3弾 喧嘩はやめよう

 ……何にも起きない。

 ……何にも起きない。

 

 深呼吸をして、再度じっと待つが、何にも起きない。

 

 ……何にも起きない。

 ……何にも起きない。

 

 一体何がどうなっているのか。

 とそこへ、女神様の声がする。


「メムです。西木様、すいません、装置がちょっとおかしいようです。もう少しお待ちください。ええ急に動かなくなって、ええ、いやいや。」


 誰かと会話していることと、少々装置の不調で焦り、狼狽している様子が聞こえてくる。


「何かあったのですか?」


「大丈夫です、少しお待ちください。あ、慌てないでください。」


 とても大丈夫とは思えない感じがするのだが…


「え、これじゃない。おかしいわね。ラメド様、これじゃあなくて?え、やばいのこれ、どうなってるの。」


 ラメドという女神が手助けに来たのか。しかし、まあ、本当にこっちが不安になってくる。こっちに丸聞こえなのが、尚更やばいんだけどな…


「いやー、これじゃーないの。」


「ちょっと、どこ触ってるのよ。」


「あ、ごめんなさい。」


「これではないわよ。もっとしっかりしてよ。」


「いやー、やってるわよー。」


「よく言うわよ、このぶきっちょ。」


「うるさいわーよー、このクーソー女ー神ー」


「はあ!ちょっと、ちゃんとセットしてよ。馬鹿ラメド。」


「なーにー、仕事ができる女神かなんかしれないけどー、ただのヒス女神じゃない。体も能力も貧相ななりで、仕事一筋みたいな気取り方しちゃってさあ。猫被りのドラ猫女神。」


「何よ、無駄に胸についた肉塊を男神にちらつかせて媚を売ってるだけで、色仕掛けしか能のない、淫靡いんびなバカ雌犬女神。」


「言ったわねー、このくそヒス女神。」


「ああ、言ったわよ、この色ボケ女神。」


 おいおい、これは、険悪な状態になっているのじゃないか?

 まさか女神の喧嘩に遭遇するとは。

 この後、一瞬の妙な静けさと共に、


「やるかー、このヒス女神。」


「これでも喰らえ、色ボケ女神。」


 ドスン、バタン。どすん、ばたん。


「やるわねー、ヒス女神のくせに、私の蹴りをかわすとは。まあ、これからが私の時間よ。私の妙技を味わいなさい。」


「ふん、色ボケ女神が一丁前のこと言うじゃない。こっちこそ、これから私のお仕置きターイムの始まりよ。」


 おいー、転生させる死人を忘れて、殴り合いしてるのか。というか、聞こえてますよー。丸聞こえのままですよー。

 で、俺は、一体どうしたらいいんだ。この喧嘩を止めるべきなのだけど、とりあえずどうする、でも女性の喧嘩に男性が関わると、ロクな事にならないというし、ダメだー、妙案が浮かばねー、と体を起こして考えながら焦ってしまう。

 よし、とりあえず声を上げよう。


「喧嘩をやめてー。あの二人を止めてー。」


 残念ながら、俺には、その一文しか出てこなかった。

 とその時、


「え、なんで、あれ、きゃー」


「きゃー、何が起きたの、暴走しているの?」


 との声が上がるとともに、俺の目の前には白い光が輝き出し、すぐに暗転、また輝き出す。

 それを繰り返すと同時に、俺の体がふわりと浮き上がるような感覚を覚えた。そのまま、どこかへ引き込まれていくような……


「えー、どうなってるの、きゃっ。」


「きゃー、止めて止めて」


「おいー、何をやっておるー。大馬鹿者。」


 という多分上司であろう、野太い声の男神様の怒声を最後に聞きながら、俺の意識は遠のいていき、また暗闇の中へと…

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