13弾 獣退治をしてみよう
街に戻り、組合本部へ顔を出し、受付に顔を出すと、ちょうどその場にいた受付担当に賊の襲撃の件とその顛末を報告した。組合本部にも情報は来ていたようだった。
「もしかすると、新たな依頼があるかもしれませんね。」
とその受付担当は言った。
組合本部から出て、念話術を使う。
(メム様、これで今日の夕食は、メム様の希望通り20人前が奢りになりますよ。)
(よくやったわ、じゃしっかり食い尽くすわよ。)
(まずその前に、明日からの依頼のための毒薬とかの準備をさせて下さい。)
ということで、結局、獣退治用の毒餌等を手に入れた後、組合本部外の安くて美味そうな飯屋で、メムは本当に20人前を食べ切った。内臓構造はどうなっているのか、地球の女神達は全員大食いなのか…。
マーハさんのツケにしてもらい会計を済ませると、メムは物凄く満足げな顔をしていた。ツケがなければ、今までの稼ぎの半分が持っていかれるかも知れなかった。
寮の部屋に戻り、明日の準備をして、メムとも打ち合わせをする。メムはすごくやる気になっている。
翌日からレッドヒルダイルの退治にかかる。昨日偵察した現場の池に行き、打ち合わせ通り、俺が主攻撃で、メムが横から引っかきやら噛みつきで補助攻撃をする形を取ろうとした。
「さて、メム様、フォローお願いしますよ。」
「任せてちょうだい。」
いい返事だ。ということでまず1匹目。
池の外にいるレッドヒルダイルをターゲットにしてゆっくり近づき、ショートソードを抜き両手で構える。と、急にレッドヒルダイルが動き出すと、
「ええ、なんでこっちに来るのよー。」
メム目がけて二足歩行で突進を開始した。メムは必死で逃げようとするが、不意を突かれたのか、レッドヒルダイルに抱き付かれるように捕まってしまう。
「キャー、食べないでー、いやー、舌で舐めないでー。どこ舐めてんのよー。」
レッドヒルダイルは、メムにじゃれついていた。
しばらく見ていることにする、ってわけにもいかないな。
「ちょっと、じっとしてないで………早くなんとかしなさいよ。この舌のザラザラ感がなんか、なんか、なんか嫌なのよー。」
メムは金切り声で、悲鳴まじりに助けを求めた。
集中力を上げて、レッドヒルダイルの弱そうな白色の表皮側の腹部上部に狙いを定め、メムにじゃれついている奴の隙を見つけ、刺突する。手応えがあり、うまく、ズブリと腹部にショートソードが刺さり、奴はダメージを大きく喰らったようで仰向けになり、動きが止まってぐったりとし出した。トドメに、もう一度白色の表皮の喉あたりから頭頂部に突き抜けるように、再度刺突したら、ピクリとも動かなくなった。
「ふう、なんとかなりましたね。」
と言ってメムを見ると
「もう嫌、もう嫌、もう嫌、もう嫌、もう嫌、もう嫌、もう嫌、もう嫌…」
そう呟きながら、土下座のように身を伏せている。
昨日のやる気が、あっという間にどこかに行ってしまっていた。
「メム様、大丈夫ですか?、いや大丈夫じゃなさそうですね。」
携行している回復用ポーションを少し飲ませてみると、体力は回復したようだった。ただ、メンタル面が弱ったままだ。
「なんで、なんで、あんなことになるのよー。」
「メム様、もう1匹倒してから考えましょう。もしかすると、メム様の猫状態での美しさが、奴らを惹きつけたのかも知れません。」
「なるほど、私の美貌があいつらを惑わせて惹きつけるのね。」
意外にちょろいメム様だ。ということで、もう1匹に狙いを定め、今度はメムを前に立たせて、静かに近づくと、
「キャッ、来たわよ。」
とりあえずカウンターで刺突する要領で、二足歩行でメムにじゃれつこうとする、レッドヒルダイルの喉目掛けてショートソードを突き出すと、見事に命中し、またもズブリと手応えあり。2匹目も倒すことができた。
このパターンで1匹ずつ倒していき、計4匹まで倒してから、道端にレッドヒルダイルの死体を移動させ、街の運送屋に行って、退治した遺体を組合本部前に運んでもらい、今日のクエストを終わることにした。
