28弾 相手の手がかり探してみよう
取り急ぎ、ローウェル隊員の所在を確認して、また警備詰所本部へ向かう。手掛かりのためにローウェル隊員と面談する。
「ニシキ殿、引き受けてくれて、誠にありがとうございます。」
「体調の方はどうでしょうか。」
「まあ前に比べると幾分か楽になって来ました。とはいえ、無理なお願いをさせてしまったようで、却って申し訳ない。」
「まあ、やれることはやってみますので。それに、今のあなたの体調では無理はさせられないでしょう。ところで、詩集の方をもう一度確認したいのですが、よろしいでしょうか。」
「ええ、持っていくわけでは無いですよね。どうぞご覧ください。」
「そんな、持って言って無くしてしまったら洒落にもならない。」
と会話しながら、詩集のあちこちを確認し、出版元やら書き付けた詩をメモしておく。
「あと、出会った日はいつでしたっけ。まあ、覚えている範囲で大丈夫ですよ。」
「フラグの相談に行って、調達関係の話を始めた日だから、確か、この話であなたと商店で2回目の打ち合わせをした日ですね。」
確かに、出会いの日って俺たちもマーハ商店に行っていたな。あと、王国会議関連の警護依頼が終わって6日後だったけ。確認を終えて去ろうとすると、
「よろしく、
ローウェル隊員が、俺の両手をおしいだきながら、頭を深々と下げてきた。
(ダン、ずいぶん期待されているのね。私もついて回ってるだけだけど、すごく楽しみだわ。)
(メム様、念話術で人の恋愛話に変なチャチャいれないで下さい。というか、女神様がそんなことでいいのですか。普通、神が恋愛成就のために一肌脱ぐとかじゃないですか。)
(いいのよ、あなたもわかっているはずよ。神にそんな恋愛成就の力はないものよ。)
なんて身もふたもない。
次に、別の手掛かりを求めて、マーハ商店へ行ってみる。あの二人について何か分かればいいのだが。ただ、約20日前って、だいぶ前だからなあ。
ということで、マーハ商店で話を聞いてみる。
「実は、前にもそちらに来ていた、第十警備分隊の副分隊長の息子、ええ、ローウェル隊員がちょっと悩み事に巻き込まれていまして。」
「ほうほう、その悩み事解消にダン様が動いていらっしゃるということですね。」
「全くご推察の通りです。で、一件だけ、フラグの件でここで警備隊の方とで2回目の打ち合わせをした日の売り上げの帳簿を見たいのですが、よろしいでしょうか。」
「うーん、帳簿は…、ダン様の頼みでも難しいかと。」
「そうですか、いえ、大丈夫です。無理を言う気はありませんので。でしたら、店員の方と少しお話をしたいのですがよろしいでしょうか。」
「わかりました。でしたら、当商店の主席番頭と話してみてはいかがでしょうか。販売の対応を主にしておりますので。」
「ありがとうございます。」
「ちょっと呼んできます。」
そう言って、主席番頭のジャオさんという方が呼ばれてやってきた。
「すみません、忙しいところをお呼びだてして。一つお尋ねしたいのですが、約20日程前、ええ、当商店で俺たちと警備隊で2回目の打ち合わせをした日です。その時に2人連れの女性の買い物はなかったですか。時間は打ち合わせ開始前から終わった後です。」
何か手掛かりの一端でも、と思いながら尋ねてみる。
「ふーむ、なにぶんだいぶ前のことですから。確か、警備隊の方と店内で接触して、商品を落としてしまっていて、警備隊の方が拾い上げていた後、少々お話をなさっていたのは目にしましたが。」
「その女性達はどんな感じでしたか。」
「一つだけ言えるのは、その二人には主従関係があるような感じでした。あと、かなりの上流階級ではないかと。買ったものもなかなかの逸品でしたし、女性の一方には気品がありました。ただ、私も思い出せるのはこのくらいで。この程度の話で大丈夫でしょうか。」
「ええ、ありがとうございます。十分でございます。」
いろいろ聞き出せればいいが、俺の腕ではこれ以上は無理だろう。どうやら俺には、この異世界での名探偵は無理なようだ。
「ジャオ様、ダホン様、誠にありがとうございました。」
そう言って、マーハ商店を辞することにした。
あとは、書籍を扱う版本店へ向かう。版本店とは、前世でいうところの本屋みたいな店だが、印刷業も兼ねている。とは言っても版木による印刷と、木製活字による活版印刷で書籍等を製造している。いや、製本というべきだったか。とりあえず、街で大手の内の一つの版本店へ行って、出版元について聞いてみる。
「ほう、このメモの出版元は確か、ジューノシティの版本店ですな。」
版本店のベテラン店員はあっさりと断言した。
ジューノシティは確か俺たちのいるサンイーカー国とエイカットシン国の国境付近の街だ。
版本店を出て、一旦組合本部の部屋に戻る。ジューノシティまで行くとすると費用やらを考えなくては…
「ねえ、ダン。ジューノシティへ行って、あの詩を歌ってみたら。」
メムがとんでもない案をぶっ込んで来た。
「詩を歌にするって、俺に何とんでもないことやらせる気ですか。実際、俺の音痴は治しようがないって、あなた思いっきり匙を100本くらい投げたような気がするのですが。」
あまりの無茶振りに、俺は動揺が隠せない。
「いや、私が治すのではないから。意外と歌っていくうちに音痴が治るかもしれないし。実戦で鍛えれば意外と成果が出て良い方向に行くかもしれないわ。」
「無茶振り、無責任、無計画の三無主義じゃないですか。これで恋患い問題が拗れたらどうするのですか。ローウェルだけでなく俺へのダメージもデカすぎますよ。」
この作戦は絶対ダメだ。
メムは結局、言うだけ言い放って、そのまま自分の寝床に入ってしまった。
翌日、費用の相談をしにギルド受付へ行くと、費用は警備隊総隊長の負担での依頼となったことを告げられた。俺が受け取る代金は、うまくいけば、
「20万クレジットですか。なかなかの大金ですね。でもうまくいかなければ、5万クレジットですか。でも人探しに警備隊がここまでするとは、何故でしょうかね。」
「多分、推測ですが、こういう形ですが一種の福利厚生と考えて、人員をここまで大切に扱おうということではないかと思います。まあ、もしかすると、警備隊総隊長に何か深い考えがあるのかもしれません。あと、費用負担については交通費と調査先の食費、宿泊費を定額支払うことになります。あまりおかしな費用については、後日、警備隊総隊長と話し合うことになるかもしれませんので、ニシキ様ご承知おきください。」
「そうですね、常識の範囲内の費用でということですよね。あと、確認なんですけど、商隊の護衛のような依頼とかは現在ないですよね。ちょうどこのタイミングでジューノシティに行くような依頼とか。」
「残念ながら、今現在、そのような依頼は…。」
確かに、そもそも、ある程度の隊を組むのだから、そうそう上手いタイミングではこない依頼ではある。
次に、遠距離移動等の費用に悩みつつ、かつメムの言ったように、ジューノシティで詩の唄いながら人探しをすることも頭をよぎり、そうなる恐怖に怯えながら再度マーハ商店を訪問する。
おや、商店の前を行ったり来たりしている見慣れない奴が。
(ええと、ねえ、ダン。最近は、店前を行ったり来たりするのが流行っているのかしら。)
(そういうわけではないと思いますが。)
フードを被っているのでよくわからないが、行き交う人々も、ケッタイな者を見る目でその人を見ながら通り過ぎて行く。
こっちも思い切って声をかけてみるか。
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