49弾 この駆け落ちを手助けしよう

「しかし、4人とも全員間諜として何かしたという証拠なり、証人なりはあるのですか。厳しい言い方ですが、例えばその4人のうち誰かが実際に間諜として、相手に情報を流したとか。」


 思い切って4人に聞いてみる。


「いいえ、それは無いと思います。」


 セイクさんがそう言って断言する。


「もともと我々が出会ったのきっかけは、警備隊がきっかけですから。」


 ダオンさんが話に加わる。


「えっと、警備隊がきっかけというのは。」


 俺は、よくわからないので、おうむ返しで確認する。


「ええっと、両校の関係者がよく街のあちこちで喧嘩を繰り返していて、彼らが喧嘩の当事者たちの身柄を、警備隊から引き取りに行っていたのです。それを繰り返しているうちに、互いに付き合うようになったのです。」


 セイクさんが経緯を説明する。なるほど、そういう出会いからだったのか。しかし、えらく殺伐とした出会いだな。そう思いながら、ふとメムに目をやると、メムの耳がピクピク動いている。これ、寝たふりして話を全部聞くつもりだな。


「そういえば、今日、昨日の乱闘の件で警備隊総隊長が、両学校の長に説教するって言ってたが。それで、収まらないのかな。」


「多分無理でしょう。説教を受けてもその後で、互いに相手学校と今後どう張り合うかで頭が一杯になるでしょうから。」


 カロルさんが、ため息をつく感じで言う。


「そもそも対立の原因は何なのだろう。」


「それが、古来から対立してきたとしか…。」


 うーん、えらく拗れ過ぎている気がする。


「しかし、なぜ俺を指名することになったのかな。」


 もう一つの疑問点を聞いてみる。


「昨日の乱闘に関わってた者だと聞いていまして。黒のグランドキャットを連れた冒険者と言うことで、こっちに聞いてみたのです。そうしたら、あなただと分かりまして。あと、こちらのセイクさんから変わった依頼なら、彼がいいでしょうと勧められまして。」


 カロルさんが答えてくれる。


「えっと、セイクさん、俺をそんなふうに見てたのですね。」


 半ばジト目で、セイクさんを見る。


「いえいえ、依頼の要点を聞いて、これならと割り振りしただけです。こう言う特殊依頼なら、ニシキ様、頭も回り、実力もあると思ってますので。」


 物は言いよう、か。なんか外堀を埋められていく感じがする。そこへ、


(ねえ、面白そうじゃない、受けましょうよ、この依頼。)


 やはりというか、メムは念話術でこの依頼を受けることを勧めてきたのだった。


(寝たふりをして、しっかり聞いていましたね。メム様。)


