17弾 臨時の護衛依頼をこなしてみよう

 護衛の方々は、リッチーナ商事所属の方々であり、要は支店から他支店への運送のために雇われているということだった。運送の後、ニーノショート支店で業務をするためすぐに戻れないので片道のみの依頼ということになったらしい。出産に対応する護衛の方は後からニーノショート支店にやって来ることになるそうだ。まだ駆け出しの冒険者が参加するのはどうかと思ったが、イーチノシティ組合本部との急な調整の結果だった。


 移動はホードラキャブ、略称ドラキャでだった。要は荷馬車みたいな感じだ。中距離用のホードラが2頭建てで2台、一台に運送物が、もう一台は護衛が乗る用途であった。さっさと出発し、ニーノショートの街へ向かうことに。


 目的地へはスムーズに進んでいった。商事の護衛の方々は運転をかわりながら、俺と他愛の無い会話をしていた。メムは護衛の皆さんにすごく気に入られたようだった。


「益獣連れとは聞いてましたが、素晴らしいグランドキャットですね。毛並みといいルックスといい、本当にいいです。」


 護衛の方からお褒めの言葉をいただく。さすが猫になっても女神のオーラかなんかがあるだろうか。まあ、普段のややこしい性格を出していないからな。まさに猫を被ってやがる。


 昼頃に予定通りに到着しそうだという話をしていると、ニーノショートの街が見えてきた。間も無く入門できそうかなというところで、近くで爆発音がした。ドラキャは一時停止する。護衛たちがドラキャから一斉に降りるのに続き、俺もメムも降りて戦闘体制をとる。その俺たちの目の前に、人が二人吹っ飛ばされてきた。二人とも軽鎧をつけているが、顔がボコボコになっているし、ノックアウトされており意識はない。武器は持っていないようだ。

 その直後、


「ひやーーー、お助けー。」


 という素っ頓狂すっとんきょうな悲鳴と共に、木々の奥から街道に飛び出してきた男、短杖を持ち森の方を振り返りながら俺を見て、


「こうなりゃヤケのやんぱちだ。」


 と言って、俺に走り寄ると、短杖を突きつけ


「テメーら動くなよ、動くとこいつに俺の魔術を叩き込むぞ。ぎえー。」


 ま、当然そうなる。メムが思いっきり短杖を握った手に噛みついてあげたのだ。すかさずそこへ、俺も柔道の大外刈りの要領で敵を投げ倒し、地面に叩きつける。


「ま、まいった。自首する。降参する。俺は賊稼業をあの二人と組んでやっていた。」


 と言ったので、護衛の方々と共に3人を縄で縛ってあげた。短杖を持ってた奴は、自首すると言った後、気を失っていた。

 その後、縛った3人は俺とメムで見張っておくことにし、先に街へ行き運送の依頼を終わらせると同時に警備兵を呼んでくることになった。


 護衛が去った後、道端が静かになった。そこへ森から街道へ3頭の大柄な類人猿たちが木々をふわりと飛びながらやってきた。あれ、どこかで見た奴らのようだが…


「モシヤト思ウガ、ニシキ殿デハナイノカ。」


 抑揚を感じさせない喋り、やっぱり。


「これは、ゴルド殿、久しぶりです。修行の旅ですか?」


「左様ジャ、オオ、ココニ逃ゲタ身ノ程知ラズノ『ヒューマー』ガオルワ。」


 と言って、縛られている3人の賊を睨みつける。


「何か関わりがあったので。」


「何、稽古中ニ、暴レ込ンデ来タ者ダ。我々ニ斬リカカリ、アマツサエ、魔術ヲブッ放シテキヨッタ。故ニ応ジタマデノコト。」


 この賊どもはえらい相手に喧嘩を売ったということか。


「武器ヤ魔術ニ頼リ切リナ、ヒューマーナゾ、相手ニナラン。」


「いきさつはわかりました。この賊どもはこちらで捕縛し、しかるべき処置をしますがよろしいか。」


「アイワカッタ。時ニ、ニシキ殿、再度ノ手合ワセノ機会ヲ願イタイノダガ。トハイエ、我ガ群レガ居所、落チ着イテ、シバラク移動ノ予定ガナクナッテカラ、我ラカラ連絡スルコトニナルガ、ソノ方ノ居所ハ何処カ。」


