第35話 ダンジョンデートは魔物見て回るに限る
「ここがダンジョンのコア。リオが見ていたらしきとこだよ」
「すげ——————」
他愛無い会話しながら歩くこと十分ほど。
オレ達はダンジョンのコアに辿り着いた。
「紋様と柱まで………!」
力がまるで入れてない『カノ檻』のダンジョンではあるが、名目上はダンジョンだ。
画面越しで見過ぎて飽きちゃったって言えるシニアの街並みも実際目にするとインパクトが違う。
一度しかお目にかかれないCGが目の前に広がっている。
優越感にも似た謎の感情が胸中を占めていった。
それだけではない。
ここまで続く途中、一度も目にしてなかった魔物があちこち配置されていた。
アレーナが言っていた通り、動きを止めたままだ。
「リオ」
「ああ」
「物凄く楽しそうだよ?」
「幸せ過ぎて泣きそうだぜ今、アレーナのおかげだ」
「えっ、ふぇっ………??」
ラノベの主人公みたいなセリフがまろび出たのが気にならないくらい夢中になっている。
やばい。
ドーパミンがドバドバ出過ぎてて現実感がなくなりそう。
「なあアレーナ」
「な、なな、何、かな?」
「紋様のとこまで近づいてみてもいいか?」
「い、一緒に行くからいいけど………」
「その前にね? あの………完全に抱きしめられてて動けない、かも、だよ?」
「あっ」
本当だ。
なんか視界がはっきりしないしアレーナの声もやたら近いと思ったら興奮のあまり抱き着いてたか。
『リオにマーキングされちゃったどうしよ? 元々リオ以外なんかどうでもいいし何だったら道端の石ころの方が価値あるって思ってたけどマーキングまでされちゃったら一分一秒離れる方が罪だよね? そうだよね? うひっ、リオの全力抱擁………』
「と、とにかく行こうよ。はは、あはは………」
「はいっ♡」
なんか自分で自分の首を絞める結果になった気がするけど気のせいだよな。
「紋様の前に魔物も一通り見て回った方がリオの好みじゃないかな」
「お、そりゃ盲点だった」
再び恋人繋ぎで右手にリオの感触に包まれる。
万一に備えるためだろう。反対の手のひらにアレーナが炎魔法を浮かせている。
手始めに近くの魔物に近づいて観察する。
足は二つの直立二足歩行方の魔物。
筋肉がない代わりに片手に武器らしき物を握っている。
「これはニブキンだね。筋肉がなさそうでひ弱そうな見た目だけどすばしっこいのが特徴だよ」
「へー見た目通り、俊敏さと早さが売りなのか」
外見だけ見るとRPGの始まりの村などに配置されそうだが、一番の違いは他でもない性別だ。
どう見てもメスだ。
しかもかなり可愛い部類に属する顔立ち。
「仲睦まじい異性パーティーだけ襲って女性の前で男性冒険者を犯すのが特性だったね」
「えぐすぎるだろ。精神攻撃型かよ」
「………殺しておいた方がいいかも」
「襲撃もできないしやめれ」
そこら辺のオブジェのようになったニブチン? を置いて次に進める。
次の魔物は四足歩行のザ・魔物っぽいやつだった。
「これは?」
「これはノイだよ。身体と尻尾がそれぞれ別の魔物が結合しているのが特徴かな」
伝説の妖怪と言われる鵺のような見た目をしている。
名前と見た目がちょっとちぐはぐするような………。
「見た目通りのそのそしてるけどこいつの厄介なところは精神感応の魔法が使えるってところかな」
「まやかしとかを見せつけて隙をついて攻撃するとか?」
「ううん、仲睦まじい夫婦しか狙わないよ。妻だけ精神世界に閉じ込めて対象の姿に成りすまし、夫とのひと時を見せつけてから殺すらしいよ?」
「ダンジョンってかここカップルか夫婦の敵しかないか——————」
『カノ檻』が女性向けのゲームのせいかとにかく女子が嫌がりそうないやらしい設定だ。
なんて、動物園デートの感覚でアレーナとダンジョンデートを堪能した。
最初の二体がやたら個性的な奴らだっただけで、紋様に続くところどころに配置された他の魔物はどれもファンタジーって言ったら出て来そうな攻撃型魔物ばかり。
魔物がうじゃうじゃ湧いているほどでもないが後半はアレーナも知識がない魔物が多いのか見る側に回り、後半はすっかり感想会の気分で感想の言い合いになっていた。
「やっと紋様に着いたな」
「だね。思ったより結構かかったけど楽しかったよ」
直線道では十分弱かかるくらいの距離だろう。
それが色んな魔物を見て回りながらゆっくり進めた結果、体感三十分くらいかかったわけだ。
ま、実際のところもう少しかかった可能性もあるが楽しかったからプラマイゼロってとこだな。
時間で思い出が買える。これがデートのミソだ。
「すごいな………」
一度しか使われず忘れ去られた背景CGなのに異様に凝ったクォリティーの高さで男性プレイヤー側から『惜しい』とか『ダンジョン攻略要素組み込んで次回作作って欲しい』などの声が結構上がっていた。
間近で見るとまさに壮観だ。
景色に圧倒されるってこういうことを言うのか?
「道続きでは何もないのにここから見ると真ん中の魔法陣と柱、何も配置されないところが返ってカッコいいって冒険者たちからも絶賛されてるよ」
「この紋様、やっぱり魔法陣だったのか」
ってことはシニアの冒険者たちのほとんどはここにやってきてコアから湧き出た魔物を獲っている設定か。
設定が多少ガサツな気はやっぱ否めないが、所詮は悪役令嬢ゲームだ。
そこまで力入れる必要なんてなかったんだろう。
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