20弾 ここで一発歌ってみよう

「あー、♪あーる〜晴れーの〜日〜にー、おジいーさーんーは〜、川へー洗濯にー、おばあーさーんは〜山へーしばーカリーに〜いきーまーし〜たー♪」


 俺が前世で音痴なのは自覚していた。もしかして異世界に行って音痴がマシになっているかと、微かに期待はしていたが…


「♪おジィーさーんーはーかーわーでー、おおーキーなー桃をー見つけーマシーたー、それーをーひろーってーもーチーかえーリィまーしたー、いーえーに〜♪」


「♪オーバーあーさーーんーはーやま〜でーへー、なーにーかーみーつーけーマーシーたー♪」


 自分でもわかっているが、これは歌っているというより、がなっている。


「うわー、とんでもない音程、ある意味最強の音痴ね。ていうかなんて曲かしら。」


 メムが笑いを噛み殺しながら地面に伏せつつ呟く。一方、バフロッグ2匹は何故か鳴くのをやめてこっちをまじまじと眺めてる。

 こうなったら思い切って突貫するしかない。集中力をあげ、一気に距離を詰め顎下にショートソードを刺し貫くと、1匹の息の根が止まる。もう1匹が慌てたように舌を振り回してきたので、集中して舌の動きを見てると動きがスローに見えたから、その隙を狙い、顎下を刺し貫き息の根を止めた。ふう、これで依頼完了っと。


 そこへメムが近づいてきた。


「ねえ大丈夫?。しかし、ぷっ、ぷっ、ぎゃはははは。なんて歌いっぷりかしら。ぎゃははははははは、ぎゃーはっはっはっはっは。」


 女神様の時から全く想像できないくらい、下品かつ盛大に俺を笑い倒した。


「もう、…やめて下さい、メム様。本当に勘弁して下さい。」


 俺のメンタルは、もうボロボロを通り越してまるで焼け野原のようだ。


「とにかくすごいわ、バフロッグが完全に呆然としてたわ。新しい対応法ね、これは。依頼完了報告の際に、一緒に対応法も発見したって言えばいいんじゃない。しかし、歌詞のチョイスも最高よ。ある晴れの日って、どこぞのオペラの歌詞じゃないの。しかも何、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きましたっていう、日本の昔話の典型的な冒頭部分を独自アレンジ。ものすごいセンスよ。もう笑いが止まらないわ。ぎゃーはっはっはっはっはっは。」


 この元女神猫は笑い転げている。まさに笑いが止まらないようだ。


「そんな笑うのならメム様、歌ってみて下さい。」


「いいわよ、これが歌というものよ。耳の穴かっぽじってよく聞きなさい。うほん。」



♪〜♪〜♪

この神の座に 集いしものたちよ 我が女神の 歌を聞け 我が女神の 歌を聞け

この神の座に 来たりしものたちよ 我が女神の 詩を聞け 我が女神の 詩を聞け

この神の世界に やって来た 人たちよ 希望を持て 夢を持て 愛をもて

この神の世界に やって来た 人たちよ 希望を持て 夢を持て 愛をもて

罪深き魂たちよ 己が過ちを認めよ 己が過ちを悔いよ 

情深き魂たちよ 他人の過ちを許そう 他人の過ちを赦そう

神たちよ 人たちよ 前に進もう 前に進もう この宇宙のあらん限り この宇宙のあらん限り

神たちよ 魂を転生されよ 魂を転生されよ

転生され この神の世界を去りし魂に 告げる

人よ、光あれ 人よ、希望あれ 人よ、夢あれ 人よ、愛あれ

神の座に 進展あれ 宇宙よ 輝け

♪〜♪〜♪



 完璧で見事な歌声であった。猫になってもさすが女神であった。俺はものすごく惨敗感を味わってしばらく動けなかった。感動で涙が止まらない。歌ったのはオペラの一節だろうか。



 惨敗感に包まれたまま、地面に崩れ落ちていたが、とりあえず依頼完了の報告のために立ち上がる。いつまでもがっくりしてもいられない。退治依頼の証拠と所定の処理をしてギルドへ依頼完了の準備にかかる。


「ほほほ、どう、これが女神の本気ってやつよ。思い知りなさい。もっと地面に這いつくばっていてもいいのだから。ほーほっほっほ。」


「えっと、今のは何かのオペラの一節か何かで………。」


「即興歌よ、私はこれが得意なのよ。思い付きですぐに歌詞と曲を編み出し、歌う。これを即興歌というのよ。どう、わかったかしら、女神の力。ほーほっほっほ。」


 メムがものすごく増長して高笑いをする。というか、なんかキャラが変わってしまっている気も。


「いきなり歌えと言われても。全く無理がありますよ。それに俺は少し音痴だったのですから。」


「あれのどこが、少し音痴、よ。少しではないわ、完全に音痴よ。」


「じゃあ今度、この音痴をなんとかする方法教えて下さいよ。メム様。」


「うーん、どうしよっかなあ。そうね、教えて欲しければ、土下座よ、土下座。『この哀れな音痴野郎に、どうか歌唱というものを教えてくだせえ。』とでも言いながらね。」


 えらく上から目線感を出しながら、メムは答える。


「まあ、でも、ダン、あなたがどうやっても無理ね、この音痴は治しようがないわ。」


 あっさりと匙を投げ捨てた。


「ああ、そうですか…じゃあ街に戻って運送屋と組合本部へ行きますよ。」


 と言って街へ戻ることにした。


 街に入って運送屋に退治した獣の運搬を頼み、組合本部へ向かう途中で


(ねえねえ、ダンあなたの独唱でバフロッグの鳴き声を止めたって報告してよ。)


 しつこくメムが念話術でダメ押ししてきた。頭に来たので、素早く尻尾にリボンをたっぷり括りつけてあげたままギルドに向かった。

 さすがにこれは効いたのか、黙りこくったままになった。受付で報告をして金を受け取った。新しい対応法についてはもちろん……………



 言わなかった。


 しばらくそのまま尻尾にリボンを括りつけたままにしてやる。


(散々いたぶりやがって、調子に乗るな、元女神猫め。)


(ごめんなさい…。)


 これで懲りて欲しい。

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