4弾 ここは一体どこだろう
俺は目を覚ました。のっそりと起き上がり、まわりを見回す。
「ここはどこだ…」
と、ありていなセリフを吐く。
思い出した。俺は横断歩道を渡っているときに信号無視で突っ込んできた車に撥ねられて死んでしまった。その後、女神様に会って、前世の記憶は消去され初期化されて、地球で赤ん坊から生まれ変わると言ってたが……。
そういえば、思い出したくはないが、メムという俺の担当女神とやらと、装置が不調の時に手助けか何かに来たラメドという女神が、一戦おっ始めて、その中で、異常事態が発生して………。
だめだ、思い出すだけで、何か理不尽なものを感じ、腹立たしくなる。俺は、頭を抱えた。
それにしても、一体どうなってしまったのか…。
服は、俺が死ぬ瞬間まで着ていた某社の部屋着上下に靴。スッポンポンで放り出されてはいないようだが、ここが地球のどこかか、それとも…。
「とりあえず、五体満足の様だな。」
と呟くと、周りを見渡す。
木々が茂った森の中と言ったところか。落ち葉がふわりとしたマットのようだ。
光が差しており暗くはない。
現状把握をしなくてはならないし、まず人家を探して街を見つける必要があると判断したものの、どの方向がいいのかよく分からない。
とりあえずヤマカンで動いてみるか…
木々の薄くなっている方向へと歩みを進めて20歩ぐらいしたところで、獣の唸り声が聞こえた。足を止めたところ、茂みから灰色のオオカミらしき動物が1匹、こちらの行手を遮るように目の前に現れた。後ろを振り返ると、退路を断つかのようにもう1匹。
しまった、挟み込まれたか
とりあえず、ボクシングのように両手を挙げて、拳を固める。
その瞬間、前方のオオカミがこちらに向けて突進して来た。と同時に後方のオオカミも動き出した。
前方のオオカミは喉笛を、後方のオオカミは足元を狙ってきている。
「野郎」
と呟き、左にステップを踏んで回避しようとした。
と、急に敵の動きがスローに見えてきた…
これなら身をかわせるか。
思いっ切り左に動きつつ、2匹のオオカミから目を離さないようにすることを意識する。
2匹の獣は、俺を一瞬見失ったようで、後方にいたオオカミは、地面にヘッドスライディングをするような動きになった。前方にいたオオカミは、飛びかかった先でバランスをとりながら着地した。
大体2mぐらいの間合いか。
しかし、集中力がものすごい上がっているのか、アドレナリンがものすごく出ているせいなのか、相手がスローに見えている。
2匹の獣は、左右に分かれ、左側のオオカミが喉笛目がけて飛びかかってきた。右側のオオカミは一呼吸遅れて、右腕めがけて飛びかかってきた。
と、またまた敵の動きがスローに見えてきた。
「これなら左のやつにカウンターが打てるか。」
と独り言を呟きながら、顎めがけて右フックを放ってみる。
見事にオオカミの顎にヒット。
あれ、右のやつにもいけるか。
フックを放った右腕でもう1匹にも肘打ちを放つ。
1匹は綺麗に空中を縦に一回転しながら、もう1匹は横に一回転しながら吹っ飛んでいった。
俺にこんな打撃力あったものかな…
無我夢中になっていたことで、思わぬ火事場のクソ力が発揮されたのだろう。
肝心の2匹の獣は、地面にぐったりとのびている。
死んではいないようだな。
取り急ぎこの場を離れることにした。
しばらく歩みを続けると、木々の切れ目に近づいてきた。もうすぐ平原に出れそうだ。
森を抜ければ、道を探して、人家を見つけないとな。
そう思いながら歩みを進めると
「急ニ声ヲカケテ申シ訳ナイ。貴殿ニ用ガアル。」
後ろから、まるでロボットが話すような抑揚のない声で呼び止められた。
