12弾 対人戦闘をしてみよう

 少し歩いて街の第2裏門へ向かう途中、ふと人の叫び声が聞こえた。メムと顔を合わせる。


「どうするの、放っておくの。」


「無視するわけにはいかないでしょう、どこからでしょうね。」


「こっちね、付いてきて。」


 メムが先頭になって俺を誘導する。道から森の中へ入り、少し開けた場所へ行くと、斬り合いが始まっていた。

 俺から見て右側の方向にワゴンがあり、賊っぽい奴らが取り囲もうとしていた。ワゴンの守りは3人ほどか、2人は倒れている。襲撃者側は8人ほど、3人ほど倒れているようだ。

 とりあえず、後ろを向いているやつの頭めがけて飛び膝蹴りを喰らわす。うまくは当たらなかったが背中に命中、敵はそのまま前に崩れ落ちる。まずは大声で威嚇するか。


「おどれらぁー、なにさらしとるんじゃー。」


 賊の集団らしき方に向けて思いっきり声をぶつけてみる。発声時の気合いは意外と大事。あと集中集中。

 一瞬賊らは怯みを見せたようだったが、


「何だ、貴様ら。」


 と悪役のテンプレ対応が如く台詞を返すと、俺に向かって2人が、剣を上段に振りかぶって襲ってきた。

 その時、2人の動きがあのスライコヨーテと戦った時のようにスローに見えてきた。

 俺から見て右側の奴の顎を狙い掌底を打ち込んでみる。

 手応えあり、綺麗に少し吹っ飛びひっくり返った。すぐにバックステップを踏み左側の奴の一撃をかわし、間合いをとる。


「おい、予備の武器はあるか?」


 隣の護衛らしき男が俺に声をかけてきたので、ちらりとみると剣が折れていた。


「中古品ですがね。」


 といって俺は腰のショートソードを投げ渡す。そして無意識にカバンの中から例の拳銃を出し、その銃身を握った。

 今、この空間はまさに殺し合いだ。俺は無事に何とかできるのか。そう思いながら一撃をかわされた賊と相対する。

 その賊は、今度は剣を水平にし刺突をかけてきた。喉を狙っている。スローに見えてきたことを意識しながら、喉を左小手でガードしつつ受け流す感じで、左足を後に引き、右手に握った拳銃で拳ごと銃把じゅうは部分をその賊のあご目掛けて叩きつける。

 銃把じゅうはが頑丈であったのか、拳にもグシャリとした感触が響いてきた。と同時に賊の体が前のめりにその場に崩れ落ちた。賊たちの動きが止まる。


「コイツは俺がやる。」


 護衛とやり合っていた賊の一人がそう言って俺に対峙する。


「変わった得物を持ってやがる。」


 そう言って加勢するためかもう一人が俺と対峙する。


 そこへ横合いから黒い影が飛び出して、俺に対峙していた賊の一人の顔面にぶち当たった。その賊は糸が切れた操り人形のようにズサリと膝から崩れ落ちた。

 その黒い影は、メムだった。

 そこへピーッと笛の音と共に、火の玉が飛んできて、賊たちの前に着弾した。笛の音が再び鳴り、街の警備隊員が6人ほどやってきた。


「やばい、退くぞ。」


 賊のリーダーらしき男がそう言いながら怪我した賊を抱えつつ撤退する。その言葉を聞いた他の賊たちも、各自怪我した賊を抱えながら撤退していく。賊の割には仲間は見捨てないようだ。

 ふう、と俺は一息ついた。

 護衛側の倒れていた者は、外見に怪我は見当たらないようだが、防具が酷く損傷していた。剣で襲われたが、斬れずに打撃を喰らったような感じになったということか。


(ねえ、取り急ぎ城門の警備兵を呼び出しておいたわよ。)


 メムが念話術で俺に囁きかける。目をらんらんと輝かせてこっちを見てる。いわゆるドヤ顔か。


(お見事です。メム様。よく連れてこれましたね。)


(噛みつきとか引っ掻きとかをしてやって、こっちに逃げて来たのよ。)


(正体をバレないようにするためには、話も念話術もできないですから、それしかないですが………。)


 よくみると、一部の警備隊員の顔に引っ掻き傷が。後々大丈夫か、俺も飼い主としての責任問われるのかと、ものすごい不安になった。


(これで今夜は20人前くらい夕食を食わせてくれるわね。)


(どうなるかまだ分からないですよ。というか、どんだけ食うつもりですか。)


