48弾 この乱闘をなんとかしよう

 ピリリ、ピリリとホイッスルを鳴らしながら、喧嘩を止める警備隊員と、喧嘩を続けようとする両校の関係者たち、入り乱れての大乱戦になっている。その様子を見て、俺が誘導して来た警備隊員の1人が、増援を呼びに行く。

 そして周りに街の住民たちが、野次馬的に数人ずつ集まってくる。


(ねえ、参加するの?)


(絶対、参加しません!)


 メムの念話術による物騒な質問を、全力で否定回答する。


「この間諜め、こんな混乱を引き起こしやがって。」


 そう言って、オールバック男が俺たちに殴りかかってくる。


「集中」


 そう呟きながら、相手の動きがスローに見えるのを確認しつつ、こんな乱闘でオールバックをよく維持できるな、と変なことに感心しながら、カウンター気味に回し蹴りを喰らわす。と同時に、メムが鼻先に噛み付く。そのオールバック男は腹部に蹴りをくらい、鼻に噛まれた傷をつけ吹っ飛んだ。

 そこへ、今度は、


「貴様、やはり間諜だな。覚悟しろ。」


 そう言って、今度は俺の背後から、七三分けの男が俺を羽交い締めにしてきた。こいつもよく七三分けが維持できるな、そう思いながら、その七三分け男の右足を俺の右足で前方に払い、俺の体重をかける。と、その七三分け男はバランスをとりに重心を前に移して来るので、俺の首に入れようとするその七三分け男の右腕を、俺の両手で掴み投げ飛ばし、綺麗に背中から叩きつける。その直後、メムが其奴そやつの顔面に爪を立て引っ掻く。

 しかしこいつら、俺をいまだに間諜だと思っているのか。


(結局、参加したわね。ダン。)


メムが楽しそうに念話術で伝えてくる。


(いや、自分の身を守っただけですが、………ええ、結局、参加しました。)


 そうこうしている間に、警備隊員の増援がゾロゾロやって来て、野次馬をかき分けてどかし、学校関係者を次々に押さえ付け、捕縛し、ドラキャに放り込んでいった。

 こうして、乱闘は収束に向かい、俺たちも事情聴取ということで、警備詰所へ同道することになった。


(最近よく行くわね、警備詰所………。)


(今回は、完全に巻き込まれですよ、メム様。しかし、こうも立て続けにとは………。)


 念話術で互いにボヤきつつ、警備詰所へ。

 警備詰所で、ドラキャの操縦許可証取得のために学校へ行くことにした事、冒険者ギルドの紹介所を持って両校の見学に行った事、見学後に、両校の関係者から勝手にかつ一方的に俺を間諜と決めつけられたこと、そこから、両校の関係者同士で、互いの学校の悪口になり、喧嘩乱闘が始まった事、それがその乱闘現場であった事を懇々と説明した。