 そう念話術で返すと、メムの体がピクピクした。


「まあ、受けてみますが…、ちょっと考える時間をくれませんか。後、彼らと細かい打ち合わせがしたいのですが。」


 セイクさんもほっとした顔で、


「分かりました。今回の依頼は護衛依頼という形にしておきますが、よろしいですか。」


「ちょっとそれも含めて、俺の方で考えることがあって。後で話してもいいですか。」


「ふーん、何か策を考えようということですね。」


「その間、そちらでこの4人を匿うことは可能でしょうか。もしかしたら今頃、両校ともこの人たちを探し始めているのじゃないでしょうか。」


 セイクさんにお願いをして、組合本部付き用の部屋を当分使って匿うことになった。

 まずその調整をし、4人が部屋に移った直後、セイクさんと今後の策について話そうとすると、


「ここに、カロルとダオンの2人は来てないかい。」


 そう言って、七三分け男が2人、俺とセイクさんに問いかけてくる。


「いいや、知りませんが。」


 空っとぼけて俺が答える。


「ふーん、見かけたら、バーセイ学校まで連絡をくれや。邪魔したな。」


 と言って去っていく。

 その後、話の準備をしようとすると、


「こちらに、リープという方と、ルーゴという方は来ておられないですか。」


 今度は、オールバック男が2人、さっきのように俺とセイクさんに問いかけてくる。


「いいや、存じ上げませんが。」


 また、空っとぼけて俺が答える。


「依頼受理の調整中ですので、あまり話しかけられても困りますが。」


 セイクさんが注意をする。


「失礼しました。見かけたら、サーラン学校まで連絡いただければ、よろしくお願いします。」



 しばらく沈黙状態のまま、様子をうかがう。来客はなさそうだ。


「やはり4人は捜索されてますね。」


「さすがです、読みが正しかったですね。では、ニシキ様、策について何かあれば。」


「一つには、4人全員を変装させて、駆け落ちさせる方法があります。変装用の道具があればの話ですが。ウィッグとか化粧用具を使って別人にします。もう一つは、何か荷物と一緒に運搬する方法です。荷物の中に紛れ込むのです。囮を使ってから逃がすのも、手として考えることになるでしょう。」


「では、経費込みで依頼代金を支払う形にします。それで護衛依頼といたします。」


「うん、あと架空の配送達依頼も作れますかね。」


「それは、構いませんが。なぜに。」


「囮を多く作って、混乱させます。捜索の目をあちこちに散らばらせます。」


「分かりました。」


「あと、組合本部で匿ってくれませんか、お願いします。5日ほど。」


「5日ほどですか。分かりました。」



「さてと。」


 一旦組合本部の寮の部屋に戻り、後のことについて考える。


「ねえ、私も何か役があるのでしょ。」


 メムが妙にやる気を出している。


「ええ、囮役を盛大に用意していますよ。」


 俺が、ニヤリとしながらメムにそう言うと、


「うわー、悪い顔ね。しかし、性格の悪そうな策を考えているのでしょう。」


「でも、メム様、こういう駆け落ちものの話は好きなのですね。念話術でやれなんて言ってくるのですから。」


「人の恋を実らせるのも女神の仕事よ。せっかくの依頼じゃない。」


「では、やる気になっているメム様に、早速………。」



 その翌々日から、街内は騒々しくなってきた。


「おい、聞いたか。バーセイ学校の事務員たちが、間諜の疑いで学校内に拘束されたそうだ。そして、サーラン学校の奴らを徹底的に叩きのめせと言うことになっているらしいぞ。」


「そうか、俺は、サーラン学校の事務員たちが間諜の疑いで学校内に拘束されたって聞いたぞ。そして、バーセイ学校の奴らをぶちのめすと言う話だとも。」


「いや、その事務員たちは、もうとっくに遠くへ逃げ出したと言う話だと聞いたぜ。」


「えっ、その事務員たち、学校で暗殺されたという話だぜ。」


「そうそう、その事務員たちの幽霊が出てるそうだ、街のあちこちに。」


 噂が噂を呼ぶ状態になってきた。警備隊員もピリピリしている。おまけに、噂に振り回されたか、両校の学校関係者同士がぶつかり、あちこちで喧嘩寸前までいっている。今のところ、警備隊員が巡回を増やしたのか、大きな衝突は起きていないが。


「本当に、噂だけでこんなことにするなんてね。」


 メムが呆れ気味に俺に言う。そう言うメムは、昨日4人の着ていた服と似たような服を被って、あちこちで幽霊騒動を起こすの一役買っている。

 俺も実は、街のあちこちで買い物等しながら、噂をばら撒くということをしている。


「まあ、風説の流布ですな。」


「ダン、あなたもなかなかの悪よのう。」


「いえいえ、メム様ほどでは、ふっふっふ。」


「でも、私に隠密かつ単独行動させたのは、何か訳があるのね。」


「この前、乱闘に巻き込まれた時の俺たちは、メム様を連れていましたので。それを利用します。グランドキャットを連れた冒険者、という認識になってますので。」


「そうか。依頼者たちも、それで私たちを指名してきたからね。」


メムが得心してうなずく。

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