何しろ、8匹一気には時間的に運べない可能性が大きいし、メムの精神的疲労面を考えたのだ。
「早くお風呂に入って、このぬるベタな感じとおさらばしたいわ。」
確かに後半戦は動きが悪くなっていたようだし、達成するための期間は後8日ある。
「ダン、あなたは、もっと早く動いてよ、じゃれつかれるのを見てたでしょ。」
本日の戦闘に元女神猫はご不満のようだ。
「まあまあ、メム様。まず一風呂浴びて、飯食って、落ち着きましょう。」
その後は反省会かな。
「だから、何でこうなったのかはわからないのね。」
寮の部屋に戻り、風呂と夕食後、メムと本日の戦闘について反省会が始まった。
「俺たちも初めての戦闘系依頼ですからね、昨日打ち合わせていても、想定外のことは起こるということではないでしょうか。」
風呂は大変だった。先にメムを洗ったのだが、泥とレッドヒルダイルの涎らしきものを落としたのだが、なかなかこびりついて落ちにくかった。おまけに、毛並みが物凄く乱れていたので、風呂後乾かして必死にブラッシング。やっと元に戻ったのだった。
その後の俺の風呂は、たださっさと髪と体を洗っただけになった。
「確かに最初は思わぬことが起きたので、頭が上手く回らなかったと思います。ただ、翌日からは、メム様を前にして、あのレッドヒルダイルを引き付けてもらい、やってくるところを俺が刺突する形でやってみましょう。」
「わかったけど、捕まってあんな目に遭うのは嫌だからね。」
「大丈夫です。もしかすると、メム様、あなたはいわゆる『最強の囮』と言ってもいいかも知れません。」
「そ、そうかしら。」
「その魅力的な美しさで敵を惹きつける、そして華麗にかわす、これならどうでしょうか。」
「なるほどね、ダン、あなたが気を取られた敵を討つ、ということね。」
「わかっていただければありがたいです、メム様。」
「でも私、あなたの戦闘、初めて見たけど、急に動きが速くなるのね。緩急があるというか。」
「へえ、そう見えるのですか。」
ふむ、集中していくと敵の動きがスローに見えるのだが、そこをついて攻撃や回避をしているような感じなんだけどな、なんか集中力が上がって、こんな状態になることをどう言ったけな。レーサーや運動選手とかに多かった気がするが。
「ダン、ダンってば。」
「おっと、考えに
「じゃ明日はうまくやりなさいよ。」
「わかりました、メム様。」
翌日、2匹はメム様を囮にしたパターンで退治できたが、最後の残り2匹は池から上がってこなかったので、やむを得ずあらかじめ買った毒餌を使った後、弱ったところを池に入ってトドメを刺して依頼を完了させた。後はギルドへ報告だ。
「ねえ、そのカバンってずっと思っていたんだけど。」
俺が、退治依頼の証拠をカバンに入れるのを見ながら、メムが口を開く。
「多分、チートアイテムかどうかはわかりませんが、結構よく入りますね。いわゆる異空間収納とかいうものかもしれません。でも。」
水筒の水を啜りながら被せ気味に答える。
「限界の収納量があると思っていますが、これはじっくり確認しないといけないでしょう。」
限界に挑戦といっても、いきなり大量のアイテムを用意できないし、カバンに入りきらなかった場合を考えなければならない。また、大型のアイテムや獣が入るかどうかは、いきなり調達できるものではないし、大型アイテムを入手する予算もないし、大型の獣を退治するための必要装備を着用するにしても、退治するにしてもそのレベルにはまだ程遠い。
「
「ほんと、
「メム様、昨日レッドヒルダイルにじゃれつかれたこと、根に持っていらっしゃるとか?」
「あんなおぞましい経験はもう懲り懲りよ、決まってんじゃない。」
「でしたら、メム様、そのような目に遭いそうな場合は、気合いを込めて一発、獣にこう言ってやりましょう。舐めんじゃないわよ!、っと。ぐはっ。」
「ざけんじゃないわよ!!。獣にそう言って通用する保証はあるの。」
メムの激しい頭突きによるツッコミが俺の鳩尾にヒットした。うう、効いたあ。
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