19弾 大きなカエルを退治しよう
その翌日、早速偵察に向かう。街から少し離れたやや小高い丘だ。
「ねえ、昨日窓口で兼業の質問をしたのは、またどうして?」
メムが一晩考えていたようで、意外と真剣な声音だ。
「先のことも考えると、というやつですよ。今のランクだとそんな大金になる依頼も来ないでしょう。かといってランクが上がったとしても依頼をこなすには準備は必要ですし、何かと物入りになる可能性も考えていたのですよ。」
「まあ確かに、あなたの魔術用の杖とかの問題は解決していないしね。」
「杖や魔道具を作るにしても材料費だけで1000万単位の金がかかりますし。かと言って従来品や安物が使えない。これは前からの悩みですがね。材料を獲得しにいくにしても、今の装備じゃ厳しいことになりそうですし。」
杖用の材料である最高級と言われるダイバムナリグの木やブリブアンの木を取りに行くにしても場所が場所なので交通費がかかるということと、遭遇が想定される獣のクラスが強獣クラス、運が悪ければ狂獣クラスなので、今の俺たちじゃ、財布的にも能力的にもかなり厳しいのだ。
「そもそもまだローランカーですからね。頑張ってランクを上げないと。そしてより良い稼ぎを、金、金、金ですよ。」
「どこの世界も金、金、金なのね。なんか世知辛いわ。」
と言いながら、バフロッグを遠くから眺めつつ距離を詰めていくものの…
「結構大きいわね。」
メムが弱気含みの声で呟く。このバフロッグ、野獣にランクされ、肉は食用になるらしいが、繁殖期前のオスの鳴き声が凄まじいことになり、昼も夜もよく大音量で鳴き声を上げる。ブオブオとの鳴き声の音波が一種の風属性の魔術のように、空気の振動で人や動物にダメージを与えるのだ。あと、舌を伸ばして鞭のように攻撃もする。おまけに集団で一斉に鳴くと、騒音公害にもなってしまう。まさに牛の大きさのカエルだ。メムだけでなく俺も弱気になってしまいそうだ。火属性の魔術で対抗すればあっという間らしいが、今の俺たちにはそれはない。
「前回、レッドヒルダイルを退治した方法と同じ手段としますか。」
「また、1匹ずつ相手に私を囮にする方法ね。」
「実際それしかないでしょう。鳴かれないように用心しながら挑発して、舌での攻撃範囲を見極めた上で攻撃してダメージを与えていく。ということになりそうです。」
「私を放置するのはやめてね。油断しないようにはするけど。」
「舌での攻撃に注意してくださいね。」
「わかったわよ。」
ということで明日から退治作業の実施である。
「きゃっ。この、それっ。」
小さく悲鳴を上げながらメムが必死でバフロッグの舌攻撃をヒラリヒラリとかわしている。その隙をつく形で、素早く接近し、ショートソードを顎下に向けて刺突した。空気の抜けるような音と共にバフロッグが息絶える。
「ふう、これで3匹目か、メム様、大丈夫ですか。」
「やっと3匹目ね。ちょっと休憩入れて。」
メムが息切れ気味に応える。本当は1匹倒してから少し長い目の休憩をし、もう1匹に当たることを考えていたのだが、囮の効果がありすぎたのか1匹倒すと、すぐにもう1匹がやって来るという悪循環に陥りメムも疲れてしまったようだ。
一旦現場を離れ、とりあえず疲労回復のため休憩と早めの昼ご飯にする。
「意外といいペースになってしまいましたが、メム様ゆっくりご休憩ください。」
「ちょっと囮役として酷使しすぎじゃない?」
「いえいえ、ある意味最強の囮ですよ。きっちり1匹ずつ呼び寄せているのですから。いい仕事していますよ。まあ昼飯は携帯食ですが、多い目にどうぞどうぞ。」
「なんか食い物で釣られている気もするけど…。」
「今日は、あと1匹倒して終わらせましょう。残りは、明日と明後日に分けて倒しましょう。」
「まあ、分かったわ。あと1匹倒して、後はしっかり休ませてね。」
「もちろんですよ、メム様は大事な最強の囮、かつキーになる方ですから。」
「夕飯はガッツリいただくからね。」
「はい…財布が許す限りでお願いします。」
その日最後の1匹を仕留めた後、退治したバフロッグを運んでもらい、その後メムはしっかりと食事をとり、その翌日は3匹退治してまた同様に処理し、メムはしっかりと食事をとった。財布はヤバかった。
そうして、
「さあ、依頼完了まであと3匹ですから。メム様。」
「なるほど、3日間で10匹を狩るってことね。」
「後はゆっくりしましょう。」
と意気込んで現場へ出てみると、バフロッグが意外にも隊形らしきものを組んでいた。
「敵もさるもの、流石に何か気付いたのかということですね。」
「どうするの。今までのパターンじゃ通用しない可能性もあるわよ。」
「一回今までのパターンを試してみましょう。」
ということで、メムを囮にしてこっちにおびき寄せてみる。見事に囮に釣られてこっちに来たのでメムに対して舌攻撃をかける隙を見つけショートソードで顎下に刺突し、空気の抜けるような音と共にバフロッグが息絶える。
「よし、このパターンでいけるか。」
そう言った瞬間、残りの2匹がこっちを向いて鳴き出した。うるさい。ブオブオと鳴くたびに、ズシズシと振動が体を撃ち抜いてきて体全体に痺れが。なるほど、この振動が厄介なものだ、と思っているところに、ブオッと強烈な鳴き声とともに風の塊が、俺の体にボディーブローを打ち込んでくる。これは効く。
「一旦距離をとりましょう、メム様。」
「わかったわ、ダン。」
距離をとり、バフロッグの背後に移動する。相変わらず鳴いている。おまけに背後から距離を詰めようとすると、俺たちに相対し、鳴き声の攻撃を受けてしまう。
結局、距離を取り背後に移動し、背後から距離を詰めていくと相対される、鳴き声の攻撃を受ける。このパターンを4回ほど繰り返した。
「うーん、なるほど。火属性魔法で撃つというのはこれのためということか。しかし、まさにジリ貧だな。」
距離をとり奴らの背後に位置取って、別の方法を考える。
「ねえ、ダン。大声で歌ってみてよ。」
突如メムが無茶振りをしてきた。
「え、どういうこと?」
「だーかーらー、なにか歌ってみなさいよ。あの鳴き声というか聞いてて思ったんだけど、なんかカエルの歌じゃない。歌には歌で、なーんてね。」
おい、おい、おい。そんな思考経路でこんな方法を考えついたのか。
「たまには、私の策で攻撃してみてもいいんじゃない。」
拳銃を持って変身と言わされて何も起きなかった、かつてのことを思い出す。
「えっと…………。ぐはっ」
俺が呆然としていると、メムが軽く頭突きをかましてきてこう言い放つ。
「女神のいうことに間違いはないわ。さあ、一曲歌ってらっしゃい。歌いながら接近する方法よ。」
まだ呆然としている俺に、バフロッグの方へ突き飛ばすかのように、メムがさらにもう一発頭突きを喰らわしてくる。
こうなれば、やるしかないか。とはいえ、咄嗟に俺が歌える曲をと思いながら焦ってしまう。
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