47弾 二つの学校見てみよう
「最近、結構ハイペースで依頼をこなしていますね。何か入り用なことがあるのですか?」
依頼完了報告をしている組合本部受付で、セイクさんにこう聞かれた。
「ええ、魔術の研究にちょっと費用がかかったもので、あと、ドラキャの操縦方法とかを学んだ方がいいのかと思いまして。」
魔術の研究に一区切りついたので、獣退治の依頼などをせっせとこなしている。ただ、時期の問題もあって、バフロッグという牛みたいな大きさのカエルを退治することとか、配送達の依頼とかがほとんどだが。
やっと魔法を発動させることができるようになった。魔弾として、拳銃に弾込めして引き金を引くことで。
この魔弾で魔法を発動するのには、この異世界の魔法使い等と比較して、一つ大きなメリットがあると考えている。それは、ハンマーを起こし引き金を引くことで、すぐに発動させることができるということである。この異世界の魔法使い等は、魔法式の詠唱などで発動までにワンクッションが必要になるが、俺は、任意のタイミングで引き金を引くのみ、但しハンマーを起こす必要はあるが、西部劇のような早撃ちみたいに発動できれば、言う事なしとなろう。もちろん、この異世界の魔法に携わる者の中には、高速詠唱とかができる者もいるので、油断はならないが。
大きなデメリットは、先に魔弾を作っておかなくてはならない、ということである。つまり、状況、敵の強度を予測して、必要な威力の魔弾を作って用意しなければならない、ということでもある。戦闘中に即席で魔弾を作るのは、今の俺の実力ではちょっと難しい。今後の課題である。
「そういえば、魔法が発動できるようになったとか。それで、依頼もこなせるようになっている、ということですね。」
「ええ、しかし、結構ハイペースなのは俺も認めます。ただ、ドラキャの乗り方というか操縦方法を学ぶには、費用もかかると聞いたので。そうなると、依頼をハイペースでこなして、稼げるうちに稼いでおきたいですからね。」
「もしかして、前、臨時パーティーメンバーに加わった時に。」
「ええ、その時に、ドラキャの操縦について聞かれましてね。それもあって、操縦方法をどこかで学ぼうと思いまして。」
「臨時パーティメンバーの依頼完了が、いい意味でニシキ様にプラスになったわけですね。」
「ただ、費用が貯まったら、どういう学校みたいなものがあるのか、どこで教えてもらうのがいいのかとかを調べなければならないですが。」
「うーん、私が知っている限り、ドラキャの操縦を教える学校が2校あるのですが……。」
セイクさんは何か言い淀んでいる感じであるが。
「何かあるのですか?」
「ええ、費用はほぼ同じくらいなのですが、対校意識が互いに強くて、すぐに学生同士の対抗戦にしてしまうので。」
うーん、それっていいのか。
まあ、ドラキャの操縦については、その学校で教育を受け、その後、書類を運輸協会イチノシティ支部に提出するか、運輸協会イチノシティ支部が直接実技試験をするので、その試験を受けて合格するかして、操縦許可証をもらえるということだ。まるで前世での自動車免許みたいなものか。
「うーん、どの学校でも一緒の費用か。まあ、冒険者ギルドからの紹介状があれば、安くはしてくれるしな。」
どの学校にするか、街のオリエ側にあるバーセイ学校と、オチシ側にあるサーラン学校。
「しかし、方角が違う言葉なんだよな。北がメリディ、南がアクイ、東がオリエ、西がオチシ。うーん、交通ルールとか大丈夫かな。」
「なまじ、前世の知識が邪魔をするのよ。その知識は捨てればいいのよ。」
組合本部の寮の部屋に戻り、ぶつぶつ呟く俺に、メムがアドバイスする。
「各学校の資料はくれたのだけど、部屋に戻って見てるくらいなら、学校見学に行きますか。」
「面白そうね、見てみましょうよ。」
メムは乗り気であった。
ということで、バーセイ学校へまず行ってみる。広いな。どうやら、学校内で基本訓練をして、その後外へ出ての訓練。うん、自動車学校だ。
その後街をオリエ側からオチシ側へ街を横断し、サーラン学校へ。バーセイ学校とほぼ同じ構造。うん、これも自動車学校だ。
さて帰るか、まあ近い方のバーセイ学校にするか、と思いながら帰途に就こうとすると、後ろから声を掛けられる。
「おい、グランドキャットを連れた兄ちゃん。あんた、バーセイ学校の間諜か何かか。」
ずいぶんな口の利き方だが、ここは紳士的に応対する。
「いえ、ただの学校見学です。間諜とは何のことでしょうか。」
