41弾 これでいけたら良いでしょう
「これをもらっても、一体何に使うつもりなのかしら。もしかして、前世にあったあぶらとり紙とかにして再利用するつもりかしら。」
組合本部の部屋に戻ると、メムがものすごく不思議そうに俺に尋ねる。
「メム様、あぶらとり紙をご存知でしたので。女神はそのような美容製品、不必要だと思ってましたが。」
ちなみに、あぶらとり紙は元々金箔を作る際に使用する紙の再利用品といわれている。良いあぶらとり紙は、前世でもそれなりのお値段がするが、化粧をしていても皮脂を取ってくれるので、結構使う女性が多かった。
「まあ、現世の視察の際、ダンの居た国、日本にも行って知ったのよ。結構良いわね、色々種類もあったし。」
ああそうか。地球の神達は、あちこちへ行って視察してるとは言ってたしな。
「でも、この紙はちょっとゴツいので、そういう風に顔拭きに使うと、ちょっと皮膚がヒリヒリしますね。顔に当てた時の感触も今ひとつな感じが。」
「何、こっそり試してみたのね。」
「まあ、それに目的は別ですので。」
「なるほど、紙製薬莢用の材料ね。」
さすが女神様だ。
「でも、前に実験してみたときは、魔伝紙の薬莢は綺麗に消えていたけど、これはどうかしらね。」
「まあ、俺の直感的なものですので。うまくいかなきゃ、その時は別の利用法を考えていますから。」
と言いながら、まずもらった使用済みの叩紙を大きさ別に整理し始める。
多分前回の実験から考えられるのは、あの拳銃は、魔法を発動し撃てる可能性があること、紙製薬莢の材質は、魔伝紙以外の様々な別種の紙にも可能性はあること、あと、この異世界に伝えられている魔法式や魔法陣は多分俺には合わないので、発動しないか、僅かにしか発動しないこと、それらを踏まえれば。
早速、前に実験した場所で、再度魔術の研究を行う。
前回と同じように、荷物を足元に置いて、適当な近くの木に歩いて行き、的となる古板を立てかける。
そこで、あらかじめ製作した、4発分の紙製薬莢、使用済み叩紙の円筒、使用済み叩紙円筒の中に使用済み叩紙に書き込んだ魔法式を詰めた物、魔伝紙の円筒、魔伝紙の円筒に魔伝紙に書き込んだ魔法式を詰めた物をカバンから出して、一緒に件の拳銃を出す。
拳銃の弾倉を取り出すボタンを押し、左側に弾倉を振り出すと、紙製薬莢を詰める。詰め終わると弾倉を元に戻し、立てかけた古板を的にし、両手で拳銃のクリップを握り、ハンマーに右親指をかけて引く。深呼吸して、引き金を引く。
1発目、
ドシュッ
音がして、銃口から薄赤い煙のようなものが上がり、火球が野球投手のストレートのように真っ直ぐ飛んで、的に当たる。
2発目、
ドシュッツ
1発目より良い音がして、火球が1発目と同様に、かつ1発目よりも高速で的に当たる。
3発目、
ドッ
1・2発目より音が抑えられてるが、前の2発よりも高速で的に当たり、的が黒く焦げる。
4発目、
ドッ
3発目より音が抑えられ、今までの中で最速で的に当たり、黒く焦げながら的が跳ね飛ぶ。
「えっ、何を、何をしたのかしら。」
メムが予想外だと言わんばかりに、驚きと疑問の入り混じった声を上げる。
「ふうっ、今度はうまく行ったか。」
メムの声を無視して、俺は大きく息をつき、弾倉を振り出し中を確認する。詰めた紙製薬莢は綺麗に消えていた。
実地研究を終わらせて、組合本部の部屋に戻り、拳銃や、装備を再チェックする。合わせて掃除もする。
「とりあえず、魔法が発動したのね。おめでとう、ダン。さあ今夜は宴会ね、ガッツリ食うわよ。」
メムが妙な怪気炎をあげている。
「まだまだ、ですね。今回はこの材料とこの魔法式でうまく行った。と言ったところです。」
まあうまく行ったのだが、新たな課題ができたのだ。
「え、宴会もガッツリもなしなの?宴会として、全種類のメニューを注文して、私がガッツリ平らげてあげるから。」
「メム様、いつもガッツリ食っているじゃないですか。というか、1人と1匹で何をどう宴会とするのですか。」
「うっ、それを言われると………でも、魔法が発動したのはなぜ、前の時から何が変わったの。」
「魔法式を変えてみたのですよ。前世で俺が使っていた言語で書いてみたのです。」
そう言って、メモ帳に書いたものをメムに見せる。そこには
【火球】と書いている。
「え、まさか、漢字を書いたの………」
半ば呆れ、半ば驚きと言った様子でメムが呟く。