「しばらく、イーチノシティの組合本部におります。連絡は手紙かなんかで?」


「我々ノ方カラ、ツカイドリ、デ連絡スル。」


「分かりました。もう去られるのですね、群れの長のチャンプ殿にもよろしくお伝えください。また壮健で会えるのを楽しみにしています。」


「ウム、慌タダシクテスマナイ。今度ハ、ジックリト手合ワセシ、話ヲシタイモノダ。」


 そう言って木に飛び移り、そのまま去っていった。

 前回といい、今回といい、ファイティングエイプとの遭遇は何か慌ただしい。だから滅多と見られない獣として珍獣にランクづけされているのだろう。とはいえ、信頼関係を築けているのは悪い事ではないな。


「ああ、緊張したわ。ダン、よくあんなのと手合わせしたわね。」


 メムが溜息混じりにそう呟く。とそこへドヤドヤと警備隊員たちがやって来て、


「話は聞いている。こいつらだな。」


 と言って、気を失っているままの縛られた賊たちをドラキャブに詰めて連れて行った。俺も彼らについてニーノショートの街へ向かった。


 任務の完了をニーノショートの街の組合本部に報告し、報酬をもらいそのまま、イチノシティの街に戻ることにした。ちょうどタイミングよく、イチノシティの街に向かう乗合のドラキャがあったからだ。報酬の代金にドラキャの料金が含まれていたのでそれで料金を払い、イチノシティの街に戻ることにする。結局イチノシティの街に戻ったのは日の入り直前であった。



「ねえ、毎度毎度毎度、ほとんど同じ所で食事するって飽きないの?」


「メム様、あまり贅沢言わないでください。元の世界に戻るためには地道な努力が必要なんですから。」


 翌朝、部屋で、メムがいきなりワガママを言ってきそうになると思ったので、とりあえず食い気味に答えておく。


「ダン、あなたの言うことが間違っているわけじゃないのよ。もちろん元の世界に戻る努力は必要だと思うわ。わかっているのよ。でも、女神としての生活がこの猫になっても身に染み付いているから、どうしても、どうしても今のこの生活がキツく感じる時もあるのよ。」


「まあ、女神様が猫になって異世界にいるということが大変なことですし、苦労は察します。だからこそ、早く元に戻るための。」


「だからそれは分かっているんじゃないの。ただ、たまにはこうちょっと豪華な食事をしたりとか、そんな気晴らしがしたいのよ。」


「言っておきますが、それをいうなら、暴食を控えていただかないと。あなたが大食いするために組合本部付きとして維持管理費月2万クレジットのほかに追加であなたの食事代3〜4万クレジットを払う羽目になっているのですよ。」


「わ、分かったわよ。こう楽に稼げる依頼とか何かないのかしら。こうなったら、あの担当のセイクさんを脅すなり嵌めるなりして、隠し依頼みたいなものを…」


「いい加減にしてください。そんなことをしたら犯罪者になってしまいますよ。元に戻るどころか監獄に行くことになりますよ。」


 あまりの発言に頭に来たので、素早くメムの尻尾を握りしめる。


「ちょ、ちょっと、勘弁してください。力が入らない…。」


「メム様、俺も色々観察はしているし、それなりの付き合いなので、弱点は見当がついてるのですよ。あまりワガママ言わないでください。また今度犯罪まがいの事言ったら尻尾に思いっきり、リボンや紐をくくりつけてあげますよ。」


「うう、うう、うううう、わ、分かりました。お願い…です…。尻尾から…手を…離して…ください。もう…言い…ません。」


 ぐったりした声でメムがお願いする。


「まあ、ストレスがあるのは分かりました。でしたら前世で言うところの喫茶店のようなところで昼食とスイーツにしましょう。まあ、店があればの話ですが。」


 手を離しながら、メムに提案してみる。


「分かったわ、妥協案というところね。」


「妥協してください、メム様。お金は大事なので贅沢はあまりできません。」


 なんやかんやで、街に喫茶店らしきものがあるか捜索することになった。

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