5弾 この獣たちとお話ししよう

「それはものすごくストイックで、立派だが、自分もついさっきここに来たばかりなもので。色々とわからないことばかりだ。近くの街や村を目指している。」


「フム。ソレナラ…」

 

 とそこに、


「オ頭、敵襲ノ模様。敵襲ノ模様」


 と1匹のファイティングエイプが駆け込んできた。


「敵襲ダトナ。」


「ハイ、バーバリーエイプ8匹、オヨビ、オオキナ、グランドキャットガ入リ乱レツツ、コチラニ向カッテイマス。」


 その時、群れの一角が崩れ、黄茶色のオランウータンのような類人猿達と黒い猫が乱闘しながら現れた。


「バーバリーエイプハ排除セヨ、グランドキャットハ、コチラニ害ナスナラ、排除セヨ。優先スルノハ、バーバリーエイプ。」


 この群れの長であるチャンプが素早く指示を出す。

 バーバリーエイプと言われる類人猿達は、ファイティングエイプ達を見て、大声で吠えたものの、群れを見渡し、不利であることを悟ったか、撤退を始める。


「スマナイ、コチラノ手合ワセニ、付キ合ワセテモラッタ、礼ヲシタイノダガ、バーバリーエイプ、コレノ対応ヲセネバナラヌ。トリアエズ、礼トシテ、コレヲ、受ケ取ッテクダサレ。」


 と言って、模様の入った木札らしきものを渡す。


「我々ノ客人デアルコトヲ、示スモノダ。マタイツカ、別ノ時ニ、手合ワセ願イタイ。ニシキ殿。」


 そう言うと、バーバリーエイプの撤退した方向へ群れと共に移動を始めた。


 後には、俺とグランドキャットやら1匹。

 どうもこの異世界に来てしまってから、目まぐるしくイベントが起きている気がする。

 あの類人猿たちのことも説明なしだし、そう思いながら、残った黒猫とまじまじ、見つめ合う。

 しかしこの猫、異様にでかい。飼い猫の風体だが、まるでオオヤマネコくらいの大きさで毛色が黒であることもあって、ぱっと見は黒豹みたいだ。全身墨のように黒い毛で覆われているが、光を受けて毛が輝くし、眼はダイヤモンドのような輝きと、金と銀の虹彩を持ついわゆるオッドアイ。スタイルや毛並みは猫としては十分美しい。猫のビューティーコンテストがあれば、ダントツで優勝しそうな。ただなぜか肩掛け式のカバンを背負っていた。



 しばらく見つめ合っていたが、さてこの猫−いやこの異世界ではグランドキャットと言うんだっけ−をどうしょうと思ったところで、


「あなた、もしかして人間ね。」


 驚いたことに、いきなり猫が言葉を発したのである。

 しかし、人間という言葉を使う上に、なんか聞き覚えのある声…


「ねえ、なんとか言ってよ。私の言葉理解できるわよね。」


 猫と会話なんてまさか夢か、いやこれは夢だ、夢じゃ、夢である、いや違う現実か、頬を自分でつねってみると、痛い。しかし、頭が混乱する中で発した一言が、


「猫さん、こんばんわ。」


「はああ、ちょっとなんなの。もうちょっとマシなこと言いなさいよ。」


「あのー、おたくさんは何処のどなたでございますでしょうか?」


「神です。女神です。」


 と力強く胸を張って猫が答える。


「えっと、招き猫の神様で?」


「違うわよ、地球という世界からなんか事故かトラブルで猫になってしまい、気味の悪い凶暴な類人猿たちに追われる羽目になった、多分異世界にきてしまった可哀想な女神よ。」


「もしかして………2級女神のメム様で…」


「え、なんでわかったの?」


「声に聞き覚えがあったので。」


「ということは、あなたは転送の際にいた西木 弾さんね。思い出したわ。声に聞き覚えがあったわけよね。」


「ええっと、まあなんと言うか、なんという変わり果てたお姿に。」


 と言って思わず手と手を合わせて合掌してしまうと


「何なの、そのリアクション。」


 と言って元女神、今は猫のメム様は頭突きをかましてきた。



「ところでその背負っているものは?」


 額をさすりながら、メムに尋ねてみる。


「ああ、これね。とりあえずあなたが持ってたほうが良いと思うわ。」


 そう言ってきたので、カバンを肩にかけてみる。意外と軽く体にすぐに馴染んだ。何かの皮でできているようだ。


「メム様、とりあえずは、何処か街を見つけたほうが良いでしょう。そこで宿屋でも探して今の状況と、今後について話し合いを。」


「それに関しては、全く同じ意見よ。まずこの近くに古びたワゴンがあったからそこに寄ってくれる?」


「わかりました。」


 類人猿たちと遭遇し、手合わせしたところから少し離れた森の中にそのワゴンはあった。

 ワゴンの中を捜索していると、金貨銀貨の入った袋、干し肉らしきもの、水の入った袋及び青色の瓶を発見した。全部持っていくことにする。無事に肩にかけたカバンに収まった。このカバン、案外と収納力がある。


「街の方向はこっちのほうだと思うわ。そういう香りが漂ってきているから。」


「よし、行きましょう。」


 森を抜けて、メムを先頭に進んでいくと、道が見つかり、日が高くなったきた頃に街のような城壁が見えてきた。それを目指し黙々と歩みを続ける。

 城門に近付いてきてみると門番がいるのでこう告げてみた。


「田舎から来たばかりの者で、この世界はまだ右も左もわかりません。冒険者を目指そうとしているのですがこの街の中心に行きたいのです。」


「そうですか、ではこの水晶に手を当ててください。あと、本人証、本人登録証はお持ちですか?……はい、大丈夫ですね。犯罪歴はありませんね。」


「えーと、本人登録証は持っていませんが大丈夫でしょうか?」


「では、5万クレジットをお支払いください。この街での事務手数料と税金です。」


黄金貨(おうきんか) だと1枚:1000クレジット 

灰銀貨(はいぎんか) だと1枚: 100クレジット

赤銅貨(しゃくどうか)だと1枚:  10クレジット 

二穴貨(にけつか)  だと1枚:   1クレジット 


になると教えてもらいながら、黄金貨50枚を支払う。


「はい、確かに受け取りました。どうぞ通ってください。」


ふう、何かトラブルになるかと思ったがそうでもなかったようだ。


「では、このまま、街の中心にある組合本部へ行ってください。そこで本人登録をお願いします。」


「ありがとうございます。ちょっと一つお尋ねしたいのですが、この街はなんという名前でしたっけ。」


「この街は、イチノシティと言いますよ。」


「わかりました。重ねてありがとうございます。」


 では、街の中心にある組合本部とやらを目指すか。


「ちょっと、やるじゃない。怪しまれるのじゃないかと思ったわ。」


「お褒めに預かり恐縮ですが、まず宿に着くまで会話を控えましょう。猫と会話する人間を見てこの街で騒動に巻き込まれたら厄介事になるかもしれません。」


「なるほどね、わかったわ。組合本部とやらはこの先っぽいから先導するわ。」


「ありがとうございます。」


 幸い人の出入れがそんなに多くないのと、小声での会話が功を奏したのか、街の人々にさほどに怪しまれることなく、石造りの重厚な建物である組合本部にたどり着いた。

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