16弾 女神とこの異世界に送られた件について仮説を立てよう

(どうですか。首輪は気に入りましたか?)


 店を辞したあと、組合本部に向かうため街中を歩きながら念話術でネムに話しかける。


(とってもいいわ、最高よ。あの商店に行ってよかったわ。)


 満足げな顔でメムが答える。


(しかし、ダン、あなた店を出てから、浮かない顔というか冴えない顔してるわね。何か考えてるの?)


(さっきの話についてですよ。うーん、あの拳銃、この異世界じゃ杖に見えるのかと思ってたのですよ。)


(世界が変われば、見方が変わる。とはよく言ったものね。私も拳銃だと思っているから。)


(そういえば、昔見た映画とよく言ってましたが、神の世界で映画なんてあるのですか?)


(ああ、現状視察よ。私達も変装して映画やら雑誌などから人間社会の情報を得ていたのよ。死人を迎えるためにある程度の知識は必要だし、アップデートしなくちゃいけないし。)


(へえ、神の世界もいろいろあるんですね。しかし変装って何に変装するので。)


(もちろん一般人に変装よ。ただ状況によっては、犬や猫に変装することもあったわ。)


(バレたりしないのですか?)


(もちろんバレないわ、溶け込むように変装するわけだから。)


 今頃わかった、神の世界の事実の一端。じゃメムがこの異世界で、猫になったのは…


(ちょっと、また考えにふけってるのね。)


 念話術を無視して、いろいろ考えながら寮の部屋に戻った。



「転生事故について一つ考えていたことがあるのですが。」


 食事や風呂を終えた夜の組合本部の部屋で、メムに考えを披露する。


「え、なになに。何かさっきからずっと考えていたけど、何か思いついたの?」


「現状視察とやらで変装するとさっき言ってましたよね。状況によっては犬や猫に変装すると。」


「ええ、でも犬や猫に変装するのは、かなりレアケースよ。ほとんどが現状の人間になって視察におもむくのよ。」


「変装は、あの転生装置みたいなものを使うのですか。それとも別の方法で。」


「うーん、なんて言うか、視察直前に変装装置を使うのだけど、自分で操作はできないわよ。変装装置担当の神が操作するのよ。」


「神の世界とやらで使う装置類は、全部同じオペレーションシステムなのですか。」


「オペレーションシステム?」


「俺のいた世界でいうところのパソコンを動かすための基本ソフトみたいなものです。」


「…それはよくわからないの。装置の仕組みは私も主神に詳しく教わったわけじゃないから。使い方よ、教わったのは。」


「ふーん。メム様、俺が考えたのは、あの転生装置がおかしくなっただけでなく、他の装置、変装装置がおかしくなって、誤作動を起こしたりしたのではということです。そのためにメム様がおかしな猫になって、俺が17歳になってしまったのではと思ったのです。」


「え、おかしな猫って。」


「いや、喰いつくところがおかしいですが。それにもう一つ危惧することがあるのですが。」


「何、恐ろしいことじゃないでしょうね。」


「近くにもう一人女神がいましたよね、ラメド様でしたっけ。あの方も巻き込まれてしまったのではないでしょうか。」


「いいわよ、あんなの。」


「メム様、非情ですね。」


 俺は、この元女神猫をジト目で睨む。


「だって、もしそうだとしても、この異世界にいるかどうか分からないわよ。ダンの考えというか推測は理解したけど、今から探すわけにもいかないでしょ。あなたに転送事故前の記憶はあれどラメドには会ってないからどんな風体かわからないし。この異世界以外の別世界にいるかもしれないし、運良く神の世界に残っているかもしれないでしょうからね。」