振り返ると、そこには大柄なチンパンジーのような類人猿たちがいた。人と会話する類人猿とは。まさかどこぞの惑星か。まさに異世界に来たということか。敵意はなさそうだが油断はできない。
「えっと、自分でええのかな?」
頭頂部が白毛の類人猿が群れの一歩前に出てきた。
「アア、ソコノ『ヒューマー』、面白イ技ヲ使ウ。一手オ手合ワセ願エヌカ。拙者ハ、チャンプ、コノ群レの長デアル。貴殿ノ相手ヲスルノハ、ゴルド、コノ群レノ中デ拙者ニ次グ、実力者ダ。」
「姓は西木、名前は弾、西木弾(にしきだん)と申します。ところで、あなたの後ろに他の者の気配があるが、手合わせの後、俺対その集団ということですか?」
「イヤイヤ、モチロン一対一、ノミデアル。」
「ところで面白い技ってどれのことで。」
「先程、偶然目ニシタ。貴殿と『スライコヨーテ』トノ格闘戦デ使ッタ技ダ。緩急ノアル動キデ、2匹ヲ相手ニシテ見事ナ当身ダッタ。」
本人は大したことしていないつもりなんですが…
「一度貴殿ト御手合ワセ願イタイ。」
言葉を待っていたかのように、類人猿たちが一斉に周りを取り囲んでしまった。
「困ったな、一対一と言ってもルールなしか?」
「基本的ニ、打・組投ゲ・組極メデ相手ヲスレバ良イ。相手ハ、コノ者が務メル。」
と、声をかけた類人猿の背後から出てきて、俺の正面に向かい合った猿は、頭頂部だけが赤い毛色であった。
随分と強引だな…
「デハ、ハジメルガ良イ。」
と声が上がった途端に、この赤毛の類人猿は、一気に間合いを詰めるや否や大振りの右パンチを繰り出してきた。
速いし重そうだな、集中するしかないか。
そう思いながら、両脇を閉めて顎と腹部を守る意図でガードをしながら、後方に飛び避ける。その瞬間、またまた相手の動きがゆっくりに見えてくる。
いい集中力の乗り方をしているのかなあ。しかし、このパンチ喰らったらやばいだろな。よし、カウンターで対応してみるか。
相手が、右ストレートのパンチを繰り出してきた。左腕を使い受け流しつつ、左側を後方に右半身にして体を沈めつつ右肘を上げ、脇と腕を直角にする感じで、この肘を槍のように相手に突き入れる。思い切って肘をあげて体当たりをするような感じだった。
相手の腹部に、ズシリとした刺さり具合を覚えると同時に、この頭頂部の赤毛のサルは、息を詰めたように
「ウッ」
とうめくと、ゆらりと後方に後ずさりながら、両膝をついてしまった。
「ソレマデ。」
声がかかる。どうやら、決着がついたということだろう。
「見事ナ技デアッタ。相手ノ打撃ヲ受ケ流シツツ、打撃ヲ打チ込ンダワケカ。」
「感想はいいとしても、いきなりこんな野試合をやらせられたら、ものすごく困るで。」
俺が負けたらどうなっていたのかという不安を拭いつつ軽く抗議してみる。
「イヤ、スマヌコトヲシタ。最近『ヒューマー』ト、コウヤッテ、腕試シヲスル機会ガナイモノデナ。」
「失礼な言い方だけど、いきなり歩いている者捕まえて、格闘しようってそれは、相手してくれる『ヒューマー』いなくなるのじゃ。不快な言い方かもしれないですが。」
「ヨイヨイ。デハ、ダン殿ト呼ベバイイノカナ?、ソレトモニシキ殿ト?」
「どちらでも構わへん。」
「挨拶ガ遅クナッテシマッタ。我々ハ『ファイティングエイプ』ト呼バレルモノ。主ニコノ手足ヲ使ッテ敵ヲ倒ス術ノ修行ヲシナガラ、アチコチノ土地ヲ巡ッテイル。」
「俺に声をかけたのは、なぜ?」
「珍シイモノ、興味ヲソソル、技術ダト見タカラダ。我々ハ常ニ、新シイ技術ヲ取リ入レタリ、開発シナケレバナラナイ。」
どこぞの惑星か異世界のモンスターかもしれないのだが、えらいストイックではある…
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