14弾 杖について調べてみよう

 組合本部へ戻って、死体を運んでもらい、ギルドに依頼完了の報告をする。担当のセイクさんから、依頼料とレッドヒルダイルの買取り料金を合わせて受け取った。収支はトントンとか、いや、わずかに黒字といったところか。


「あと、マーハ・ラステ様からあなた宛に紹介状を渡して欲しいということですので、これがこちらで。しかし、大変でしたね。一昨日は賊対応までしてくれるとは。」


「セイクさんは一昨日非番でしたっけ。」


「ええ、昨日の朝に話は聞きました。この件につきましては、臨時の依頼実施ということで些少ながら依頼料を受けることもできますが。」


「いや、これは依頼料は受け取れないですね。マーハ様からお礼は十分もらっていますし、護衛の方の治療費にでも当ててくれれば。」


「おや、そうですか。17歳の割に妙に落ち着いて対応しますね。普通は受け取れる時には遠慮なく受け取る方が多いのですが。」


「そんな褒めても何も出ないですよ。これで、護衛の方の面子が立たなくなるのも嫌ですので。それに、一番の功労者はこのメムですから。しかし街に近いのに賊の襲撃があるとは。」


「この件は警備隊の方でも調査中ですので、まだこちらに調査情報は来ないのです。」


「たまたま賊と遭遇したとか?」


「それも調査している最中です。」


「そうですか。」


「何がともあれ、依頼も無事に終了しましたし、お疲れ様でした。次の依頼につきましては…」


「それでしたら、あと6日後に受けにくる形を取りたいのだが、よろしいでしょうか。」


「ええ、構いません。こちらもニシキ様向けとなりそうな依頼が、今は空状態ですので、しばらくお待ちしていただくところでした。」



 運良くか運悪くかはわからないが、空白期間的な状態になった。この間に杖をどうにかしなければならない。とはいえ、自分に合った木と魔石の組み合わせで、杖を手に入れることになるが、入門用的な木であるインパンの木では全く合わず、合いそうだと思われるダイバムナリグの木は、希少かつ高価という代物。魔石と杖も成長に合わせて変えていくこともあるらしいが、基本一生物ということで、最高級品の杖だとン千万クレジットが吹っ飛ぶこともある。

 杖の製作も材料費と加工費用が加味され、まるでロールスロイスみたいな高級自動車の感じすらあるのだ。実際昔に作られた杖を、親子親戚代々杖を使い回している者もいるというし、数年かけての分割払いをする者もいる、自動車ローンみたいなものだ。だがまあ、そのレベルの杖を使うものは一種の大魔法使いである。

 この異世界の人々は一般的にはインパンの木やラーナズミの木、良くてもカダアサキの木の杖で魔法を発動させる人が多い。ましてや効力を持つ魔道具で魔法を発動させるにしても連射が効かないものであり、俺が数度ほど店で試しに杖や魔道具を使わせてもらったところ何の変化もないか、魔道具が壊れてしまうので、あれこれと試すのも難しい。店から請求書がやってくることになるのだ。まあ、壊したのは安い目のものだったが。



「よし、杖はしばらく諦めよう。杖材を自分で探して見つけるとかしてみよう。」


 一日が終わり、組合本部の部屋に戻って、結論を出す。


「ダン、それってギャンブル要素が大きくない?」


「店を回っても、杖は合うものが無く、魔道具は壊してしまうか使えない。魔道具を大量に買っても使えななければ無駄遣いになります。それにこの異世界にとって俺たちはある意味異物だと考えれば、魔術の発動は難しいかもしれない。逆に考えれば、この異世界にとって意外なものが俺たちの魔術の発動に役に立つかもしれない可能性もある、とも考えられます。まあ、魔術協会の測定は実に結構正確だったということも事実ですし。」


「でも、魔術の発動に役立つ意外なものがすぐに見つかればいいけど。魔法式や魔法陣が私達にフィットしていないこともあるのじゃない。」


「うーん、この異世界の言語は、俺たち、すっと読み書きできるようになっているのになあ。」


「本っ当、この世界はふ………………………………。」


「ワー、ワー、だめです、だめです、メム様、そんな汚い言葉はやめて下さい。しかも大声で。女神様がなんという言葉を。」


 慌てて言葉を覆い被せるように叫んで、メムの口を手で覆ってしまう。


「もう、一気に進まないのかしら。昔見た映画みたいに、私やダンに実はものすごい力が眠っていて、手を触れずに人や物を動かしたり、精神を操ることができたりとか、あとなんたらセイバーで攻守両方に使えるようになるとか。」


「そうだとしても、いきなり自由自在に使いこなせますかね、それなりの修行が必要じゃないですか。」


 結構せっかちな元女神猫だ。猫のなりでそれができたらすごいが。あと、昔見た映画って何を見てたのだろうか。


「さて、じゃあ明日は、紹介状を持ってマーハ商店に行ってみましょう。」


 行き詰まってる空気を変えるように言ってみる。


「紹介状でいっぱい飯が食べられるかしら。期待したいわね。」


 メムはテンションが上がったようだ。


「メム様、一応地球の女神として卑しすぎるかと思います。あまりたかってばかりなのもみっともないですし、バカすか食い意地を張っても、相手も不快に思うでしょうし。食事を出されても控えめにお願いします。」


「えー、そんなー。」


「それに、元の世界に戻って、その猫の状態から女神になった時に食べ過ぎで体型が変わってしまっていたらどうしますか?他の神様達が本当にメム様だと信じてくれなかったりすることも考えられますよ。」


「う、うう、それは言わないで…」


「食事量に気をつけましょう。そうすれば戻った時も大丈夫じゃないでしょうか。」


「それもそうね。頑張るわ。」

 

 全く脅したりすかしたりおだてたり、本当に地球の女神様の相手は疲れる。猫になって、いやグランドキャットになって神の自覚もなくなってしまっているとか。嫌だな、それ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る