見たところ、制服のような白を基調としたファションにして、金髪をオールバックにした若い男が、俺たちをジロジロと見ながら、
「ふーん、じゃあ、うちの事務員や教官を、引き抜きに来たんじゃないのか。最近、この学校の事務員の女性と逢い引きして、口説いている奴がいるらしいが、その手助けとかじゃないのか。」
ずいぶんな言われようだ。こういう輩は無視するに限るな。
そう思いながら、3歩ほど進んだところに、
「見つけたぞ、サーラン学校の間諜だな。サーラン学校へ報告か。」
制服のような青を基調としたファッションにして、銀髪を七三分けにした若い男が、息を切らせながら、俺たちの前に駆け込んできた。
「いえ、どちらの学校にするか、バーセイ、サーラン両校を見学させてもらってました。」
ここも紳士的に対応する。
「なにい、嘘をつくな。うちの事務員や教官を引き抜こうとしているのじゃないのか。最近、我が学校の事務員の女性と、密かに会って口説いている奴がいるという。貴様がその手助けをしているのだな。」
なぜか似たような話をさっき聞いたが………。
すると後ろから、オールバック男が、
「わがサーラン学校が、そんな卑怯なことをするとでも。お前んところみたいな、カス学校ならまだしも。」
目の前の七三分け男は、俺の背後のオールバック男に目をやって、
「何を言うか。このくそ学校。卑怯者の巣窟の分際で。わがバーセイ学校は、貴様ん所と同レベルには落ちていないぞ。」
俺たちを挟んで、まずは口喧嘩が始まった。
(ねえ、どうするの。止めるの、ダン?)
念話術ながら、メムがうんざりした感じで聞いてくる。
(我々は、帰りましょう。付き合いきれない。それにどっちの学校にも、行く気がなくなりましたし。俺たちを間諜扱いとは。)
俺もうんざりした感じでメムに答えを返す。
一方、オールバック男と七三分け男は、口角泡を飛ばして低レベルな口喧嘩を続けている。
「守銭奴の銭ケバ共が揃いも揃って、間抜けヅラ晒して!。」
「気性難の無能どもが!。お前らのできることは、自分でアホさを晒しまくるくらいだろ!。」
「ふん、腰抜けどもが!。偉そうに言語能力を披露したところで、しょせん獣以下の語彙力しかないくせに!。」
「よく言うぜ。そのままそっくりお返しするぜ!。まさにお前らのことじゃねえか。」
俺たちはこの口喧嘩の間から抜け出したいのだが、俺たちが右に動けば、彼らも俺たちを挟むように動き、左に動けばまた挟むように動く。
そこに、両校からの増援がやってくる。人数はお互い同数の6人。
バーセイ学校の方は、全員七三分けの奴らがドラキャに乗ってやって来て、一方サーラン学校の方は、全員オールバックの奴らが学校に近い位置なのか走って来る。
(ねえ、めんどくさいことに、かつ、きな臭いことになってきていない?。)
(メム様、用心しましょう。)
「サーランあほ学校の奴らを、その間諜諸共にやってしまえ!。」
「下品なバーセイ学校の奴らを、間諜諸共返り討ちにしてやれ!。」
お互いに俺とメムを、相手側の間諜と思い込んだまま、乱闘の火蓋が切って落とされようとしていた。
というか、両校の関係者に勝手に間諜と決めつけられて、こっちも完全にムカついている。
(メム様、逃げましょう。三十六計逃げるに如かずと言いますので。)
「集中」
念話術でメムに指示した後そう呟き、動きがスローに見えるところで、メムの首輪を掴み、両校の関係者の奴ら計14人の隙間を縫って、この場から猛ダッシュで離れる。
俺たちの存在を忘れて、乱闘が開始された。
周りの住民たちに迷惑はかけられないので、さっさと近くの警備詰所を目指す。
(逃げるのね、まあいいけど。)
メムは少し不満げであった。
(警備隊員に通報したほうがいいですから。俺たちまで一緒に乱闘すれば、後々めんどくさくなりますよ。)
俺たちが離れたことに、気付いたのかどうかはさておき、両校の乱闘は、一対一で七組の組分けが起こり、タイマンの戦いが七試合同時に行われているようだ。
そのまま、近くの警備詰所へ向かう途中、巡回中の警備隊員を見つけたので、
「あっちの通りで、計14人の殴り合いが。乱闘です。」
と声をかけて、その場所まで誘導する。
他の周辺住民の誰かが、俺たちのように警備隊員に連絡したのか、俺たちと警備隊員が喧嘩現場に着くと、そこは、まさにカオスであった。
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