45弾 なし崩しだが実戦投入してみよう
『今の俺の魔法発動に必要なもの』とメモに書き連ねていく。
「何をしているの?記録?」
メムが覗き込んで尋ねる。
「ええ、材料を書き込んでおきます。
「しかし、これは薬莢、というよりもはや別物ね。弾丸でもないような気がするし。」
「そう思いますか、メム様。」
使用済み叩紙はあちこちの装飾店を周れば、予想以上にすんなりと手に入る。元々ゴミにするためのものだから。あとは、一定量の髪の毛を重さで計って紙製薬莢に入れてみる。それにそのために、昔ながらの分銅付き上皿天秤を購入した。使うのは前世で小中学生の時にやった理科の実験の授業以来だが。
重さの単位もこの異世界だと大体
1カロガラム=1kg 1タン=1ton 1ガラム=1g
となっている。
「でも、この紙とあなたの髪の毛を使ってここまでできるとは、とんでもないリサイクルね。」
少し感心したようにメムが呟く。
どこか、人も寄りつかないが、難易度の高くないダンジョンみたいなところを調べて探して、モーイラの洞穴というところに行き着いた。
あまりに危険性もなく、もう何も出てこないとかであまり人も寄りつかないし、獣も出てこない。奥行きもあまりなく、20mほど進めば、もう行き止まりという、ただ誰かが掘っただけの洞穴だという。街から徒歩でも行ける距離なので、朝からそこへ行って実験を行う。
まずは、毛髪0.1ガラム入れた紙製薬莢、次に0.3ガラム入れたもの、0.5ガラム入れたもの、あと比較対象として、インクに俺の血を2滴ほと垂らしてみたもので書いた魔法式である、漢字【火球】に、同様に毛髪を0.1ガラム、0.3ガラム、0.5ガラムを入れた紙製薬莢を用意する。的も用意して、洞穴の出入り口近くに立てかける。
「え、洞穴に入らないの?」
メムが聞いてきたので、
「洞穴内でやって、暴発して、洞穴に生き埋めはきついでしょう。」
と答えると、
「なるほど、かなり期待できそうね。」
ニヤリとした。
まずは0.1ガラム入れたもので、血のないインクで書いたものと、血を入れたインクで書いたものを、装填して発動させてみる。1発目を発動するためハンマーを起こし、引き金を引く。
ドシュ
いい音がして的が燃えながら砕け散る。安い板なのでそれはしょうがないか。焦げ臭い匂いが辺りを漂う。
的を変えて、次を発動するため、ハンマーを起こし、引き金を引く。
ドシュ
1発目よりいい音がして、的が燃えながらより細かに砕け散る。
これらなら、実戦投入できるかな。
次に0.3ガラム入れたもので、さっきと同様に比較をする。
血のないインクで書いた毛髪0.3ガラム入れたものは、毛髪0.1ガラムと血入りインクのものより威力が増して、一気に燃えながら砕け散り灰になった。
毛髪0.3ガラムと血入りインクで発動させると、的に命中し、的が灰になってしまった。
毛髪0.3ガラム入りだと、ちょっと威力がありすぎるかな。
これじゃ0.5ガラム入りを発動させるとえらいことになりそうだ。そう思って装填すると、
「ねえ、賊の気配よ。5人、いや6人。」
メムが知らせる。
その途端に、矢が飛んできてきたのでかわしていく。洞穴を背にしてしまう形になった。
「よーし、金目のものを出せ、分かっているな。」
そう言いながら木陰の茂みを掻き分けて、賊が6人現れた。
2人が弓に矢をつがえ、左右両端の2人が魔法発動のため長杖を構え、中央にリーダー格のやつと、もう一人が長剣と盾を構えながら俺たちを囲っていく。
「うしろは、洞穴だ。さっさと金目のものを出しな。そうすればその洞穴内に入ったままにならなくて済むぜ。生き埋めになりたいか!」
ショートソードを抜いても、タイミング的にどうかというところか、
「おい、その杖を地面に置け!」
(どうするの、これ。)
メムが念話術で聞いてくる。
多分俺の握っている拳銃が、短杖に見えているのだろうが、ええい、発動させてみるか。
「おい、構わない、こいつに魔法発動させろ。1発撃っとけ。」
「はい、フレイムブレイド!。」
先に敵の魔法が発動したのか、炎の剣が俺たちに向けられる。
こっちもやるか。拳銃を掲げ、狙いをリーダー格の奴に定め、ハンマーを起こし引き金を引く。
ドシューッ
俺は予想してなかった。リーダー格の奴のところに青白い火球が現れ、大きく膨れて先に発動した魔法ごと、奴らを包み込む。