 その後、しばらく小部屋で待機していると、そこへ、


「いやあ、ニシキ殿。この前は賊、今度は乱闘とは。色々巻き込まれて大変ですな。」


 ギグス・ステファン第十警備分隊副分隊長がやって来て、声をかけた。


「なんでこんな目に。俺、こんなに運が悪かったのか、と言いたいところです。」


「まあ、両校、昔から仲は良くなかったのだが、しかし、このところ、これほど険悪な仲になってるとは思いもせなんだ。」


「まあ、仲が悪いのは、組合本部の受付で話は聞いてますが。で、俺はこの後また事情聴取ですかね。」


「いや、もう大丈夫、事情はわかったし、帰ってもらって結構だ。後で、両学校の長には警備隊総隊長からのお説教だ。」


 人の話を聞かずに、俺たちを一方的に間諜呼ばわりした奴らの落とし前ってどうつけるのか、というのは気になってるが、さっさと寮の部屋に戻った方が良さそうだ。



 組合本部の寮の部屋に戻ろうとすると、受付に呼ばれ、セイクさんに事情を説明する羽目になった。


「ニシキ様、大変ですね。何かと巻き込まれることになってしまって。」


「先に、対校意識がすごく強いという話は聞いていましたから、まあ助かりましたよ。しかし、話も聞かずに人を間諜呼ばわりはないですよ。」


「本当に、仲が悪いとは言いましたが、ここまでとは。こちらも、そんなこととは思っていなかったのですから。」


 事情の説明が終わり、組合本部の寮の部屋に戻ってくる。


「いやー、長い1日だったわね。もう疲れた、精神的にも肉体的にも。」


 メムがぐったりした声を出す。


「メム様と同じです。まさかこんな事になるとは、全く思いもよらなかったです。」


 俺もぐったりした声で、メムと同じ気持ちであることを伝える。


「で、入校するの、ダン?」


「もうここまできて、誰があんなところに入校すると思いますか。」


「まあそうよね。じゃあ、操縦許可証は?」


「運輸協会の支部で受験しましょう。それしかないですよ。とりあえず、夕飯食って風呂入って寝ましょう。」


 そして、翌日。


「ずいぶん朝早くからお疲れ様です。緊急の依頼か何かですか?」


 起床して、朝食をとりに行こうとすると、セイクさんが部屋の前にやってきた。


「申し訳ありません。ニシキ様をご指名での依頼がありますので、朝の依頼振り分け後に、受付まで来ていただますでしょうか。」


「俺を指名での依頼ですか。なんの依頼ですか?」


「それは、受付で話させて下さい。では、後刻。」


 そう言って、セイクさんが去っていった。


「ダンに指名での依頼なんて、ちょっと不安だけどね。」


 メムが不安を漏らす。


「ええ、俺も不安しかありません。」


 朝食をとり、身支度を整え、依頼振り分け後の頃合いを見て受付へ行く。

 受付には、担当のセイクさんの他に、2組のカップルが居た。


「実は今回の依頼、依頼者が複数人なことと、特殊なことなのでこのような形をとらせてもらいました。」


 セイクさんが口火を切る。

 男の方は、黒髪オールバックと黒髪七三分けの2人、女の方は褐色の肌に緑がかった黒髪を三つ編みにしている者と、肩までの赤みかかった銀髪をウェイビーヘアにしている者との2人。


「姓はカロル、名をチーレクリと申します。」


 最初に黒髪七三分けの男がそう自己紹介をする。


「私は、姓をルーゴ、名をリルシャーと申します。」


 続いて黒髪オールバックの男が自己紹介する。


「姓はリープ、名をエルマと申します。」


 赤みかかった銀髪の女性が自己紹介をする。


「私は姓をダオン、名をセシーレと申します。」


 最後に黒髪を三つ編みにした女性が自己紹介する。


「姓はニシキ、名をダンと申します。俺を指名の依頼とは聞きましたが、一体どのような依頼でしょうか。」


 4人がかりで一体何を依頼するのか、俺に思い当たるものがないまま確認する。


「実は………、この4人の護衛をお願いしたいのです。」


 4人を代表してカロルさんが話をする。


「えっと、普通は護衛でしたら、人数のいるパーティに依頼するものではないでしょうか。俺一人だけでは、4人の護衛は難しいのではないですか。」


 至極当たり前だが、4人に対し、一対一の護衛になるようにするため、4人の護衛が必要になるはずだが。これでも最低の人数だと思うのだが。


「ええ、普通はそうでしょう。このような依頼をするには、もちろん理由があってのことです。」


「伺ってもよろしいでしょうか。」


 理由が気になるので、話を促す。


「ええっと、この4人で………駆け落ちをしようかと。」


「駆け落ちですか。………なぜにまた。」


 ちょっと驚きである。


「私、このカロルはリープ・エルマと将来を誓い合ったのです。」


「私、ルーゴもダオン・セシーレと将来を誓い合ったのです。」


 ルーゴさんも話を続けてくる。


「私たち4人、将来を誓い合ったのですが、お互い職場が対立状態でして、………そのバーセイ学校とサーラン学校に勤めている者同士でして。」


 リープさんが理由の一部を言い出してきた。それを受けてカロルさんが続ける。


「こちらのダオンはバーセイ学校の事務局長、私カロルはバーセイ学校の事務員、私の恋人のリープはサーラン学校の事務局長、こちらのルーゴはサーラン学校の事務員です。」


「えっと、つまり、この2組のカップルは、互いに対立している職場を超えて、付き合っていて将来を誓い合った、ということですか。」


 ああ、要するに、前世の知識でいえば、同業ライバル他社の女の子と付き合って、結婚しようということね。しかしそうは言いにくいので、少し言い方を変えてはみてる。


「ええ、ただニシキ様もご存知のように、バーセイ、サーラン両学校の対立はあったのですが、昨日の乱闘事件で状況が悪化いたしまして、各学校の長が、我々を間諜として処分しようとしていまして、それで思い切って駆け落ちをしようかと………。」


 まあ、ライバル会社に企業機密を流されると大問題にはなるが………。

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