「どうせ、俺たちは、この異世界にとっては、全くの異物であり、外の物ですから。あえて自分の、過去の言語で魔法式書いちゃえって、そう思って書いてみたのです。まあ、こうもうまく行くとは思いませんでしたが。」
「確かに、漢字には象形文字的な流れで成立した部分はあったけど…」
「ただ、速度と威力はまだ思ったほどじゃないですが。」
とりあえず素材と、作り方は、まあなんとかなったが、今のままでは、まだ実戦で使えるレベルじゃないのである。
今回の研究で発動したのは、火球という一番低レベルで、超初心者向けの魔法であったが、飛来速度が遅い。感覚的にだが、最速でも、時速120キロから130キロくらいの速度、最初の2発は、時速50キロから90キロくらいの速度。
「これじゃなく、威力全体をどう上げるかだな。今のままじゃ打ちごろのストレートだ。」
俺は独り言を呟いた。
「パーティの臨時雇い、パーティの助っ人をお願いしたいのですが。」
初の魔術が発動した翌々日、受付に行くと、セイクさんにこう言われた。
「えっと、俺みたいな低ランカーで大丈夫なんですか?、工事現場の手伝いとかは。」
「工事につきましては、現在、警備隊主導で行なっていまして、今はまだ手伝いの必要がないようです。実は、今回の依頼、かつて活動していたパーティが、再結成、再活動することになり、その助っ人として依頼がありまして。」
「ふーん、でも再結成、再活動と言いますが、そんなうまくできるものですか。そもそも活動停止していたということですよね。」
「ええ、出産・育児等により、パーティメンバーが一部が活動休止することや、パーティが一時活動停止したりすることは、よくあります。ニシキ様には、活動再開するパーティのサポートをお願いしたいのです。」
「わかりました。こういう依頼が初めてなので、少し確認したかったのです。で期間はどのくらいですか?」
「パーティ側も慣らしでの調整するため、周辺探索を考えています。2日ほどになります。」
なるほど、短期間なのか。もしかして、
「パーティの臨時メンバーとしての依頼も俺宛に今後、増えてくるのでしょうか?」
「ええ、その可能性もありますので。」
「わかりました。この依頼受けてみましょう。」
「依頼完了後、3万クレジットが支払われることになります。今回ボーナスはありませんので、ご承知おきください。」
ということで、セイクさんに連れられて、パーティのいる所へ。
「お待たせしました。こちらが組合本部付きの臨時メンバーになります。」
セイクさんがそう言って、書類をパーティリーダーらしき男に渡す。
「ふーん、グランドキャット連れか、珍しいタイプの冒険者だな。」
その男は、しっかり俺たちを値踏みするように眺める。
「ちょっと、挨拶と紹介がまだですよ。」
落ち着いた女性の声、
「ごめんなさいね、再活動にちょっとテンションが上がっているの。」
やや甲高い舌足らずな喋り方の女性の声、
「再活動の初めからテンション上がるのは良いが、落ち着こう。」
少年のような男性の声、
「皆様、お初にお目にかかります。俺は、姓はニシキ、名をダンと申します。こちらに連れているのは、相棒の、グランドキャットのメムです。短い期間ですが、臨時メンバーとしてよろしくお願いいたします。」
そう挨拶して、深々と一礼する。先に挨拶しておけば、一旦落ち着くだろう。
「丁寧な挨拶、痛み入る。このパーティのリーダー、姓はイハートヨ、名はダノーツだ。よろしく頼む。」
最初に俺たちを眺めていたリーダー格の男が挨拶を返す。茶髪の口髭を蓄えた重鎧を着た筋骨隆々な男だ。もしかして、脳筋系か。
「じゃあ、俺だな。姓はニザール、名はノーンツ。よろしく頼むわ。」
金髪のロン毛な兄ちゃんという感じだが、気さくそうにも見える。軽鎧をつけて身軽そうにしている。
「次は私ね。姓はタータル、名はズースキティですわ。よろしくお願いね。後方作業が主任務だから、私の手伝いをすることが多いと思うけど。」
軽鎧と重鎧の中間みたいな鎧をつけた女性、なるほど後方作業か。
「最後は、あたしね。姓はベランツ、名はダイアーナム。魔術中心の担当だから、誤爆に巻き込まれないよう気をつけてね。」
もろに魔法使いという格好をした女性。
「では、このメンバーで再活動を行う。」
リーダーのイハートヨさんがそう言って、両拳を叩き合わせる。いやー、気合い入ってるなー。
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