46弾 これを魔弾といってみよう
「うーん、えらい日になってしまったわね。大丈夫、ダン?」
「まあ、大丈夫かな………」
組合本部の部屋に戻り、俺はぐったりした状態で、ベットに横になる。
「少し疲れた、夕食の時間まで横になっている。」
俺はメムに横になったままそう言う。
「本当に大丈夫、人を殺して、メンタルがきついのじゃない?」
メムが心配そうな声を出す。
「正直、予想以上に威力が強烈で、あんな炭や灰になってしまうとはなあ。お咎めなしとはいえ、いい気分になれないな。」
俺は、そう言った後、天井を見つめたまま、夕食の時までじっと横になっていた。
夕食もあまり食欲がわかず、メムに全部あげて、食べてもらう。入浴を済ませて、早々と横になる。
「ダン、あなたは気に病みすぎよ。」
メムがベットに飛び乗り、俺の枕元に顔を近づける。
「元の世界には戻りたいし、あなたに負担かけているのは十分わかっているわ。でも、手を汚さずに元の世界に戻ることは、現実的に難しいと思うわ。あなたは、前世で人を殺さずに人生を終わらせたけど、この異世界では、それは通用しないのじゃない。だから、割り切ってとは言わないけど。」
「話の腰を折って済まないです。俺が気に病んでるのは、この力に溺れて、人殺しの快感に目覚めてしまったらどうなるのか、という不安感ですから。」
「それなら大丈夫よ、私がついているから。それにあなたは、そんな快感に溺れるような人間じゃないし、そういう不安感を持つくらいなら、力に溺れて暴走しないわよ。いろんな死人を見てきた私が言うから間違いないわ。それに、この異世界で、あの威力の魔法では通用しない獣、とかもいっぱいいるかもしれないから。」
「それはそうですね、でも威力別に作っておきますか。でも威力が大きいほど、体力も魔力もかなり持ってかれるでしょうね。毛髪0.5ガラムの紙製薬莢の魔法を発動した時、ちょっと魔力というか精神力というか、メンタルを削がれた気がしましたからね。威力が上がると、それなりの代償は払うことになるでしょう。」
「私たちは、元の世界に戻るために、敵をどんな形になっても薙ぎ払って進むしかないのよ。そこんとこは、しっかり認識してちょうだい。まあ、もう寝ましょう。」
なんだかメムにいつもツッコミを入れていたようだったが、今日は逆になった気がする。まあ、もう寝るか。
数日後、
「もうしかしこれは、紙製薬莢というより、魔法の弾ね、『魔弾』というに相応しいわ。」
メムが俺に対して力のこもった説得を始める。
まず、ベースとなる魔法として、自分の属性が 火・水・風・土・光・闇 とこの異世界での全属性が使えることを考えて、
火属性用【火球】
水属性用【水球】
風属性用【風球】
土属性用【岩球】
光属性用【光球】
闇属性用【闇球】
と書いて、紙製薬莢にしてみた。もちろん、威力の増大を控えめにする事を考えて、髪を0.1ガラム入れたものである。各属性ごとに6発ずつ製作し、計36発。用心のため、今回は以前行ったカーリメアの森で魔術の研究ということで、全部発動させてみたのである。多少のムラはあるのだが、全てうまく発動した。しかし、36発の魔法の発動は、体に結構負担というか、疲労感が結構出てくることもわかった。そうなると、発動できる上限を調べて、自分の魔力と体力の向上で、上限を上げるようにする必要も出てくるだろうが。
ちなみに、魔法発動の効果は以下のようになった。
火球 発動すれば、火球が飛んで、火傷のようなダメージを与える。
水球 発動すれば、水球が飛んで、水没させたようなダメージを与える。
風球 発動すれば、空気の球が飛んで、刃で切ったようなダメージを与える。
岩球 発動すれば、岩の球が飛んで、銃で撃ったようなダメージを与える。
光球 発動すれば、光の球が飛ぶ。
闇球 発動すれば、暗黒の球が飛ぶ
それを見たメムが、魔弾というべきだと俺を説得し始めることに………
「ちょっと、聞いているの。やっぱりこれを、この紙製薬莢なんて言いにくい形はやめて、魔弾ということにすべきよ。いい、ダン。あなたが認めるまで、この話を止めることはないわ。」
メムは何かに取り憑かれたかのように、そう言って俺の説得を続けており、止む気配がない。
「いい、ダン。これを魔弾と、あなたが、認めるまで、説得を、止めない!!」
そんなに力を入れて言われても。
「第一、あなたの疑問が一部解けるかもしれないわよ。なぜ、本人登録証のジョブ欄に、魔弾道士、と記載されているのか、それは、こういうことじゃないの。」
「メム様の説得には、我田引水の響きが、でも、珍しくまともに説得力がありますね。」
「おお、珍しくとは、また随分な言い草ね。」
ドスの利いた声で、即座に腹部に頭突きをかます。
「まあ、そうカリカリしないで下さい。魔弾という言い方にするのは分かりましたから。説得を受け入れますよ。」
とりあえず、頭突きを左手で止めて、メムの言に一理あることを認める。
「やるわね、私の頭突きを止めるとは。どこぞの有名サッカークラブの名ゴールキーパーのようね。………え、じゃあ、魔弾ということで了解してくれるの。」
「まあ、紙製薬莢というのも、何かしっくり来ない気はしていたので。」
「でもまあこれで、魔術の目処は着いたのね。高級杖材とはおさらばね。」
「何か、引っかかるところはあるのですが…まさか、杖材に金を回さないから、食費も増えてメム様の食事も、高級な品が大量に食えるようになる、という考えのことではないでしょうね。」
メムが思いっきり顔を逸らす。
「メム様、組合本部の寮の部屋に戻りますか。」
「え、じゃあ食事はより豪勢にしてくれる…………」
「しませんよ、豪勢には。俺たちの財政状況が好転したわけじゃないので。」
メムの発言に被せる感じで、食事を豪勢にする話は潰しておく。
ただ、魔術、魔法については、なんとか目処は着いてきたのだ。細かいところと今後を見据えたことは、考えなければならないが。それにしても女神の喧嘩から異世界に転移してしまい、いろいろとやってきたが、まさかこの拳銃が、魔法を発動させる道具というか杖になるとは全く思いもよらなかった。
「魔弾か………」
俺はそう呟き、メムと街への帰途についた。
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