6弾 現状を把握しよう
組合本部のドアを開けると、意外と静かであった。
「ごめん下さい、本人登録に参りました。」
受付らしきお姉さんに告げると、
「わかりました。こちらへどうぞ。」
と言って、コピー機のような機械のところへ案内された。
「このグランドキャットも一緒に入って大丈夫かな。」
「ええ、大丈夫ですよ。」
と言いながら上の蓋を開き、申込用紙のような厚紙をその機械の中段に差し入れると
「この上の部分に手を当ててください。」
「こうですか?」
コピー機の原稿読み取り部分のようなそれは、よく見ると、分厚いガラスのような透明な立方体だった。
右手を当てていると、その立方体の中で光が柔らかに輝きだすと赤・青・黄・緑と光の色を変えながらシューと音を立てて静かになり、カードみたいなものが出てきた。
そのカードを、受付のお姉さんが手に取り何かを確認すると
「なかなかの能力をお持ちですね。筋力・知力は標準より高く、敏捷は最高級の値です。また魅力も標準より高い目です。魔法適性が全属性可、これはすごいです。ただ…このジョブはなんでしょうかね。」
と言いながらカードを渡してくれた。
「このペンで氏名の記入をしていただければ本人登録は完了です。」
と言うので、記入をする。
「はい、ニシキ・ダン様ですね。では本人登録完了しましたので、ご確認ください。なお再発行には、別途料金がかかります。」
と言われたので、本人登録証の内容を読んでみる。
氏名:ニシキ・ダン 17歳 レベル2
ジョブ:魔弾道士
能力値
筋力:83
知力:87
敏捷:98
魅力:77
魔法属性:火 水 風 土 光 闇
特技能力:??? ???
個人特殊能力:タイムマネジメント
「え………うーん、まさか、まさかね。すうーっ、はーっ、17歳か、能力値ってこんなもので、特技能力は不明ということか。」
俺は、本人登録証に示された、17歳、という数値に動揺してしまう。
「能力値が低いから低ランクの依頼しかできないというものでありません。能力値や特能によってできることも変化します。」
「特能、ああこの特技能力と書かれているですね。」
確認をする。個人特殊能力って個性のことか?
「個人特殊能力とは?」
「本人のみが持っている特技能力です。ちなみに他の方が個人特殊能力をこのカードから見ることはできないようになっています。」
おお、さすが異世界。なんか本人登録証という名前の割に、すごい仕様になっている。
「では次に冒険者ギルドと商業ギルドについて説明しますがよろしいでしょうか。急がなければ、明日の朝でも構いません。」
「明日でもよろしいのですか?ここに来るまで色々あって疲れているもので。」
「わかりました。朝の依頼の振り分け後でしたら大丈夫です。」
「あと、近くに宿屋みたいなものはないでしょうか。」
「こちらを紹介します。」
夕刻までまだ時間はあるが、紹介された宿屋に着くと食事付き5日間の宿泊予定で泊めてくれると言うことで、ワゴンから手に入れた黄金貨50枚、5万クレジットを前金で払って部屋に入った。
入った途端にメムが口を開く。
「ふう、色々ありすぎて困ったわね。」
「まさか、この異世界で17歳になっているとは…」
俺の動きがいいのは、それが原因か。そういえば腹回りも少し落ちた気がするのだが。
「取り急ぎ、私は元の世界に戻りたいわ。この状態も格好も全て無かったことにして。」
「それはごもっともなんですが、色々情報を押さえないと難しいでしょう。現状も把握しなければなりませんし。」
「そうね、今私がわかっている事は、黒猫、この異世界でいうグランドキャット、とやらになってしまったということね。」
「俺のわかっている事は、転生にトラブルがあったという事ですね。そして50歳で死んだこの俺の記憶が残ったまま、転生先のこの異世界で17歳になっているという事です。次にこの異世界の言語が自動的に理解できる様になっているということです。一体なんでこうなったのか。」