「へえ、メム様、ラメド様と仲良いのですね。」


「はあああああ、ボケたこと言うとその鼻先噛み付くわよ、マジで。」


 メムの口調がものすごく荒くなり、尻尾が逆立ち、金銀のオッドアイがギラリと光る。ラムド様とツンデレか、マジに仲悪いのか、どっちにしても虎の尾を踏んだようだ。


「まあ、転生事故の原因についての考えですから。また思ったことがあれば、質問してもいいですか。原因がわかれば、戻れる可能性は出てくるわけですから。」


「そうね、誤作動の可能性については、いい線いってるかもね。」


 しかし神の世界の人間(?)関係は、俺のいた会社の人間関係のように、ややこしくできているのかなあ。



 朝起きると、洗顔、朝食をとり、身支度をし、街中をジョギング、自加重による筋トレ、いわゆる腕立て伏せ、腹筋、スクワットをし、水浴びをする。依頼の実施予定のない休みの日の日課になりつつある。


「しかし、よくやるわね。」


 メムが半ば感心して、半ば呆れ気味に言う。


「いや、体動かしておくとよく寝れますし、鍛えておけば、今後の依頼の実施などに役に立つでしょうから。」


「まあ、いいわ。しかしこの異世界にきてから、休みの日にはトレーニングに文献漁りなどなど、元の世界に戻るのも大変だわ。」


「メム様もよく付き合いますね。部屋で寝ててもいいのに。」


「いや、あ、あなたが死亡なんて日には、私だけじゃ戻ることなんて難しいじゃないの。この体だし。」


「まあ、付き合ってくれてありがとうございます。メム様。」


「そ、そんな礼を言われることでもないわよ。さあ、終わったならさっさと戻って元の世界へ戻る手がかりを探さないと。」


 メムはちょっと早口で俺をせき立てる。静かな朝だ。今日も朝の街は静かに日常を奏で始める。行き交う人々もこれから増えていくのだろう。

 メムとのコミュニケーションも慣れてきて、人のいるところでは念話術で、そうでないところは普通に猫と会話している。猫との会話の現場なんて、人から見たら俺はペット溺愛者に見えるだろうし、とは思っているが。たまに行き交う人と歩く会釈を交わしながら組合本部付き寮の部屋へ戻っていく。


 部屋に戻ると、部屋の前に担当のセイクさんがいた。


「何かありましたか?」


 俺は何ごとかと思いながら尋ねてみる。


「緊急の依頼の手伝いなのですが、いかがですか。」


「緊急の依頼ですか。」


「ええ、護衛の手伝いです。」


「じゃあ受付で話してもよろしいですか?身支度を整えてからそちらに行きます。」


「わかりました。」


 ということで、水を浴び、トレーニング後の汗と埃を落として組合本部受付へ向かう。


「緊急の依頼で護衛の手伝いですか。」


「ええ、商店の運送を護衛するのですが、護衛するメンバーが急用で一人足りなくなってしまったのです。そこで急なんですけど依頼が来まして、ニシキ様に頼むことになりました。」


「急用というのは?」


「出産です。奥様が産気づきまして。」


 なるほどそれは大変だ。この異世界だと救急車はないし、産婦人科医院とかあるのか。


「こいつと一緒で大丈夫ですか。」


「メムさんですね。大丈夫ですよ。」


 この元女神猫は、ぼっちが嫌みたいで、1匹にしてほっとくとすぐ寂しがり拗ねてしまう。他の飼い猫やらと触れ合いはないのかと思い聞いてみたら、他の動物はなんか遠巻きにしてメムを見てるだけらしい。元女神としての気品がそうさせるのか、人語を発するからそうさせるのかは定かではないが。


「一応確認しますが、俺の能力とランク的に問題はないのですか。」


「ええ、問題はないと思います。護衛の数はニシキ様含めて8名で、このイーチノシティの街からニーノショートの街への運送の護衛です。リッチーナ商事が商品と運転資金を送るのでその片道の護衛です。」


「片道だけですか。帰りはそのままこっちに戻って報告するのですか。」


「いえ、依頼完了は向こうの組合本部の商業ギルドに報告することになります。もし、続けて依頼を受けるのは差し支えありませんが、その場合はこの書類をあちらに渡してください。」


「わかりました。とりあえずこの依頼やってみます。」


「商品と資金を無事に送り届ければ完了ですので、賊が出てきた場合は無理に退治しなくても大丈夫です。」


 なるほどね。まあ、臨時の護衛役ということか。

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