」
俺が確認をすると、
「ええ、間諜の疑いの有無を調査するという依頼になります。警備隊からの依頼という事になります。昨日、ニシキ様が話してくれたのですが、結局、ニシキ様への指名の形での依頼となります。」
親父殿が副分隊長の権限で依頼にしたのか、それとも別の状況が生まれたからか。一応親父殿に確認を取るか。
「わかりました。まあ、やってみます。」
そう言って、警備詰所本部へ向かう事にした。まあお金にはなるしな。
警備詰所本部へ行って、副分隊長と面会する事にした。やはり直接話をしたほうがいいだろうと思ったからだ。メムはついて来ているが、何もいう気もする気もないようだ。
面会のお願いをし、しばらく警備詰所本部の前で待っていると、ギグス・ステファン副分隊長が現れた。
「ニシキ殿が面会に来たということは、例の依頼を受けたということだな。」
「しかし、いいのですか。公私混同に近くないですか。」
「大丈夫だ、だから間諜の疑いについての調査としたのだ。」
「で、ギグス・ローウェル隊員は、あなたが前に話した時と変わっていない、仕事に身が入っていない状態は変わらない。ということですね。」
「その通り、生活リズムとかは変わらず、仕事には来ているのだが…。」
「一応確認ですが、しばらく俺が彼を監視、もとい観察するということで大丈夫ですか。」
「依頼した以上、それは問題ない。息子には黙っていて欲しいが。」
「それは分かりました。俺もあなたの息子を観察する事について、確認したかったので。」
さて、張り込みという形でローウェル隊員を見張るか、と思いながら警部詰所本部を去ろうとするところに、
「大変です。副分隊長。ローウェル隊員が急に倒れました。」
と警備兵の一人が駆け込みながら報告に来た。
ローウェル隊員はどうやら2日ほど家で休養をとる事になった。街の巡回を終えて詰所本部に帰ってきてからすぐにぶっ倒れたらしい。
これじゃあ俺の調査が難しくなるな。しばらく様子見か。
やむを得ないので、それとなく警備隊隊員にローウェル隊員のことを聞き込んだり、図書館や組合本部の書庫の冊子を見たり、体力錬成で休日になったような状態を3日過ごして、夕刻ふと思い出したことがあり確認のためマーハ商店へ向かうと、
(あれ、あれはローウェルよ。)
メムが気づいて俺に念話術で告げる。
(店の前で何をしているのかな。納品は終わったし、しばらく家で休んでいたのではないのかなあ。)
しばらく見ていると、店の前をウロウロ行ったり来たり。
こうなったら、思い切って直接本人に聞いてみるか。一か八かになるかもしれないけど。
「おや、ローウェル殿。お店の前でウロウロと、何かありましたか。」
ローウェルさん、声をかけられて少しビクリとして、振り返りこっちを見る。
「ああ、ニシキ殿。気晴らしですよ。気晴らし。ウィンドーショッピングですよ。」
「だったら、店に入ればよろしいのでは。店側も文句は居合わないでしょう。」
「あっ、いや。………その。」
口ごもり、足の運びがふらつき、妙に挙動不審になる。
「一体何かあったのですか。以前警護の仕事した時と別人のようですよ。俺でよければ飯でもおごりますので、話くらいは聞いてみますよ。」
こうなったら、飲食店に連れて行き食事しながら話をしたほうが、うまくいくかもしれない。
半ば強引に、飲食店へ連れ立ち、夕食をおごる事にする。メムがまたドカ食いしなければいいが。
「ささ、飯でも食いましょう。腹が減ってはなんとやらですよ。」
食事を進めながら、話を聞き出す。
「何か悪事を企んでいるのですか?」
「そんなわけはないです。」
「まさか、商店の店員の中に惚れた人がいる、とか。」
「そ、そ、そんなわけはないです。」
「だとしたら、あの商店絡みで、どこかの女に惚れた、みたいな事ですか。」
「まるで、取り調べじゃないですか。」
「素直に吐けば楽になりますよ。今の会話の流れからして、商店に来ていた客に惚れたとか。」
「なぜそれを…。」
おお、適当に言ってみたら、当たった。
「もうこうなったら、洗いざらい喋っちゃいましょう。もしかしたら、いい方法とか浮かぶかもしれませんよ。」
「うん………、そうだね。そうだよね。じゃ思い切って話します。」
と言ってローウェルさんが話してくれた。
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