小学生の体になった中身が高校生とやらなら、どこぞの漫画にあったが。高校生の体になった中身アラフィフのおっさんなんて、なんだか悲惨で滑稽である。というか、何かいいことはあるのか、この体と頭で。
「まあ、まず状況把握のために、そのカバンの中身を確認しましょう。」
強引に話の流れを変えるかのように、メムが先を促す。
カバンから中身を出してみる。
黄金貨 900枚 (90万クレジット)
灰銀貨 1000枚 (10万クレジット)
ポーションらしきもの 瓶5本
食料らしきもの 2袋
革水筒 2つ
大きめの木箱 1つ
貨幣、ポーション、糧食はワゴンから入手したものとすれば、この木箱の中身は何かと思いつつ、カバンを確認してみる。
「そういえば、メム様、最初会った時にこのカバンを背負ってましたが、これはどんな状況で手に入れたのですか?」
「トラブルが起きて光に包まれて意識なくして、気がついたときに私のすぐ目の前にあったのよ。直感的に持って行こうと思ったのよ。でも驚いたわ、最初は思うように体が動かなくて、カバンを持てなかったのだから。」
まさか女神様も猫の体になっているとは思わないからな…同情はする。
「他に変わった事はなかったですか。」
「結構パニクってたから、あまり覚えていないの。」
としょんぼりする。
「わかりました。この木箱を開けてみましょう。」
木箱の蓋を開けると中には、リボルバー式の拳銃が入っていた。銃把は黒茶色の何かの木でできているような手触り、銃身など
右手で拳銃を握って、左手を右手の下に添えて射撃の構えをとってみる。一瞬、手のひらにちくりと痛みが走ると同時に銃身が赤く光り、すぐ元に戻った。拳銃をじっくり眺めてみたが、品名とか、品番とか製造会社名などが何も刻まれていなかった。
「これは、アレね。私が昔見た映画に出てくる銃ね。映画のセリフで『世界最強の拳銃だ。お前の頭なんか綺麗に吹っ飛ぶ。』とか言ってたヤツじゃない。」
メムがテンション高めな感じで話しだす。
「いい武器を手に入れたのよ。この異世界で、この武器をガンガン撃ちまくって元の世界に戻るってことよ。」
「うーん………、この拳銃には問題が。」
俺は、構えを解き、拳銃をテーブルに置き、拳銃とベルトの入っていた箱とカバンの中身を再度確認しながら、現実を告げる。
「一番大きな問題は、この拳銃用の弾が無い。この木箱にもカバンの中にも。つまり、拳銃だけでは何にもできない。整備道具も必要だし…。弾丸とか空薬莢とかは見かけませんでしたか?。あと神様も映画をどこで見るのですか?」
「これでも地球の女神よ、現世の情報収集をすることもあるの。それなりに文化的なものも含めて、ちゃんと知識はあるわよ。ああ、それと意識が戻ってから私が見つけたのは、そのカバンだけだったわ。」
まあ、噺家と雑談できるなりの知識やらはあるのだから、他の知識も豊富そうだと思うけど。
「ふーむ、こういう場合は、もしかしてだけど………じゃあ、あなたこの銃を掲げて、『変身』と叫んでみたら。何か起きるかもしれないわ。そんな感じで変身する映画もあったし、この銃もそういう道具じゃない。」
とんでもない提案をしてきた。えらい無茶振りだ。そもそもそんな映画あったっけ?
まあ、背に腹はかえられないか……………
俺は銃を持ち
「へ・ん・し・ん」
と力強く言ってみた後、左脇を閉め、左拳を左腰に当て、拳銃を持った右手をメムの言う通り掲げてみた。
…
…
…
静かな空気が流れるだけで、何も起きなかった。
傍でメムがクスクス笑っている。
「変身のポーズがおかしいのじゃない。」
なんという無茶振り、無責任、無計画な三無発言。
この後、メムに言われるがままに、ポーズをあれこれと変えつつ変身できるかどうか、10回ほども試したが何も起きなかった。
なんかものすごく恥ずかしい…
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