魔弾の乱射士 〜異世界でなんちゃってガンマンになっちゃいました〜

中 年男

初弾 交通事故に気をつけよう

 昨日金曜日に、リストラの対象であることを会社から告げられた俺は、家へ帰宅するとヤケ酒をあおった。

 その翌日二日酔いの頭で、朝、近所のコンビニへ買い物に行き、帰り道青信号になった横断歩道を渡っていると、パトカーのサイレン音と自動車の急制動の音が聞こえてきた。と、あっという間に自動車が交差点に侵入し、避ける暇もなく、その自動車はぶち当たってきて、俺は激しい衝撃を受けた。

 そのまま俺の意識は暗闇の中へと……


 ふと気づくと、俺はトンネルのような所に立っていた。見まわした先に光らしきものが見えたので、とりあえずそちらへと歩を進めた。歩を進めれば光は大きくなってきて、光の眩しさに目を瞬き、気がつくと奇妙な部屋にいた。

 トンネルを抜けると、そこは雪国ではなく、変わった部屋だった?

 ガラス張りのようなそうでないような、水族館の水槽の中にいるような、ただ暗いというか星空のような風景の部屋だった。その部屋に椅子が2脚。その一方の椅子に座っている人が。


「ふむふむ、今度来るのがこれなのね。普通の中年男ね。身長175センチ体重70キロ。中肉中背。腹に贅肉あり。」

 

 呟いているのをそっと眺める。おや、気が付いたのかこっちを見た。


「ああ、どうぞ。こちらへ進んでください。神の世界へようこそ。私は、あなた様の死後の担当をいたします2級女神のメムと申します。まずはこちらにお掛けください。」


 そう言いながら立ち上がって一礼をした、センター分けにしたショートボブの女性。どこぞの女優とかアイドルと言ってもおかしくないルックス、細身の体で仕事の出来そうなキリリとした、ものすごくいい女という感じだ。

 こちらも思わず一礼を返してしまう。


「ちょっと待って下さい。ここは神の世界ですと?」


「ええ、あなた方がいうところの神の世界です。西木 弾(にしき だん)様、あなたは残念ながら死んでしまいました。享年50歳、死因は交通事故です。」


「そんなにこやかに言われても、受け入れられないのですが。

…………まあ人を見た目で判断するのは、あまり良くないと言いますが、なるほど、よくよく見てみれば、あなたが女神様だと言われても納得はできます。しかし。」


 俺は、辺りを見渡す。


「こんな変わった風景の部屋もなかなか見ないもので。」


「この部屋は、亡くなった方々が、最初に訪れる部屋です。一種の受付みたいなものです。」


「ふーん、他にもこういう部屋があるのかな。」


「ええ、亡くなった方々は、あちこちからやって来ますので。受付は個室にして個人個人で対応できるようにしています。」


「ふむ、気に入らん奴と一緒にここに来る事はない、ということか。」


 俺一人で納得している。


「…ええと、大体の死者の方々は、ここで戸惑うか、元に戻してくれとごねたり泣き喚いたりする方が多いのですが。ずいぶん変わった反応というか、物珍しげというか、どうも落ち着きがないというか、そんなに好奇心を丸出しにされても。」


「うーん、まあ、そりゃ初めてみるものばかりやし、どうも好奇心の方が先立って。落語の『地獄八景亡者戯じごくばっけいもうじゃのたわむれ』みたいな感じかなと思うと。」


「確か、鯖に当たって食当たりで死んでしまってから始まる噺ですね。」


「へえ、この女神様は落語にもお詳しい。いや、いい方に会えた。とりあえず拝んどこ。」

 

 思わず手を合わせて合掌してしまう。

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