55弾 拾った物の謎を解こう
「うーん、何かの暗号でしょうかね。」
俺はびくりとした内心を誤魔化すように、話の転換を図る。
「この文字の羅列に意味があるとか、……でもこの異世界の暗号ってどんなのがあるのかしら?」
「前世での暗号ですら俺は詳しくないですから。」
どこぞのエージェントだ、アクション系スパイだなんて当然やったことはないし、映画か漫画か小説の世界のことでの暗号すらあまり知らない。
「でも、捨てるはずのものから、何かお宝が出てきたら最高よね。」
メムが、妙に食いつき始める。
「お宝かどうか、お子様のお宝探しごっこ、とかかもしれませんよ。」
メムがあまり入れ込まないように釘をさす。
「この絵画は捨てないでね。ダン。」
「あまり、のめり込まないでくださいね。まあ、急いで処分する絵でもないですけど。」
うーん、ちょっとメムは、のめり込みかけているのか。
そう思いながら、俺も文字と図を書き写したメモ紙を眺める。うううん?。
そういえば、全文を丸写ししていたが………これって………急いで別のメモ紙を出しもう一度この文を書き写してみるが、並び方を変えたら………
・これをよめたかたは、こううんです。
・のにうめられた、おたからがあります。
・えきていのばしゃをつかいましょう。
・にどどおめにはかからないから。
・ただしだれもしんらいするな。
・かいしょうなしではおわれない。
・らくにいきたい、このくそきぼう。
・ちんけなゆめでおわれない。
・ずっとずっとろまんがあるのだ。
「おーーーーっ、これは。」
思わず声を上げてしまった。大きな声を急に挙げたからか、メムがびっくりする。
「ちょっと、何よ何よ、急に、大きな声出して。」
「いやー、なんか解けたのかなあ、って。」
「はあ、溶けたって、何。あなたの脳みそ、それとも理性。」
いや、どっちも溶けると困るやつですが。
「この文の謎というか、暗号というか。」
「………マジなの。どうやって、どうして、なぜ。」
「単純なのかもしれません。各文の頭の文字を繋いでいくと、こう『こ、の、え、に、た、か、ら、ち、ず』、つまり、この絵画にお宝の地図があるということになります。」
「ふーん、じゃあ、この絵のどこに地図が書かれているのかしら。」
メムは、憮然として、絵に視線をやり、凝視する。
「そうですよね、こんな解きやすい暗号文ですからね。やっぱり、子供のいたずらでしょうかね。」
「いや、でも、あなた一人で解かれると、こっちも負けていられないわね。女神メムの名にかけて。」
妙な対抗心を燃やされてもな………。
「私の脳みそが光って唸る、この謎を解けと輝き叫ぶ。う……………うーん、わかりません。」
大仰なセリフを吐いたが、あっさり白旗を上げた。
「とりあえず、額縁から外してみますか。」
「そう、それよ、私もそれを言おうとしてたのよ。奇遇ですな。」
「あのー、無理に張り合う必要はないのでは、メム様。」
「いやー、私の女神としてのプライドが、ああっ。」
そう言って近くの部屋の壁に寄りかかり、右前足で悔しそうに壁をぷにぷにと叩く。
そんなに凹むくらいなら、何もしないほうがいいのじゃないか、変なプライド出されてもな、とツッコミを入れたくなったが、先に絵と額縁をバラす作業をやってみる。
とりあえず、タオルを机に敷き、その上に紙を敷き、件の絵画を裏返し、額縁を留めている留金を外すことにする。
「つっ、なかなか硬いな。」
長い期間このまま動かされなかったのか、留金は動きにくい。とはいえ、なんとか動かして、はずしていく。裏板をよけて持ち上げ、別の場所に置く。絵の部分を額縁からゆっくり外し、さらに絵と額縁の間にある枠もゆっくり外す。すると、その間に紙が2枚挟んであった。
挟んであった2枚の紙を広げて、机に置いて確認してみると、
一枚には『これ見た奴、残念』、もう一枚には『やーい、ハズレ』と書いてあった。