そして、リーダー格の男とあと3人が………黒焦げのままの状態になった。立ったまま黒焦げになった状態だったが、すぐに崩れ落ちて塵になった。残った2人は、口をあんぐりと開けている。装備品と長杖が所々、少し焦げている。
焦った1人の賊が
「ロックナックル!。」
俺は反射的に、ハンマーを起こし引き金をもう一度引く。
ドシューッツ
さっきのように青白い火球がその賊を包み込む。一瞬で燃えて灰になって人型を保っていたが、風に舞って消えてしまった。
「動くな!杖を捨てて両手を挙げろ!」
俺は残った1人に拳銃を突きつけて威嚇する。ただし、もう弾倉は空だ。
「こういう風になりたくなければ、大人しくしたほうがいい。」
ハッタリを見抜かれないようにしながら、拳銃を突きつけ続ける。
相手は、力が抜けたように杖を放し、気を失い座り込んでしまった。
それを見て俺は拳銃を納め、腕を極めると、メムが相手の様子を見て匂いを嗅ぎながら、相手が持っていたロープを口に咥えて俺に渡そうとする。俺はそのロープを使って、相手の手足を背中側でくくりつける。相手は捕縛され海老反りの状態である。
その直後、俺は………激しく嘔吐した。メムには見張りをさせた。
「ねえ、大丈夫?、と言ってる状況でもなさそうね。」
メムが見張りながらぐったり座り込んだ俺に声をかける。俺も、このあとどうしようかという事を考える余裕もない。ただ、捕縛した賊から目を離さないように意識だけして、賊の状況を見ている。そこへ、
「もしもし、ニシキ殿、いかがしました。」
声をかけてきたのは、数人の警備兵を連れたローウェル隊員であった。
周りを見渡し、縛られた賊を見て、
「賊とやり合ったのですね。しかし、焦げ臭いですな。」
と言う。
「魔術の研究中に賊に襲われて、………ちょうど魔法を発動させて7人のうち6人を殺してしまった、残り1人は………この通り捕縛した。」
俺は、とりあえず説明をする。そして捕らえられて気を失っている賊を叩き起こして見つめる。
「ああ、あああ、この冒険者の言う通りだ。7人で襲って返り討ちにあったんだ。本当だ、殺さないでくれ。」
賊が必死に命乞いをする。
「ふーん、しかしまた、随分と怯えていますが………」
ローウェル隊員が賊を見ながら言う。
俺も嘔吐感を抑えながら
「ちょうど、魔術の研究で魔法を発動させていて、そこへ7人の賊が襲ってきた。俺に金目のものを要求した上、魔法を発動させようとしたのでこっちも魔法を発動した。その魔法の威力が強くてな、4人を炭にしてしまった。そのあとすぐに、残りの2人のうち1人がロックナックルとかいう魔法を発動させてきたので、こっちもまた魔法を発動した。この魔法も威力が強くて、1人を灰にしてしまった。………まあ、そう言うことだ。」
「わかりました。とりあえず、近くの警備詰所へ行きましょう。そこで話を聞かせてもらってもよろしいですか。」
「ああ。ちょっと気持ちが悪いので、ゆっくり歩きながら向かいたいが大丈夫ですか。」
とっとと早足で行かされるのは、今の俺の体調的に厳しいから、そう言ってお願いする。
「ええ、大丈夫ですよ、うちのドラキャを使いましょう。」
そう言って、俺とメムと捕縛した賊をまとめて、ドラキャに乗せて警備詰所へ行く。
警備詰所で、他の警備隊員とローウェル隊員に、小会議室みたいな部屋で、同じ事を2回ほど説明する。賊は別室で事情を聞かれていた。
説明後、しばらく小会議室みたいな部屋で待っていたが、水を飲ませてもらい、気分の悪さが治ってくるのを感じていると、
「状況はわかりました。賊の退治、お疲れ様です。」
そう言って、ローウェル隊員が顔を出し、解放された。
詰所前まで送ってくれたローウェル隊員に、
「なぜ、あそこに来られたのですか、何か偶然なことがあったとか。」
と聞いてみると
「巡回警備中に、偶然焦げ臭い匂いがしてきたので、どこかなと思いながら捜索していたら、ニシキ殿あなたに遭遇して。魔術の研究だったのですね。賊が怯えながら言ってました。相手を甘く見ていた、舐めていたと。」
「そうでしたか。とりあえず、これでこの件は。」
「ええ、おしまいですよ。」
そう言われて、組合本部へ戻ると、受付に呼ばれ、賊を退治した件を説明する。警備隊から話は来ていたようだった。
全て終わったのは、夕刻になる少し前だった。
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