54弾 拾った物はなんだろう
「獣の退治依頼完了いたしました。」
退治依頼なので、採取した退治の証拠を受付で示す。
「おや、予想以上に早々と退治依頼を完了させたのですか。素晴らしいです。」
そう言いながら、セイクさんが驚きと感嘆の混じった表情で、完了の証拠を確認する。
「これで、道路の往来が安全になります。ありがとうございます。こちらは依頼完了の代金です。ご確認ください。退治した獣たちの買取料金は査定後、後で支払います。」
そう言って、代金30万クレジットを渡す。
「やはり、魔法を発動できるようになったのは、依頼完了の迅速化に、大きく貢献しているのではないですか?」
と、セイクさんが聞いてくるところに例の箱2つを出す。
「これは?」
「フレイムウォルフの退治の後、見つけたものです。中身はまだ開けていません。こちらで開封したほうがいいかと判断しました。」
「ふうん、これは、表は紙で包んでいますね。では、こちらで紙を取ってみましょう。」
上手に包まれているな、包みの継ぎ目がわかりにくくされている。
セイクさんも、慎重に紙包みを解いていく。
1つ目、2つ目の紙包みを解くと、木箱が現れた。封印されているのか、蓋らしきものはピクリと動かない。よくみると、四隅に小さな釘で止められているようだった。
釘抜きを借りて、セイクさんが両方の箱から、四隅に止められた釘を引き抜き、箱の中身を確認する。
1つ目の箱には、紙が一枚入っているだけだった。紙には何も書かれていない。
2つ目の箱には………
「何でしょう、これは?」
セイクさんが困惑した声をあげた。
中には、布で包まれたものが、それをよけると……絵画。立派な額がついていて、何か抽象画のような絵。
「何の絵でしょうかね?」
セイクさんが体全体からクエスチョンマークを出しているかのような表情で、疑問を発する。
「さあ、俺にもさっぱり。」
この異世界の芸術センスは、俺に全く分かるわけが無い。ただいえるのは、薄黒い背景に赤黒い稲妻のようなマークが描いてあること。
「とりあえず、持ち主がいるかどうかは確認しますので、しばらく預からせていただきます。」
とセイクさん。
「預かるのは了解なのですが………、箱の形態は全く同じですよね。」
俺は、箱2つをもう一度確認する。全く同じ箱であった。
結局しばらく、冒険者ギルドでの預かりになることに。
「まあ、持ち主が現れますかねえ。」
とは、セイクさんの言。
そして、3日後。
「預かっていた絵画と紙は、そちらにお渡しします。もちろん箱もです。」
他の依頼を完了させて報告に来た俺は、セイクさんにそう言われて、箱とその中身を受け取ることになった。
「ずいぶんさっさと渡すのですね。何かあったのですか。」
「いえ、絵画の方から手ががりをと思って調査したのですが、組合本部の調査班でも、ただの素人の絵画だと言う判定で、箱も何の変哲もなくて。持ち主を探すことも不可能に近いのです。」
「紙に何か特徴は?」
「ただの紙だと。フツーペーパーに近い素材とはわかったのですが。」
セイクさんが、少々疲れた表情と声で説明してくれる。
「そうですか、で俺が引き取れることになったということですね。」
「依頼実行中の発見物ですし、特に大きな価値を有してもいないと判断しましたので。ニシキ様の物となります。」
なんか、お宝を発見したと思ったら、無価値なもので、それを引きとれということか。
「まあ、わかりました。ではこちらで処分なり何なりいたします。」
そう言って、俺はこの絵画と紙を、箱に入った状態で、依頼完了の代金とともに引き取った。
寮の部屋に戻って、机に置いて、この絵画と紙を眺める。
「これは、いわゆる前衛芸術というやつですかねえ。」
絵画を眺めていたら、感想ともいえないコメントになってしまった。
「うーん、さすがにこの絵は………印象派、フォービズム、どれでも無いわね。」
「メム様、意外とキュービズムでは。」
「ダン、わかって聞いているのかしら。」
「………すみません、適当に言ってみました。」
「どちらにしても、私たちの芸術史の知識じゃ、分類も何もやりようがないわね。」
「そうですね。これが何を描いたのかも、全くわからないです。一つ言えることは、これは、油絵のように見えるということですね。」
俺はそう言って、絵画の端をそっと軽く触ってみる。ザラリとした感触が人差し指に伝わる。メムは隣の紙を眺めながら鼻をクンクンさせて、何かを嗅いでいる。
「ねえダン、この紙から何か甘い香りがするわね。果物っぽいわね。」
と言ってきたので、俺はその紙を、両手で顔の前に持ち上げて、匂いを嗅いでみる。
「ん、これは………、もしかして。」
「どうしたの、ダン。何かあったの。」
「まあ、処分する前に、ちょっと試したいことができました。」
「は?????。」
「明日、組合本部の食堂の厨房が空いてる時間にわかるかもしれません。」
翌日、朝、食事と身支度を整え、先に組合本部受付に行き、絵画と紙の調査と処分のために依頼を後日にしてもらいたい、とセイクさんにお願いした後、厨房へ。
厨房員から許可をもらい、フライパンを借りて、コンロの前に行き、紙をフライパンに広げる。
火をつけて、弱火でゆっくり炙ると………、
「やっぱり、そうだ。」
紙に図と文字が浮かんできた。頃合いを見て火を止めて、紙をそっとテーブルに置き、フライパンを洗って返す。厨房員にお礼を言って、紙は破らないようにそっと持って、寮の部屋へ戻る。
「まさか、あぶりだし。それで匂いが紙に残っていたのかしら。」
半分驚き、半分納得な感じでメムが呟く。
とりあえず、炙り出された図と文字を解読してみる。
・これをよめたかたは、こううんです。・のにうめられた、おたからがあります。・えきていのばしゃをつかいましょう。・にどどおめにはかからないから。・ただしだれもしんらいするな。・かいしょうなしではおわれない。・らくにいきたい、このくそきぼう。・ちんけなゆめでおわれない。・ずっとずっとろまんがあるのだ。
「この図は、ただの落書きですかね。でも何かの図というか。ヒントになるのか。」
図の方は、何かデザイン化された感じだ。下に縦長三角形が三つ、三角形の頂点に触れるように下が円の半円、半円の直径線に繋がる形で長方形。
もう一つは、バケツのような図に左右から角度のついた直線が上で接している。
「これは詩の一節?、でも何か違うし。ダン、このあぶりだしで出た文字と図、別紙に写しておけばいいのじゃない。」
俺もメムの意見に賛成だ。早速メモ紙を出し、文字と図を写しとる。
「でもよく、あぶりだしが分かったわね。何で分かったの?」
メムが感嘆半分、疑問半分といった感じの声で俺に聞いてくる。
「メム様が嗅いでいた時に、果物のような甘い香りがと言っていたことと、俺が匂いを嗅ぐために紙をかざした時に、かすかに文字みたいなものが見えたので。」
「でも、あぶりだしなんて、ダンはやったことがあるの?。」
「ええ、まあ。子供の頃ですけど。」
ガキだった頃、イキって好きな女の子に、レモン汁のあぶりだしで、ラブレターを書いて渡したことがある。当たり前だが、白紙の紙を渡したようなもので、周りの奴らにラブレターとはバレなかったものの、当人にも通じなかった。まあ、いい香りがするー、って言ってたな。あの時俺もあぶりだしで書いた、と言わなかったし………。
「ふーん、どうせろくな使い方しなかったのじゃないの。」
とメムが言ってきたので、内心びくりとした。
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