第41話 ダミーデータ

「ソラシスに言ってみたいけどさ」

「唐突ね」


ある日の昼下がり。

デートしたあの日、口にした魔物肉料理が忘れられずフェリナにお願いしてみたら待ってましたと了承してくれた。

そこで『ご主人様の口に入れるモノは私を通すか私の手作りじゃないと任せられない』と聖なる何かが冒涜されたかのような顔で反対してきたんで、ちょうどいい機会って受けて立つ流れになった。


胃袋と口が自分一色に染めたいって出まかせじゃなかったのか。

けどちょうど魔物肉やら他の香辛料やらだけ綺麗にストックが切れていたんで泣く泣く料理バトルがパーになったのがついさっきの出来事。

空気がメチャクチャどんよりしてたので空気の入れ替えついでに提案したわけだ。

何かある時に提案してみんなで出かけようとここ数日、隙を伺ってたけど今がそのタイミングだろう。


「二人ともへこんでるんだろ? 行ってこようぜ」

「ねえねえ、僕もへこんでるよ? 具体的には君に料理禁止されてへこんでるんだけど僕には何かないのかな」

「怖いこと言うなよ一気にオレらまとめて逝かせる気が!?」

「なんで辛辣なのかな!? 僕何かした!? ねぇ!!」


バカみたいな冗談は裏設定だけにして欲しい。

浮気した挙句、グサッと刺されて死ぬならいざ知らずだが最愛の人へ送る料理のていで殺されるのはごめんだ。

アレーナルートのバッドエンド、毒見(ガチ)シーンが一瞬脳裏をよぎり本能的に彼女から数歩引き下がる。


文句ダラダラで部屋着のスカートもどきに縋りつくアレーナをついさっきまでいがみ合ってたフェリナとエナドリが苦笑浮かばせながら必死に食い止めてくれている。

厨房任せる側にも何かあったのか………。


「ソラシス行くのはいいけれど………急にどうしたのかしら」

「そこまで遠く離れておりませんので今からでも向かうことはできますが、どうなされたんですか? ご主人様」


駄々こねモードアレーナはさすがに手に負えないのか話題、無理矢理変えたな。

まあいい。

よくぞ聞いてくれた。


「一度も見たことないとこだから行ってみたいんだよ」

「見たことがないって直接の話ではないわよね。それって」

「ああ、その通り。マジで見たことがない」


ゲームプレイする視点の話がしたいんだろう。

『カノ檻』の公式背景CGにソラシスは含まれていない。

ミウルートで一度だけ言及されるものの、他愛無い会話のワンシーンなので記憶に残るはずもない。そもそもルート内容が全く覚えてないんだぞこっちは。

プレイの視点の話だけなら見たことがない。

ならどうやって思い出した上に行きたいなんて口にしたのか。


「使い損なわれたファイルの中に入っていたんだよ。ダミーデータって言うんだっけ?」

「ダミーデータ?」

「こっちで例えるならそうだな………フェリナの実家、王城にはいくつもの魔導書があるよな」

「ええ。図書館とか比じゃないくらいびっしりと敷き詰めてあるわ」

「その中の本の中には入ってないけど実際使われていた、あるいは使われる前提で開発された古代魔法ってところだぜ」

「「「——————!!」」」


なるべくこっちの情緒に合わせてダミーデータってやつを説明したから内心不安だったけど、三人同時に目が開いて息を呑むところを見ると上手く伝わったみたいだ。

思考の盗聴もあるしまあどっちも功を奏したらしい。


「それなら行くしかないわね。わたしは賛成よ」

「ご主人様の傍こそメイドの居場所。どこまでもお供いたします」

「僕はもちろんいいよ。リオの見たい物が一緒に見たいもん」


さっきまでのどんよりとしていた空気が馴染みある楽しいモノへ変わってくれた。

もうすっかり浴び慣れた執着めいた視線がオレを飲み込まんばかりに集中砲火する。

うん、パーティーはこうでないとな。


「じゃあ、行くか!!」

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