7弾 この異世界でまず一息つこう
「この拳銃の使い方は、おいおい調べていくしかないでしょうね。」
ぐったりした口調で俺がメムに告げる。
「そっかー、弾がないと使えないと言うことね…、変身しなかったし。」
「ということになると、元の世界に戻る方法を調べることになります。最初にこの異世界がどう言う形なのか、そのためには、明日組合本部でギルドについての説明を受けながら、この異世界の概況の情報を得ていくことになると思います。次に、なぜ我々がこの異世界にきてしまったのか、これを調べるには時間と費用がかかるでしょう。そのためには、この異世界でお金を稼ぐ方法を見つけていくことになります。まず稼いで、この世界で必要な装備などを買い揃えたりすることです。あわよくば、この拳銃用の弾も見つかればいいのですが。」
まるで、会社員時代の上司への説明だな。
「わかったわ、それで私はどうすればいいの。」
「ゆっくりでいいので、転生の際のトラブルで何か変わったことがなかったか思い出して下さい。」
「落ち着いてからということね。猫になってしまった私も、何ができるか考えてみるわ。」
「結構です。了解いただきありがとうございます、メム様」
「それよりそろそろ食事にしない。腹が減っては戦はできぬじゃないけど。」
「そうですね。食堂に行きましょう。しかし地球では、猫は食べられるものにいろいろ制限があったはずですよ。」
「私の鼻ならかなり効くから、それで判断するわ。」
宿屋の食堂で定食を注文した。
そして、この元女神猫は、とんでもない大食いであることが判明した。
「とんでもない食いっぷりだ…、まるで相撲取りの食事だ…」
財政的に厳しい。元の世界に戻る前に金欠で終わりそうだ。
「え、これでも腹八分よ。」
当然といった様子でこの元女神猫はケロリとしている。
「あれで腹八分、俺の10倍は平らげているぞ。」
あまりの驚きに言葉遣いが少し乱れる。
「しかしまあ、この異世界の飯もなかなかね。グルメツアーでもしたいわ。」
「マジで勘弁して下さい…」
しかし周りも気を遣ってくれていたのか、大騒ぎにはならなかった。
でも
「あのグランドキャットすげえ、飼い主は大丈夫か。」
「いっぱい食べる君が好きってか。」
などのささやきと注目を浴びてしまった。
猫になってしまった元女神ができたこと、まず大食いの能力発揮…
すぐ後で宿屋側と話し合い、ヤツには残飯を再調理したもので対応してもらうことにした。でないと宿屋側も赤字になると泣いていたし、こちらも追加料金を支払う羽目になるのは嫌だったので。
「ふー、人心地がついたわ。」
「そうですか、それはよかったです。メム様。」
食事も風呂も終えて、夜を迎えた。
「猫はあまり水浴びしないと言いますが、まさか積極的に風呂に行くとは。風呂付きの部屋でよかったです。」
「そうね、ところで、私、どっからどう見ても猫よね。」
部屋に付いた鏡を見ながら、メムが伸びをする。
「オッドアイかつヤマネコのように大きな黒猫です。俺の場合は、見た目そんなに変わらないのに17歳になっていることが驚きですが。」
「そう、それよ。なぜ私は猫になってしまって、あなたはそうなの?まあ、私が見たところあなた白髪が減って、顔のシミが落ちて、なんだか死亡直後より若く見えるのよね。不公平よ。」
「それが分かれば苦労しませんよ。ただ、仮説として考えられるのは、俺は赤ん坊になるといういわゆる転生する流れがあった。けどトラブルが発生して、中途半端に何かが狂い17歳となった。メム様の場合は、別室で転生装置とやらを調整していた、けどトラブルが発生して何かが狂いなぜか、猫になった。」
「このトラブルをはっきりさせないと、と言うことね。」
「そもそもあの時何が起きていたのですか?」
「…装置が起動しなくなった。今まで担当した者達は、トラブル無くあの装置で転生させていたのよ。」
「俺が聞いてもどうかと思いますが、その装置って、特殊な力か何かで動いているのですか?」
「まあ、あなたには伝えても分からないと思うけど、ククーロン力、ニュートリオン力、ススプリチュアル力、シェーンズロック力、ゴッドガデス力、そういう力を色々取り込んでミックスさせて活性化させているのよ。そして、それは、制御装置で管理されているわ。私たち神の世界の装置は、いろんな力と男神や女神の力、それと、死んでしまってこの神の世界に来た人間の知識も活用しているのよ。神の世界は常にアップデートを繰り返しているのよ。」
うーん、聞いたことない力だ。物理学者の方々がそれらを見つければ、ノーベル賞ものか。
「えっと、………それらの力をコントロールして制御して、死んだ人間の知識も活用して、今のシステムや制御装置や転送装置を作り、動かしていた、ということですね。」
「まあ、だいだいあってるけど………。」
「起動しなくなった原因に心当たりは?」
「それがよくわからないのよ。このタイミングでというか、急にというか。とりあえず近くにいたあの女神に手助けを頼んでみたのだけど。」
「確かラメド様でしたっけ?」
「なぜその名を?」
「あの時、揉めてる感じで声が聞こえていましたので、こっちに声をかけた時から、そのままそちらの様子がほぼ丸聞こえでしたので。」
最後は罵り合い、俺をおっぽり出しての乱闘になってたことは、女神の名誉のためにも言わないでおこう。
「やっぱりパニクってたようなのね…念話術を繋いだままにしてたのね。」
「何度も言いますが、メム様、この異世界から元に戻るためには原因がわかるようにしないとダメでしょうし、この異世界で手がかりなどを探しつつ生活していくしかないでしょう。というかそれしかないです。」
「そうね、この状況を受け入れるしかないのね。」
力強くメムが頷く。
「あと、ダン、あなたと少し試したいことがあるのだけど。」
「なんですか。」
「口を開かずに会話できるかもしれない。女神の力で『念話術』と言うのがあるから受けてみてくれるかしら。」
「繋いだままにしていた、と言っていた念話術ですね。」
「そうよ、神の世界で使っていたものだけど。」
「今さっき話に出てきた念話術……おお、なるほど、(テストテスト)(私は大いなる女神)ですか。」
「どうやらこれを受けられるようね。そちらからもできるかもしれないわ。何か(俺にもできるのか?)(大いなる女神か…はあ………)ええ、大丈夫なようね。でも大いなる女神か…って念話術でため息つかないで。」
なるほどこれなら、
「当分の間は、人目があってもこの念話術でなんとかできますね。じゃあこの異世界でいうところのグランドキャットでいて下さい。メム様。」
「わかったわ、ダン。」
「では、もう寝ましょう。明日もありますし。」
翌朝、眠い目をこすりつつ朝食をとり、組合本部へと。例の銃はベルトのホルスターにしまい腰に巻きつけてみると、うまく収まった。しかし、部屋着上下にガンベルトをつけると絵面がやばいことに。
「朝食は少食ですね、メム様。」
「まあ、昨夜はやけ食いの面もあったかしら。自制はするわよ。一応。」
「しかし寝る方法は考えなければなりませんね…」
昨夜、同じベットで寝てみたが結局あの元女神猫の寝相が悪く、結局夜中にベットから蹴り出されたのだ。おかげで夜明けまで長椅子に座って眠ることになった。
組合本部に着くと、昨日初めてきた時と違い、依頼の掲示板に人が集まり、受付も忙しくやり取りをしながら動いている。
しばらくすると、一通り依頼の受理や遂行先が決まってきたのか、次々に人々が本部から出て行って、一旦落ち着きを取り戻した様だった。
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