 メムは俺に対してものすごくドヤドヤ感を出している。

 うーん、警備隊員の呼び出し方が問題だよな…。



 ワゴンの中から、濃紺のスーツのような外套を着た2人の男女が姿を現した。男性の方はマッシブな感じの老人、若い女性の方は赤ん坊を抱いていた。赤ん坊は意外と落ち着いているようだ。


「みんな無事か、怪我人の手当てを。」


 老人が告げる。警備隊員たちがそこへやって来る。


「あなた方こそ大丈夫ですか。」


 警備隊員の中でリーダー格らしき者が老人たちに尋ねる。


「わしら親子は大丈夫じゃ、護衛の者が怪我しているが。しかし、よく来てくれたな。礼を言うぞ。」


「いえ、あのグランドキャットにいきなり引っ掻かれて噛みつかれたのです。それを追ってきたらあの現場に。」


 と言ってメムを指差す。

 俺は拳銃を片付けながら、警備隊員たちを眺めていたが、そこへ護衛の男が


「コイツは返しておく。ありがとう。」

 と言ってショートソードを返してくれた。

 その後、いわゆる事情聴取みたいなことになった。


「本人証はこちらで…はい、依頼を実行する前の偵察に行った帰りに、悲鳴やらを聞いたのです。そちらへ駆けつけると賊がこの集団を襲っていましたので、とりあえず手を出しました。」


「本人証は返しておく。ふむ、賊の数は?」


「俺が来た時は、8人ほどで3人倒れていました。その後、こっちで2人対峙しました。」


「そうか、わかった。あのグランドキャットはお前が主人か?」


「ええ、そうです。ご迷惑をかけたようで。主人として誠に申し訳ない。」


 俺は深々と頭を下げる。


「全くだ。まあしかし、そのおかげで犠牲がなくて良かったがな。なかなか賢いグランドキャットだな。」


 少し安心する。


「もしかして俺は、何か罪に問われますか?」


「状況から見て強盗の防止をしたと言えるだろう。問題はない。これで罪に問うたら我々は確実に路頭に迷う。」


 と言って警備隊員は軽く笑う。

 その後警備隊員たちが集まって話し合いをし、みんなで街へ戻ることになった。


「先ほどは剣を貸してくれたようでありがとう。あと、手助けもしてくれて、重ねてありがとう。礼を言わせてもらおう。」


 とマッシブな老人が声をかける。


「わしは織物衣料商店の後見役をしている。姓はマーハ、名はラステと言う。」


「こちらこそ名乗りが遅れました。姓はニシキ、名はダンと申します。ところでなぜ襲撃を受けたので?」


「わしの娘が出産してな。別荘に行っていたが、産後の体調も良くなって婿殿の屋敷に戻るところじゃったのじゃ。その途中で襲われたのじゃ。しかし、ちょっとあの人数の賊の襲撃は予想外じゃった。護衛も少なかったかもしれんのう。」


 そうか、親・子・孫が乗っていたのか。


「とにかく助けてくれてありがたい。誠に感謝する。」


 と言ったところで、森の奥からガサガサと音がすると共に、馬が俺たちの前に姿を現した。


「おお、無事に逃げ切ったか。」


 しかし、よくその馬らしき獣を見ると、尻尾が、俺が前世で見た馬の尻尾ではなく、柳の木の枝のような尻尾であった。


「このホードラ達にはきちんと調教しておいたからな。」


 ほーどら?

 マーハさんによると、これでワゴンやキャブを引き、交通手段としている。ものすごくタフでスピードもあり、きちんと調教すれば長期間活躍してくれるという。ただ、人が背中に乗ることはできないし、乗ろうとすると、激しく振り落とすのだそうだ。サラブレッドを色んな意味で物凄くアップグレードしたようなものか。


「何がともあれ、礼をしたい。」


 と言われたのだが、あまり欲張るものでもないという思いから


「わかりました、このグランドキャットに夕食20人前を奢ってくれれば。」


 と言ってみたら


「なんじゃ、そんなものでいいのか。」


「ええ、いちばんの功労者はこのグランドキャットでしょう。あとは護衛の方々の怪我回復をしていただければ。」


 まあ、あんまり恩着せがましいのも嫌だし。


「よろしい、後で組合本部にお礼状と貴公に対する我が店への紹介状を送っておこう。夕食20人分はこちらの払いとして、ツケておいて結構じゃ。」


 と言って、カカカと笑ってくれた。もしかして大金持ちのセレブだったか。とはいえこれでメムの願いは叶ったと言うことで。

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