メムが無言でそれらの紙に、おもむろに噛みつき、引っ掻き、ゴミ箱へ叩き込んだ。メムは完全に翻弄されているようだ。まあ多分あの紙は、絵画を動かないように固定するため、隙間に入れる紙だったのだろう。
外した絵をよく見てみる。この異世界の絵画の技法はよくわからないが、何か塗りが分厚い気がする。
「メム様、これは何かの布ですか。この異世界でも似たような形で油絵らしきものを描くのですかね。」
四角い木枠に、布を引っ張り釘打ちしてそこに描かれた絵、真ん中には補強の木の棒が組まれている。
「確かに、西洋画を書く時の状態に近いわね。結構重ね塗りはしてるみたいね。」
「俺は、そんなに芸術、絵画に詳しくはないですが、地球での西洋画って、油絵は布地に描くのでしたっけ。」
「まあ、ちょっと長い説明になるけど。木枠に布を引っ張って、ピンとさせて、固定させる。端に釘を打つのよ。その後、下処理として、張った布地にニカワを塗る。さらに下地用の地塗り塗料を塗って、そして、描きたい絵を描く。乾燥したら最後に保護剤を表層に塗る。というのが大まかの流れよ。」
「へえ、そんなに手間暇かかっているのですね。画用紙に下書きして、絵の具で塗る絵画しか知らないもので。学校の授業で習ったのはこれでしたね。」
「それは、水彩画だからね。」
「でも、この異世界での絵画って、多分違いがあるのかもしれませんね。どのくらいの差か不明なことはありますが。」
「そうね、………うーん、その絵を持って、絵の具の剥離剤みたいなものを探してみたらどうかしら。」
「ふーん、そうですね。この絵の塗っているところを除けば、何か出てくるかもしれないということですね。」
紙と絵画の調査と分析と推理をしているうちに、昼食の時間になった。ということで、昼食後に街へ出て、剥離剤みたいなものを探してみることにする。
そしてそれは、街の雑貨屋で洗濯用の商品として売ってあった。早速、寮の部屋に戻り、試してみることにする。
「しかし、洗濯用の商品のラインナップに剥離剤が売っているとは思わなかった。」
そう言いながら、俺は、剥離剤の量と水の量を計り、剥離剤対水が一対一の指定された割合になるようにする。
「じゃあこれで、剥離剤を絵に塗り込んでいくのね。しかし、独特の臭いねこれ。」
メムがしかめっ面な表情をしながら、作業を見守ろうとする。そうして、剥離剤を塗り込んで絵の具を落としていくと………
「これは、地図みたいですね。」
「そうね、でも、まず、この部屋の換気をしましょう。匂いが嫌ね。」
とメムがいうので、窓を開けて換気をする。換気をして、匂いを外に出すと、部屋の匂いもかなりおさまってきたので、再度、絵の具を落としたかつての抽象画?を眺める。
「しかし、なんかイラッとさせられるわね、この文句。」
絵の具を落としたら、地図が現れたのだが、下の方に
『大当たり。でも、宝を宝にするのは、見つけられたきみ次第。』
と書いてあった。
「まあ、子供のいたずら的なものだからかも知れませんよ。この文句を書いた理由って。」
と言って、メムを落ち着かせる。
「まあいいわ、それよりこの地図、どこを示しているのかしら。」
「メム様、一旦冒険者ギルドへ持ち込みましょう。何かわかるかも知れません。」
「えー、みすみすお宝を、冒険者ギルドに渡すようなものじゃない?」
「でも、俺たちで探しきれそうにないですよ。この地図が示す場所なんて。」
「うーん、惜しいことをした、ってことになるかしら。」
「依頼がらみで出たものですから、報告で言っときゃ、向こうも悪いようにはしないでしょう。」
「まあ、そういうなら。」
「それに、明日に報告しましょう。部屋の後片付けもありますし。」
「そうね………、剥離した絵の具を拭き取ったら、結構ゴミが出たしね。」
ということで、部屋の掃除をして、絵から出た地図を、別の紙に書き写す。
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