第40話 心のどこかで望んでいた一日

「美味しかった………」


さすが本作の主人公、フェリナが認めた料理ってところだ。

彼女の説明通り、もちっとした歯ごたえにまろやかな食感、口の中で踊るように広がるこちらの世界でしか味わえない香辛料のハーモニー。

まさにザ・異世界の肉料理に味覚と胃袋が喜びのあまり暴れまくっている。


デートということも忘れてただただ夢中になってかっついちゃうくらいの美味しさだった。

さすがに二人に失礼なんじゃ………と思って顔を上げたら何故か頭を撫でられた。

さすがにちょっと納得いかないぞ。


「では次はどこ行こうかしら? リオ」

「リオの行きたいところどんどん言ってね。イベントが見たいかな? それともまだ見たことないところに行ってみたいの?」

「そうだな………」


顎に手を当てながら思考にふける。

デザートの喫茶店(正確には甘味処みたいなやつ)に立ち寄って『カノ檻』のデザートも堪能したいところだ。

けど腹がはち切れる寸前で無理だ。


それにアレーナはああ言ってくれたものの、検証もしたしせっかくのデートでわざわざイベントに向かうのもちょっと違う気がする。


「特に思い当たらないな。二人はなんかやりたいことあるか?」


ここは彼女たちの意見を伺うのがスマートなところだろう。


「リオがしたいことを一緒にやりたいかしら。リオの好み一つ一つ教えて貰うのもありね、あなたの好物ひとつわかるだけで身体中の細胞が喜ばせてあげたいって言ってるのよ?」

「僕も同意見かな。キミの色にもっと染まりたいって身体が悲鳴あげてるよ」


思ったことそのまま言ってくれるのはありがたいけどちょっと、いやかなり重い。

二人も特にこれといった希望はないって感じか?


「特に希望もないらしいしちょっと散歩しようぜ。シニアの隅々まで見て回りたい」

「ええ」

「行くよー!」


次の指針が決まり、食堂から離れて夕暮れに染まるシニアを一通り見て回る。

なんてダンジョンに行ってきたオレにはキツイだろうと判断した彼女たちに連れられるがままシニアが一望できる場所にやってきた。


「スゲー………」

「ここはシニアの全様が見渡せる場所よ」

「満足してくれたかな?」


左腕に頬まで抱きついてくるフェリナと右手を恋人つなぎで繋いだアレーナから感想を求められる。


「大満足どころじゃない………一生の思い出が出来た。ありがとう、二人とも」


夕暮れに染まるCG差分の比じゃない。

街中に染まる夕暮れと伺うように浮き上がるシニアの象徴の二つの月。

見慣れないファンタジーのような服装に身を包むシニアを構成する街の人たちがほのぼのとした薄紅色に染まりゆくこの景色は一生忘れることはないだろう。

それをプレゼントしてくれた二人に感謝してもしきれない。


「じゃあ、帰るか」

「本日はお楽しみいただけましたでしょうか。ご主人様」

「っ!?」


絶景に呑まれてちょっと涙が出そうだったんでなるべくクールに締めくくろうとしたところ。

背後から突然声がかけられてビクついてしまった。

声色でエナドリってことは察したけどなぁ。

ここにきて背後から声かけられるのはあんまり慣れてないからなぁ。


「あ、ああ。終わったよ」

「大変ご満足いただけたみたいで私も嬉しいです」


まるで全体を見ていたかのような言いっぷり。

今更驚いてたまるか。

さしずめオレに認知できないよう周りから見守っていたところか。

見守るというかストーカー行為に違い気がする。

左右の腕を我が物顔で占領している二人からは特段驚いた様子はない。

位置共有で把握していたってところか。


「では帰りましょう。デザートは私の方からそこの発情した二匹の私財で用意させていただきました」

「はあ? 勝手に人様の金に手をつけてリオに餌付けしようするのはどういう了見かしら。本当に殺されたいみたいね」

「誰が発情したのかな。リオが寝付いた後、こっそり侵入しようとしたのはどこの誰かな?」

「………っ、正当な権利です。メイドとしてご主人の夜伽に参加するのは常識です!!」

「またこういうオチか………」


エナドリに攫われた後、帰宅する時と同じオチに苦笑いが口から漏れる。


「せめて余韻にふけったままデート終わらせて欲しい」


なんて愚痴りながらも心のどこかでこの生活がかなり気に入っていると思っている辺りオレも末期なのかもしれない。


「どこまでもついていく、か」


嬉しいこと言ってくれるじゃないか。

今度はオレから一緒に行こうって誘ってみるのもアリかな。

言い合いという名の殺し合いが始まりそうな三人を尻目にさっきは言い出せなかったある場所を脳裏に浮かばせながら、次のプランを立てるのであった。

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